裸の心を盗み見る
戸惑っていたのは
相手がアンドロイドだから
瞬きひとつせずに
まっすぐ目を見て話をする
小さい時から私は
人の心を読むことが出来た
些細な表情や仕草から
だいたい何を考えているのかが直観でわかった
何を隠しているとか企んでいるとか
言葉の裏にあるものが読める
ただこの相手にそれは通用しない
「あなたは嘘はつけないのよね?」
「いえ、心からの嘘ならつけますよ」
人間はみんな本音とは違う事を考えている
相手のことを思ってオブラートに包み
話しを盛ったり抑えたり省いたりする
人間関係を築くうえではとても重要なんだろうが
それを知ったうえで聞くのは気持ちの良い物ではない
例えば「可愛いね」の言葉の裏に
恋愛対象としてか雰囲気だけなのか
子ども扱いをしてるのか挨拶がてらの言葉なのか
その一言でも沢山の感情が潜んでいる
「私のことどう思う?」
とアンドロイドに聞いてみた
「とても魅力的ですよ」
「具体的には?」
「話し方が知的だと思います」
「外見的には?」
「黄金比には届かないものの美人の部類に入るかと」
「あなたの主観だとどう見える?」
「表情が豊かで親しみやすさを感じます」
「で?魅力的かしら?」
「ええとっても、一夜を共にしたい相手です」
「今のは本音じゃないよね」
「はい、喜びそうな返事をしてみました」
私は人の心を読むことに
慣れ過ぎてしまったのかもしれない
直接言葉にしない
心に留めたものの方が
いつからか真実だと思っていた
ただ時に、ついた嘘の方が本当の時もある
本音で嘘をつかれればそれが嘘だとは見抜けない
息を吐くように嘘をつく人は苦手だ
もっと苦手なのは裏表が全くない人で
心が全く読めなくて戸惑いまくる
「今日も素敵ですね」
よく仕事で会う年下の男性にそう言われた
その人の心の中が読めなかったのは
それが心からの本当の言葉だからか
もしくは何も考えてないかのどっちかだ
「そんなことないですよ」
思わず謙遜をしたのは照れ隠しの現れ
もし彼が心を読める人だったら
私がちょっぴりでも気があることに気づけたんだろう
この人はバカが付くくらいに正直で
でも不思議と人を不快にさせることはない
そんな星のもとに生まれた人
「唇ツヤツヤですね」
そう言ってまじまじと唇を見るもんだから
ちょっと目を泳がせながら
洒落た返しも出来ずに普通に答える自分がいる
「そういうリップ塗ってるんです」
人の心を見ることには慣れても
自分の本音を誰かに見られるのは
私にとって裸を見られるよりも数倍恥ずかしい
いいなと思ったら応援しよう!
![へびのあしあと](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/62151289/profile_8abfad95cae70442c08dcf6f65f25c37.png?width=600&crop=1:1,smart)