【頂への挑戦】『サッカーは”人間がする”スポーツの再認識』~2023シーズン総括~
期待感に満ちて迎えた2023シーズン
期待感に満ちて迎えたシーズンだった。
昨季にクラブ歴代最高の3位(勝点72も最多)という好成績を残し、主力のほとんどが残留し、ポテンシャルを秘めた若き力が加わった。
個人的にもキャンプを含むプレシーズンの取材も初めてだった。シーズンの開幕に向けて、どのように準備を進めていくのか。チームが始動してからの様子を目に焼き付けようと、気になったこと、印象的なことをノートに殴り書きながら追いかけた。宮崎キャンプでは練習試合で鹿島、熊本、甲府を相手に勝利を重ね、今季から取り入れた“繋ぐ力”を着実に身に付けていく。上々の仕上がりを見せるチームを見て、心が躍った。
2月18日、ヤマハスタジアムで期待が確信に変わった。J1から降格してきた磐田を相手に、立ち上がりから主導権を掌握した。[4-4-2(中盤ダイヤモンド)]と[3-5-2]を使い分けながら相手のプレスを外してパスをつなぎ、既存戦力と新戦力が融合したチームが躍動する。水戸から加入した鈴木喜丈(水戸から加入)がボランチの位置に入る「喜丈ロール」が相手をかく乱し、左SHの佐野航大が相手選手を突破していく。プレシーズンで絶好調だったヤング2トップの櫻川ソロモン(当時21歳/千葉から期限付き移籍)はフィジカルを、坂本一彩(当時19歳/G大阪から期限付き移籍)はテクニックを存分に発揮し、血気盛んにゴールに向かう。
そして、CKの流れから櫻川が押し込み、坂本が強烈なシュートを突き刺し、GKからスタートしたビルドアップから最後は佐野がトドメの3点目。2-3での強敵撃破は、準備期間で得た自信が結果につながる会心の勝利となった。冷たい空気が頬に当たる中、スタジアムに詰めかけたサポーターが熱狂した。僕もアウェイ席で「今季は違う」と鼻息を荒げた。“J2の頂”を目標に掲げたチームは胸を張って今季をスタートさせた。
主力不在と打ち砕かれた自信
清水を迎えた第2節のホーム開幕戦はスコアレスドローに終わった。しかし、前売りチケットが完売し、15,695人がシティライトスタジアム(以下:Cスタ)を埋め尽くす圧巻の雰囲気の中で行われた。開幕戦に続き降格チームとの連戦だったこともあり、格上から勝点4を獲得したことは悪くない。いや、むしろ上出来に思われた。
しかし、その後は勝ちきれない試合が続く。主力を担った佐野と坂本が世代別代表の活動で離脱する試合が生じ、昨季に16得点を決めたチアゴ・アウベスもケガで出場できない。戦力が揃わない状況での戦いを余儀なくされると、第5節・甲府戦で積み上げてきた自信が崩れた。自陣でのビルドアップにミスが発生して先制点を許すと、打ち合いの試合を2-3で落とした。
自陣ゴール前でパスやトラップのミスが起こり、相手に奪われて失点する。これは今季から着手した“繋ぐサッカー”の成熟においては避けて通れない道だ。取り組み続ける中で、いつか起こることで、それは織り込み済みだと思っていた。成長の糧になる要素だと考えていた。だが、頭では理解していても、納得できないものもある。試合に負けたくない、ミスをしたくない。J2優勝の目標と照らし合わせ、現実的な思考が体を縛る。勝負の懸かった公式戦の特有のプレッシャーも足を引っ張るように、相手を見て柔軟にプレスを剥がす躍動感は影を潜めていった。
さらに追い打ちをかけたのが、相手のゴール前と自分たちのゴール前での勝負弱さだった。試合の中で主体的にチャンスを作るも、最後にネットを揺らせない。多くのシュートチャンスがあった櫻川は、序盤戦に得点を量産できていれば違う未来が待っていたはず。チームを勝たせるストライカーになると意気込んでいたが、厳しいマークを受ける21歳には大きな重圧がのしかかっていたのだろう。守備では最後の局面での緩慢さが見られ、ゴールを守り切れない。主将の柳育崇にも失点に直結するミスが起こり、うまくいかない悔しさと責任感に苦しんでいた。チームは上向くことなく、第6節・千葉戦(△1-1)から第11節・山口戦(△1-1)までの6試合を連続で引き分ける。勝点3が1になるような試合が多かった印象で、序盤戦の足踏みは痛恨だった。
目標と現在地、結果との向き合い方の難しさ
