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【連載小説】平々凡々な会社員が女子高生に!? vol.23 「もろパン」

 ミユキちゃんが坂井の元へ行ったことなど、最初は気にもしていなかった。

だが、少し考えると不思議なことに気づく。


 坂井は塾初日だった。にも関わらずミユキちゃんは何のためらいもなく坂井の元へ行っていた。学校も違うのに、だ。


 当の坂井は相変わらずこちらを睨み付けてくる。

それは塾でも変わらなかった。ミキちゃんもいないのに、こっちを見てくる……


 ミユキちゃんに恐る恐る聞いてみる。

「坂井と仲がいいの?」

「仲がいいというまではないわ」

そう……と私は言葉を濁した。


 ミユキちゃんとは実に仲良くなったもので、授業中手紙を交わすまでになった。

 ミキちゃんと違って、ミユキちゃんは物事をはっきり言う方だとわかった。ミキちゃんはいつも何を聞いてもやんわりと返してくれる。それに対してミユキちゃんはズバッとスパイクのように切れのいい返事をしてくる。他人なんだから当たり前だったが、見た目から友達になった俺には正直言ってミユキちゃんは少し怖かった。


 今日もミユキちゃんは坂井の元へ何が聞きに行っている。

塾で恒例となったその様子を誰一人疑問に思ったりしていない様子だった。


 でも、俺は気になった。

「ミユキちゃん、坂井とは友達なの?」

するとミユキちゃんは大笑いしたのだ。

そこで先生が来て、雑談は終了。

 しかし、俺はさっきした質問が頭をぐるぐる駆け巡って授業どころではなかった。かろうじてノートは取り損なわなかった。

次の休み時間、ミユキちゃんの元へ行く俺。

ミユキちゃんは笑いを堪えて待っていた。

「私とマサユキ、双子の兄弟なの」

「ええぇーっ」

「二卵性だから、あんまり似てないでしょ」

「双子……」

道理で苗字が一緒な訳だ。今頃気づいた。

「塾で会うまでお互い連絡しないから、それで、毎回話に行くのよ」

「似てない……」

「マサユキは母似、私は父似だからね、全然似てないのよ。休みの日に一緒に歩いているとカップルと間違われて不満なんだけどね」

「それでか……」ミユキちゃんが坂井の元へ行くのはそのせいだったのか……

一つ大きな玉手箱を開けたような気がした。



 今日は塾の資料をみんなから集めておいてくれ、と先生から言われて、みんなから資料を集めて持っていこうとした。


 その時、つまづいて資料をばっちゃらけてしまった。しかも、両手が塞がっていたので、顔面から派手に転んだ。すると、

「おっ、黒パン」

と誰かが言って、教室内が騒然とした。

「あいつ、黒パンだってよ」

「まじで?俺も見たかったー」

この日から俺のあだ名は黒パンに……なってたまるか、ボケぇ!!

俺は資料をかき集め始めた。すると、誰かが手伝ってくれている。

感謝感激! と思い頭をあげると、手伝ってくれているのは坂井だった。

「あ……ありがとう」

俺は感謝の気持ちを口にした。

 しかし、無言で集め続ける坂井。

集め終えてもう一度礼をいうが、完全に無視された。

くそう、なんなんだあの男は!

 ミユキちゃんに愚痴ると、

「照れてるだけじゃないの?」

と言う返事が返ってきた。

「照れてるって……人がこんなに感謝の意を示してるというのに」

俺はかなり不満だったが、ミユキちゃんが

「まあまあ、落ち着いて」

というので堪忍してやった。



「黒パン」の愛称はすっかり男子内では定着してしまったようだ。悪かったな、黒パンで!紐パンとかじゃなくて残念だね。紐パンなんて持っていないけどね!せめてピンクのパンツを見られたほうがましだった……

 そうそう、女子の間ではパンツと言うとズボンのことを言うらしい。ショーツ、と言う可愛らしい名前で呼ぶらしいよ、パンツ。


 こうして塾も軌道に乗ったのだった。

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ちびひめ
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