【連載小説】俺様人生 vol.23「退院」
三日後。
俺は退院手続きとアスカを迎えに病院へ行く。
アスカもさすがに落ち着いたのか、俺を見て
「ごめんなさい」
とだけ言う。
俺はアスカの頭をくしゃくしゃにすると、
「もう二度と自殺未遂はしないときちんと約束してくれ」
と言う。
「うん……ごめんなさい」
アスカは呟くように言った。
帰宅後、アスカは俺が投げ散らかした物を片付ける。
「休み休み片付ければいいからな」
と言い残して仕事に行った。
俺はアスカに甘い。
甘やかせるから今回の事件に発展したわけだが、スタンスを変えるつもりはなかった。
今までのスタンスで、アスカは少なくともパチンコに行かないという一番大事なことができるようになった。
それが今のスタンスを変えない理由だった。
浮気だってたまたまだろうし、俺たちは何度でもやり直せる。
浮気を許す気は全くないが、普通に接していくうちによくなるだろう。
俺はそう、思った。
アスカが一段落落ち着いたところで、三回目の復帰訓練が始まった。
今度こそ!と、アスカも気合いをいれて臨む。
俺は少しだけ時間がとれるようになっていたので、送迎をすることにする。
しかし、今度こそ!と言う割にはアスカから気合いが感じられない。
一応起きて通ってはいるものの、覇気を感じない。
帰り道に毎日、今日の仕事はどうだった?と聞くが、お茶汲みとコピーくらいしかさせてもらっていないようだ。
運がいいのか悪いのか、アスカの職場には同期の女性が一人いた。
彼女が今、アスカの仕事を肩代わりしているらしく、必然的に比べられることになる。
同期の女性は篠原さん。
同期入庁のころから仲がよくて、いっしょにカラオケに行ったりしている親しい友達でもあったらしい。
最初の配属先も一緒で、彼女のミスを何度となくアスカは被ってきたらしかった。
それが再び同じ職場になって、アスカの病気がひどくなるにつれ、疎遠になってしまい、今は仕事のことで二、三言葉話せばいい程度になってしまったという。
それもあってか、
「もう行きたくない」
がアスカの口癖のようになっていた。
仕事に行かなければお給料は貰えない。
でも、そこまで嫌ならやめて他の仕事を探すという手はある。
しかし、公務員をやめるなんて選択肢は、誰も考え付かないものだった。
ラストのラストになって、また通勤できなくなるアスカ。
周りももう、諦めムードだ。
なにより、アスカが諦めてしまっている。
そんなアスカが、イラストを描き始めた。
イラストと言っても、葉書に少し落書きをするだけなのだが、これが結構可愛いのだ。
俺は早速オークションでそのイラストを販売する。
これが意外にも反響を呼んだ。
オークションで瞬く間に売れていく絵はがきたち。
アスカも大喜びだ。
次の作品にとりかかる。
アスカは、水を得た魚のように、いろんなイラストを描いていった。
猫が好きなアスカのイラストは猫が中心だ。
それにしてもうまく描くもんだ。
俺はその才能を、ちょっと羨ましくなった。
もうしばらくで第四回目の復帰訓練が始まる。
訓練が始まるに当たって、アスカから言われたことがある。
「今度の復帰訓練、うまくいかなかったら役所をやめるから」
それは大きな大きな結論だった。
アスカがどのくらい悩んでいたか、想像もつかなかった。
普通、休職は三年まで付与される。
つまりは、三年まで傷病手当てが出るということだが、それを捨てて、というのは余程切羽詰まっているのだろう。
俺はアスカの意見を尊重しようと思った。
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