中盤戦は外国籍選手が力を発揮して、勝てないけど負けないチームは少しずつ勝利を掴めるようになっていく。第12節・秋田戦(○1‐0)では87分にヨルディ・バイスがPKを沈め、第17節・群馬(○2-1)では85分にルカオのオーバヘッドキックでのパスからステファン・ムークがボレーシュートを突き刺した。チアゴも第14節・町田戦(△1-1)で値千金の先制点を奪取。強烈な個の力で違いを作ってほしい外国籍選手たちが頼りになる働きを見せた。
それでもこのまま浮上することはできなかった。ターニングポイントは第20節・東京V戦。納得のいかない主審の判定にフラストレーションを溜めたチームは精彩を欠き、逆転負けを喫す(●1-2)。試合後にはスタジアム全体からピッチをあとにする審判にブーイングが飛び、温かい雰囲気でお馴染みのCスタが異様な空気に包まれた。
競り負けた試合を経て、チームは再び勝てなくなる。課題は、“決める、決められない”の部分。サッカーは相手がいるスポーツであるため、どれだけ自分たちが最高のプレーをしても、成功を収めることができるとは限らない。だが、勝利を手繰り寄せる握力が足りなかったことは確か。ボール保持、ボール非保持、攻守の切り替え。全ての局面で相手を上回ることを目指したチームは、着実に力を蓄えていったものの、拠り所となる突き抜けたものを作ることはできず。勝てない=結果が出ないという状況の中、優勝、昇格を目指すチームにはプレッシャーがかかっている。目標との現在地、結果との向き合い方は非常に難しいものだっただろう。
それは外から見ている自分もそうだった。1試合ごとの結果に気持ちが振り回され、一喜一憂する。勝てばうれしいし、負ければ悔しい。当然のことだが、その波が大きくなり、次第にマイナス方向に引っ張られていった感は否めない。
「キャンプでは、あれだけ調子が良かったのに」。
「開幕戦では磐田を圧倒できたんだから、まだまだこんなもんじゃない」。
「このチームは、もっとできるし、もっと勝てる」。
プレシーズンの仕上がり、開幕戦での躍動を思い起こし、“今”から目をつぶって無意識に幻影を追いかけていた。
サポーターのSNSの反応を見ても、次第に落胆の声が増えていったように思った。結果が出ていないため、当然か。SNSの性質上、仕方のない部分もあるし、それに左右されるのも良くない。ただ、批判的な意見は少なくなかったように思うし、決して許してはならない誹謗中傷とも読み取れる公式アカウントへの投稿もあった。ピッチ内外に限らず、結果に大きく振り回されていた。
最後まであきらめない気持ちが導いた4連勝
苦しい時間を過ごしていても、誰一人としてあきらめなかった。ピッチで戦うチーム、スタジアムやテレビで声援を送るサポーター、チームを支えるクラブスタッフ。それぞれの立場で、目標のためにできることがある。チームは日々のトレーニングをひたむきに取り組み続け、全力でプレーする。サポーターは試合終了までチャントや手拍子で後押しする。クラブスタッフは機運を高めようと、グッズの配布を実施して観客動員を増やす。ファジアーノ岡山に関わる全ての人が総力を結集すると、チームは勢いを取り戻した。
第31節・大分戦(〇1‐0)から第34節・仙台戦(〇1‐0)で4連勝を達成。その期間ではホームで苦杯を飲まされた東京Vを2‐3で下している。第25節・徳島戦(△1-1)から採用した[3-5-2]のシステムも機能した。柳、鈴木、本山遥の3バックが攻守に安定感をもたらし、WBの高橋諒と末吉塁(夏に千葉から期限付き移籍)が推進力を発揮する。また、仙波大志(広島から期限付き移籍延長)、田部井涼(横浜FCから期限付き移籍)といった中盤の若手も成長を見せ、特にボール保持面での貢献によって欠かせない存在になっていく。さらに、後半途中にルカオとムーク、木村太哉らを投入する采配も的中した。苦しみながら、もがきながらも積み上げてきたサッカーと選手の成長が融合して、勝てるチームになっていった。
背骨から折られた勢い
しかし、またも勢いは打ち砕かれる。好調のチームを体調不良という魔物が襲った。第35節・山形戦では、絶対的なDFリーダーへと成長を遂げた柳をはじめ先発が続いていた4選手が欠場するアクシデントが発生。2‐0で敗れ、クラブ最多のリーグ戦5連勝を達成できなかった。
大きなダメージを負った一戦から1週間後、チームはリバウンドメンタリティを発揮した。第36節・磐田戦(〇2-1)で開始早々に先制されるも、鈴木と柳が得点を決めて今季初の逆転勝利を達成する。プレーオフ進出に向けて、力強く歩んでいく。その第一歩だと思った。しかし、第37節・千葉戦(●0‐5)で力の差を強烈に突きつけられ、背骨から勢いを折られた。
