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【読書ノート】『清浄島』 河﨑秋子・著

こんにちは。めぐみティコです。
普段愚にもつかない文章を適当に書き散らしているクセに、結構硬派な小説も読む部類の人間だと思っています。
(やった、挨拶文使ってみたかったの)

わたしは読むにあたり、まとまった時間を必要とするタイプの人間で、その癖読み終える前に新しい本を次々買ってきてしまうので、積読もすごく多いんですけど……
風邪で崩れていた体調も回復傾向にあり、今朝早速積読を消化したので記録していきます。

『清浄島』 河﨑秋子(双葉社 刊)


作者・河﨑秋子さんについて

最近では、直木賞を受賞した『ともぐい』が有名作でしょうか。
『ともぐい』も今回ご紹介する『清浄島』もそうなのですが、北海道出身・在住ということもあり、北海道を舞台にした作品を多く発表しています。
北海道の厳しい自然と共存しようともがき、生き抜こうとする市井の人々に光を当てる作家さんです。
わたしもすべての作品を読んだわけではありませんが、河﨑文学に誰からも愛され、認められるヒーローはいません。
ただ、己の目の前の仕事や使命に真正面から向き合う、泥臭い普通の人々がいるだけです。だからこそ、その普通の人々の、地に足のついた生き様に心打たれるのです。

『清浄島』あらすじ

風が強く吹きつける日本海最北の離島、礼文島。昭和二十九年初夏、動物学者である土橋義明は単身、ここに赴任する。島の出身者から相次いで発見された「エキノコックス症」を解明するためだった。それは米粒ほどの寄生虫によって、腹が膨れて死に至る謎多き感染症。懸命に生きる島民を苛む病を撲滅すべく土橋は奮闘を続ける。たが、島外への更なる流行拡大を防ぐため、ある苦しい決断を迫られ……。

双葉社ホームページより

読後雑感

北海道の人間は、それこそ箸もきちんと持てないような年齢の頃から、「キツネには触るな、近寄るな」「川の水は絶対に飲むな」と言われて育ちます。
そんなに幼い時分であっても、「エキノコックス」という病気のことは知っていて、どんな症状が出るかは知らないけれど、死んでしまう恐ろしい病だということもわかっています。
キツネは比較的人間のそばで生活をしているため、多くの道民にとっては、ヒグマよりも差し迫った危険と言ってもいい生物です。
道民の多くは野生のヒグマを見たことはありませんが、キツネを見たことのない道民もほとんどいないのではないかと思います。

ですが、わたしはその「エキノコックス」という言葉の裏にある先人たちの戦いも涙も苦悩も、何も理解していませんでした。
そもそも、そうした経緯があっての今なのだ、ということにさえ思い至っていませんでした。
ただ、キツネには注意していれば良いと、そう思っていたのです。

あらすじにある「ある苦しい決断」。
これがこの物語のターニングポイントになります。
こうした過去があって、今、わたしたちは「キツネには近づくな」という注意喚起だけでこの病から身を守り、北海道で暮らすことができているのです。
その意味を、重みを、しっかりと受け止めていかなくてはならないと初めて自覚することができました。

人間が人間のために事業を行う以上、人間優先で考えていかなくてはなりません。
これは宿命のようなもので、そこには必ず他の生き物の命と引き換えにしたという事実が残ります。
昨年から相次ぐクマによる人的被害とそれに伴う駆除の報道や、日航機の羽田空港の事故の際には、動物の命に関する様々な立場からのいろいろな意見が取り沙汰されました。
「人間のために他の動物を犠牲にするのか」という議論の答えは、いつも「その通りです」と肯定するよりありません。
人間はどこまでも人間主体でしか考えられないのです。
人間とそれ以外の生き物とで、はっきりと線引きをしなくてはいけません。
いつもはデレデレしながら愛犬を吸っているわたしですが、有事の際には自分の判断でその命を終わらせなければならないということ、それが飼い主の責任であるということにも、改めて気付かされます。
そして、その硬い毛のゴワゴワした感触や、その下の温かな体温をより愛おしく感じるのです。

人間の命と、動物の命は、どのような違いがあるのか。
悼まれる命と、そうでない命の差は何なのか。

答えが出そうにはないそれらの問いを、深く突きつけてくるような作品です。

おわりに

決して愉快な気持ちになる作品ではありません。
疫病との戦いを描いた作品ではありますが、決着がつくわけではなく、綺麗にめでたしめでたし、ともなりません。
エキノコックスと人間の戦いはいまだに続いていて、終わりが見えないどころか、本州の一部にも定着したと言われています。
いまだに新規の患者さんが毎年出てくる現状もあります。
それでも、わたしや愛犬が今日も北海道で暮らしていられるのは、戦い続けてくれている人々がいるからです。
その戦いの歴史の影の部分を真正面から描いた本作は、動物が好きな方、動物と暮らしている方にこそ読んでいただきたい。そして、その命の在り方を共に考えてもらえたらと思います。

最後まで目を通してくださりありがとうございました。

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