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百年文庫70 野

野で生きる人々の話。
「野」にも色々あるのだなあと思った。同じ漢字を違う解釈や類推できる単語から引いてきていることも多いこのシリーズだけど、シンプルに「野」というテーマで、イメージの違う作品を3本持ってこれるのがすごい。

ベージンの野/ツルゲーネフ

道に迷いベージンの野と呼ばれるところへ出た私は、馬番の子供たちと一晩を過ごすことになった。やがて、子供たちのよもやま話がはじまって…

ロシアの静かでどこまでも広がる野を眼前に描き出す美しい小品。ツルゲーネフは風景描写が厚いのがいい。
話自体の起承転結はないけれど、逆にこのとりとめのなさから火の傍にいる語り手と子どもたちの空気感がリアルに立ち上がるように思える。

星/ドーデー

純朴な羊飼いが、憧れのお嬢さんと二人きりで星空を見あげた一夜を清々しく描いた小品。

とても短いのにそう感じない作品。密度はあるけれど、軽い感じもあって読みやすく明るい。手元に置いておきたいと思った文章。
ドーデーは日本では教科書に掲載されている「最後の授業」でよく知られている、と書かれていたのだけど全然知らなかった。教科書の改訂が入っているのかも。そっちも読んでみたいな。

誇りを汚された犯罪者/シラー

恋する女に貢ぐために盗みを働くようになった男の、壮絶な転落の記録。

いかにもなドイツ文学、さすがドイツ文学の雄。
ドイツ以外の文学でこういう落ちぶれ方をするキャラクターっていない気がする。
「ミヒャエル・コールハース」と「群盗」を足したような感じを受けた。
特にヴォルフが出所したあと職を得られなくて、食うに困って再犯を重ねていくところとかすごく「ミヒャエル・コールハース」っぽい。

最初数ページにわたって「この物語を書くにあたり」みたいな説明が入っているのが若い頃の文学運動に燃えたシラーっぽくて面白い。

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