再び積み上げてきた自信は木端微塵に吹き飛ばされたのか。チームに勝負弱さが戻ってきてしまう。両チームのゴール前で力強さを発揮できずに群馬、山口、栃木と引き分けて、プレーオフ進出の可能性が潰えた。残り2試合でも白星を飾れず、5試合未勝利のままシーズンが幕を閉じた。J1昇格は来季以降に持ち越しとなった。
昨季以上の悔しさ
1位を目指して挑んだシーズンは、10位(勝点58、13勝19分10敗49得点49失点)で、とても悔しいものになった。開幕前の期待値や掲げた目標を考えると、昇格にあと少しまで迫った昨季以上の落胆かもしれない。リーグ最多の19引き分けが表すように、勝ちきれない試合が多く、モヤモヤすることも多かった。
サッカーは“人間がする”スポーツの再認識
それでもチームは目標に向かって1年間を全力で走り続けた。彼らは大きなことを成し遂げようと、毎日努力を重ね、試行錯誤し、全力を注いだ。プロである以上は結果を求められる。結果を出すか、出さないか。それで評価される。分かりやすくも、厳しい世界だ。そのような“生きるか、死ぬか”の世界で戦っているからこそ、今年はより大きな重圧を受けていたのではないか。昨年以上の成績を出すことに対する周囲からの期待、今季を経て選手としてのし上がっていく自分に対する期待をはじめ、キャリア史上最も大きな目に見えないプレッシャーにさらされていた選手も少なくなかっただろう。
“J2の頂”を掲げた今季の編成は、力のある外国籍選手とポテンシャルを秘めた若い選手が中心だった。外国籍選手が昨年のように“違いを見せる”パフォーマンスを発揮できたとは言い難い。若い選手も確かな成長を見せたが、余地がないほどだったとは思わない。仕方のない部分ではあるが、目標達成において不確定要素が大きかった。
今季を振り返ってみても、決して力がなかったわけではないと思う。しかし、力の最大値を出すことができなかった。1年を通して安定した強さを発揮できなかった。強大な力を有していても、必ず発揮できるとは限らない。可能性があっても、順調に大きく成長できるとも限らない。それにはタイミングもあるし、きっかけもあるし、運だってある。
「あのとき、あのシュートが決まっていたら」。
「あのとき、あの失点を防げていたら」。
そのように思い返す、ターニングポイントは何度もあった。
昨年からサッカーのスタイルを変更した。戦術も変わった。いろんな要素があるけれど、ピッチで戦う選手、監督は人間である。それを応援するサポーターも心を持った人間だ。ピッチ状で示すことがプロの務めではあるが、目に見えるものが全てではないし、それぞれの立場で成功と失敗に板挟みされながら奮闘している。何が自分たちを成功に導き、何が失敗に引きずり込むのか。それは誰にも分からない。だから、サッカーにはドラマがあり、感情が動かされる。1年を通しての一喜一憂が、生活に彩りを加えるのだと改めて思った。
今季の結果は残念だったが、個人的にも非常に悔しかった。急きょ入院することになり、シーズンを通して取材を続けることができなかった。病室で試合を欠かさずに見ていたが、本当の意味で一緒に戦いきれなかったと思っている。突然、望んでいなかった状況が訪れ、「~したい」という気持ちが断たれた。入院中はファジアーノのことだけでなく、これからの仕事のこと、人生のことを含め、いろんなことを考えた。心身ともに辛いときは、生きる希望を何に見出せばいいのか分からなかった。それでも、ファジアーノの存在が、目標に向かって全力で頑張る彼らの姿が僕の心を照らしてくれた。だから、今はこの文章を書くことができている。良くも悪くも、何が起こるか分からない。“人が生きる”人生は不確定要素で成り立っていることを痛感させられた。
不確定要素を楽しみながら目標達成を目指す来季
これも一興なのかもしれない。うまくいくこと(とき)も、うまくいかないこと(とき)もある。それは人生だけでなく、サッカーが持つ面白さの一面でもあるのだろう。ピッチ内を見ても、ピッチ外を見ても、自分の心に尋ねてみても、そう思った。改めて、サッカーは人間がするスポーツなのだと。
2023シーズンに味わった悔しさをバネに、J1昇格の目標に向かって2024シーズンを力強く歩んでいく。ひたむきに悲願達成を目指すチーム、クラブの姿を想像する自分がいる。何が起こるか分からないから面白い。来年も不確定要素に振り回されるかもしれない。でも、構わない。それを楽しみながら、1年間を通して取材を続けたい。そして、J1昇格の瞬間をスタジアムで味わいたい。それが僕の目標だ。