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連載:動物園が活きる道① ターゲットの細分化と目的ある営利化

ターゲットは誰なのか?

 動物園の歴史は博物館の延長として日本社会へと誕生しました。時代の流れとともにその役割は、展示からレクリエーションなどの意味合いをもち、近年は地域創生のための施設として、いろいろな地域に大小さまざまな規模の動物園が存在しています。さらに時代は進み、近年の動物園が地域創生のレクリエーションの場かというと、それ以上の役割を果たさなくていけないことは前回記事森林火災とコアラが伝えた変革の必要性でお話しました。

 役割を果たしていくために求められる動物園の課題とその改革案についてこれから連載でお話していこうと思います。

 さてもっとも明確に動物園が独自収益を見込めるのが入場料です。日本の動物園はとにかく入場料の安さが際立ちます。前回コアラの維持を紹介した天王寺動物園。大人は500円・小中学生200円という破格の安さです。さて動物園、動物園と話してきましたが、今回の舞台は須磨水族館です。入場料を巡り、これほどわかりやすい例はないからです。

 2019年9月12日に神戸新聞NEXTに新スマスイ主役はシャチ 神戸・須磨海浜公園一帯の再整備という記事が踊りました。施設内にはホテルなども併設する都市型リゾートとして須磨海浜公園と併せて改修・整備していく一大事業です。エンターテイメント(娯楽)とエデュケーション(教育)を兼ね備えた施設として地元を活性化させるといいます。しかし入場料の値上げを理由に、地域住民から反対の署名活動を市に提出されるなど物議をかもしています。

 地域が楽しみながら学べる水族館として大人3,100円・小中学生1,800円は、現状から比べるとかなり高額な入場料が設定されました。ホテルなどの施設を併設し、都市型リゾートと称するなど地域外のターゲットを想定していることも見え隠れしています。この2つのターゲットに対し、須磨水族館はどちらにとっても中途半端な完成図を予想しているのではないでしょうか。ターゲットを明確に細分化し、適切な提案が出来なければどれだけ金額をかけてもいいものはできあがりません。

地域創生のために入場料3,100円で気軽にいけるのか?

 ではまずは地域の目線で見ていきましょう。新たな入場料大人3,100円、小中学生1,800円です。子供1人の世帯で考えると、家族全員で訪れるだけで8,000円が自動的にかかります。実際問題として、動物という命を預かる施設を、人にとっても動物にとっても充実した施設として維持するには決して高額ではないかもしれません。しかし週末に気軽に脚を伸ばせる施設かと言われればそうではないでしょう。

 また近年では世界的にも批判されるシャチの飼育・ショーをこれから取り入れる時代錯誤もまたこれほどの値上げをしてまで導入しなくてはいけないのかという批判にさらされた1つの理由かもしれません。動物愛護やいろいろな観点から世界でもショーを取り止める流れの中で、またシャチをショーにしようというのだから、それが教育なのかと言われれば疑問になるのも致し方ありません。

 地域の人々が親しみを持った施設とする以上、金額設定は地域の声を無視していると言われてもいたしかたありません。やはり地域に根付いていくための配慮は必要です。しかしこれまでお話ししてきた通り、生命を預かる施設として収益をあげることは必要なのです。ではどのように地域に還元しながら維持するためのビジネス要素を確保すればいいのか。

 そのヒントは、来園者の細分化。つまり地域来園者と県外来園者の差別化です。須磨水族館の新たな未来像・都市型リゾートは、この細分化を可能にする一つの足掛かりなのです。

観光施設としては安価だが「水族館」としては…

 次に県外観光者の目線です。須磨海浜公園は兵庫県一の繁華街三宮から西に約20分の位置にあります。近隣では須磨離宮公園がありますが、その他でいえば須磨海浜公園そのものしかないというのが実情です。つまり県外から兵庫県へと観光に来たとしても、大阪・京都といった関西の観光の見どころからさらに離れてしまう須磨に行くということは、須磨水族館を目的とする以外には現実的ではありません。

 にも関わらず、県外からの水族館来園には3,100円・1,800円を原則とし、地元来園者は割引されるとなれば、消費者にとっての魅力は半減します。

 シャチの飼育は西日本で唯一となりますが、これまでのイルカショーがシャチになるだけで、水族館だけを目的に他都道府県からどれだけの観光客を誘致できるのでしょうか。すでに名古屋港水族館はシャチの展示を行っており、鴨川にもシャチがいる以上須磨が出来たからといって須磨にシャチを見に来るのはせいぜい九州地方からといった想定になってしまいます。

 この時点で、他都道府県から集客を見込む施設運営としては疑問を呈さずにはいられません。このように、地域にとっては高額で県外からの消費者にとってのメリットの大きさはさほど大きくないというどっちつかずの戦略にみえてしまうのです。

 なぜ須磨水なのか

 今回のポイントは、県外からの来園者にはホテルやその他の水族館以外の施設も含めた利用を想定し、入場料も発表されている3,100円を原則とし、地元割引を実現することが望ましいということです。

 地元の週末レジャーもさることながら、動物と地元に優しく、しっかりと生命に責任を持つことができる施設づくりが求められるのです。その実現には、これまでの動物園・水族館という概念を飛び越えた、唯一無二の施設づくりが求められるのです。

 いよいよ次回からは、このような施設づくり!をテーマに、現代社会で生き残るための唯一無二を提案していきます。

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