
やってと言うから召喚してみたら
私は今からとある儀式をする
亡くなった親友を召喚するのだ
彼女とは小中高とずっと一緒で
社会人になってからも年に数度は旅行に行き
たまに会っては色んな話をした
それこそ恋バナや将来の事、くだらない雑談も
親にも言えない秘密だって打ち明けられた
そんな彼女から病気だと告げられた時
私は一人ぼっちにされた気がして恨みさえ覚えた
それでも最後まで一緒にいたくて
もう取り返しのつかない病に悲しみを隠し
痩せていく親友を前に明るく振る舞った
親友が息を引き取る半月ほど前
お見舞いに行った病院で彼女は言った
「部屋の引き出しにあるノートを見て」と
その時はすでに病気も進行していて
お互いサヨナラをする覚悟も決まっていた
家が近いのと彼女の両親とも仲が良かったのもあり
主のいなくなった部屋に私は招かれた
部屋はまだ生活しているかのようにそのままで
ベットに座り、しばしの物思いにふける
そして机の引き出しを見た
私宛のノートが置かれていた
そのノートが今目の前にある
彼女が見て欲しいと最後に私に託した物
普通の大学ノートに書かれていたのは
死者が呼べる方法だった
ネットか何かで調べたんだろう
それは一種の降霊術みたいな物で
残された人が死んだ人を召喚出来ると言う
その方法が事細かに書かれていた
気になって私も軽く調べてみると
確かにそう言う方法は昔から存在をしていて
成功するかどうかはともかく興味を持った
お互いにオカルトめいた話も好きだったし
彼女もきっと、空の上から
呼ばれるのを心待ちにしているに違いない
本来はもっと小難しい手順で
呪文や呪符や動物の生贄などなど
現代だと手間がかかる物ではあるらしいが
書かれていたのはかなり安易なやり方だった
彼女のオリジナルに変換されていた
怖さ半分、期待も半分
どうせ何も起こらないと鷹をくくりながら
私は手順通りに従って彼女を召喚する事にした
ノートを広げて必要な物を準備をする
書かれたそのままの文も載せておこうか
内容は恐ろしいはずなのに
彼女らしい可愛い文字と言葉は
実験か自由研究のようにさえ感じる
「
その1
三日間の断食をして体の中の悪い物を無くすべし
、でもお腹が空くでしょ?半日でいいよ
その2
滝行をして身を清め、穢れを取り払うべし
、でも寒いでしょ?ぬるめのシャワーでいいよ
その3
夜中の二時に、電気は消し、灯りは月明りのみ
、でも眠いでしょ?満月の夜ならいつでも良し
その4
器に香草やなんたらの草を入れて煮出して飲むべし
、探すの大変だからアールグレイにしましょうか
その5
正方形の紙に魔法陣を描くべし
、あんた絵が下手だからドラえもんで代用しましょ
その6
名前と生年月日が書かれた紙を蝋燭で燃やすべし
、火事が怖いからお腹で温めようか
その7
魔法陣の上に鳥の死骸を供えるべし
、ケンタッキーの方が匂いにつられて行っちゃうかも
その8
指定された呪文を三回唱える事
、にんげんていいな、を三回歌ってね
さすれば我、そなたの目の前に供え物を通して宿り
しばしの刻、語らい合えるだろう
」
うん、これならやれそうだ
でもさすがに一つくらいは妥協なくやりたくて
家族が寝静まった夜中の二時に決行をした
シャワーも済んでモコモコのパジャマ姿で
ドライヤーをサボったから髪は半乾きのまま
机の上にはドラえもんらしき絵と淹れたての紅茶
奮発して買った10ピースのケンタッキーバーレル
そして歌った
くまのこみていたかくれんぼ~♪
おしりを出した子いっとうしょ〜♪
何故この歌なんだ?と頭によぎりながら
二回歌ったあたりからだろうか
目の前がボーっとして頭がふらつき始めた
視界は歪み、部屋が揺れるような感覚に陥った
まるで貧血を起こした時のようだった
目の前のドラえもんがボヤけて笑い
紅茶の香りが眠気を誘う
歌っている最後の方の意識はおぼろげだった
ゆうやけこやけでまたあした~♪
まーたあした~♪
三回目の呪文を唱え終えた私は
儀式を始めた時とは違う光景に驚愕をする
明らかに目の前の様子が変わっていた
机の上に置かれていたはずの鳥の死骸が
いや、ケンタッキーが何個か無くなっていて
なんと言うことか
気づくとひとつは掴んで手に持っていて
唇は油で潤っていた
夕方から何も食べていなかったから
こんな時間に美味しそうな物があるから
無意識にかぶりついてしまっていたんだ
それが儀式の失敗を意味するのか
はたまたお腹が満たされただけなのかはわからない
眩暈は治まり視界も普通の状態へと戻っていて
でも彼女が降霊した様子は無かった
軽く声をかけてみたけど返事は無く
ただ夜中に紅茶と肉を食べただけの結果に終わった
電気をつけ、残ったケンタッキーを食べながら
降霊した彼女ごと食べてしまった可能性も?
なんて思いながらも
やっぱり何も起きなかったかと言う安堵感と
明日の体重だけが気になった
それから数週間後
私は付き合っている彼との間に
子を身ごもることになる
少しずつ大きくなっていくとお腹と共に
私の周りでアールグレイの香りが漂うようになり
もしかしたらあの時召喚した親友が宿ったのか?
なんて思いながらも
もしこの子が話せるようになったら
遠回しに聞いてみようと思う
もしかしたら私たちだけしか知らない秘密を
急に話出したりするかもしれない
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