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名文引用箱

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読んだ本の中から名文を引用し箱の中に放り込んでゆきます。
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#文学

名文引用箱

《まだ自分自身、何者でもないといっていいあなたが、同じように何者でもない人を嘲る理由なんてありはしないわ。自分も運命と闘っている、他の人もその人なりのやり方で闘っている、それでいいじゃない》(ローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』)

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《「本当に申し訳ありません」男は名刺を差し出しながら言った。「さいわい、保険に入っていますので」「それで片がつくとでもお思いで? それで片がつくとでもお思いで? それで片がつくとでもお思いで?」》(ディーノ・ブッツァーティ「現代の地獄への旅」)

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《ベケットの選びとった極度の主題的・方法的狭さと貧しさが、反転して演劇や小説というジャンルに対して広やかで豊かな光を投げることも事実なのである》(高橋康也『サミュエル・ベケット』)

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《床にこびりついたチューインガムでも剥がしているのだろうか、と思って目を凝らしてよく見ると、男は電気剃刀で、床の一部に生えたヒゲを刈っているのだった》(多和田葉子「光とゼラチンのライプチッヒ」)

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《「やあ。やあ。やあ。どうも。どうも。どうも。どうも。田中です。田中です。田中です」》(筒井康隆『YAH!』)

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《しかし私にあってどうしようもないのが、ついつい物事やエピソード、登場人物、段落を加えたり、分岐させたり、派生させたりしてしまうこの偏執なのだ。きっと不安に感じてしまうのだろう。基本的なものだけでは不十分ではないかと恐れるのだ。》(セサル・アイラ『文学会議』)