【連載小説】俺様人生 vol.24「バイト」
アスカの復帰訓練が始まる。
しかし、アスカにやる気は、もうなかった。
とりあえずこなすように通勤するアスカ。
俺が送迎したり、バスで通ったりしていたが、いつもの癖が出たようで、早退して帰ってくる。
俺ももはや注意しない。
アスカのしたいようにすればいい、そう思う。
結局アスカは市役所を退職することになった。
勤続十一年。
退職の飲み会もない、寂しい最後だった。
アスカは毎日少しずつ私物を持って帰ってきた。
中にはこんなものも私物なの?という文具もあった。
アスカが仕事をバリバリしていたころの名残がたくさん出てきた。
勤務最後の日も、特にご苦労様もなく、普通に終わったという。
勤務最後の日は俺が迎えに行った。
最後の荷物を車に詰め込むと、アスカはちょっとだけ、泣いた。
退職金なんて、あってもなくても同じような金額にしかならなかった。
でも、アスカは元気になった。
ご飯も今までの倍近く食べるようになった。
アスカは元々細すぎて病弱な印象だったのが、一気に変わり始めた。
俺は収入がなくなった分働かねばならなかった。
しかし、赤星さんのところを合わせても九万円くらいにしかならず、これでは生活していけない。
元々いるオフィス光の社長に直談判をしてみる。
「ここの収入だけじゃ足りないので、よそでバイトしたいんですが、そうなると土日の結婚式の撮影には入れなくなります。」
オフィス光には、今俺しか専属がいない。
俺に辞められたらおしまいだ。
社長は譲歩案として、葬儀のムービー編集もしてくれたら月給制にしてもいいと言ってきた。
俺は値段次第では考えてもいいかな、と思う。
十四万円以上でるのならばこのままオフィス光に留まろう、それ以下なら……それはそれでまた考えよう。
とりあえず葬儀のときも入ってみることにした。
アスカはイラストを描いていた。
それは以前よりももっと可愛らしくなっており、やはり市役所というたがが外れたからというのが大きいだろう。
アスカの描くイラストは伸び伸びと線に迷いがなかった。
「いつか個展がやりたい」
アスカの最近の口癖だ。
ただ、カンバスに描けるようなお金はないから、ますはお金が先だな、とやはり思う。
月給制を匂わされて、約1ヶ月経った。
葬儀もちゃんとこなしている。
そろそろ……と思ったときに話はきた。
「十四万円でどうかな?と思うんだがね」
と社長。
昇給とかはなさそうだが、とりあえずそれでいこう、そう思い、改めて
「よろしくお願いいたします」
と言った。
赤星さんのところの仕事はこれで出来なくなる。
その旨を赤星さんに電話で連絡する。
赤星さんとこの給料はまだ未納なままだ。
『はい……赤星さんには申し訳ないんですが、そう決まったので……』
『そうかぁ、仕方ないなぁ。レンくんにはまだしてもらいたいことがたくさんあったんだが、そういうことなら仕方がないかな』
『あ、それで、給料の方は……』
『あー、それね、もうちょっと待ってくれる?』
そういい続けてもう半年以上になりますが?
俺はよくぶちギレるのを我慢できたと思う。
『あー、わかりました。いつくらいになりそうですか?』
『あー、今ちょっとたてこんでて、わからないんだ』
『わかりました。なら、待ってますね!』
こいつはもう、あてにしないほうがいい。
しかし、働いてきた俺をなんだと思っているのか。
馬鹿にしてるのか?
それすら聞けないままだった。
それから数ヶ月後、うちの親が家に遊びに来た。
会社をやめてからのアスカの人見知りはひどくなっていた。
だが、お昼ご飯を食べようという両親の希望があり、近所のカフェへ行った。
それまで無言だったアスカが、目を輝かせて言う。
「ここ、バイト募集中だって!」
それからのアスカの行動力には目を見はるものがあった。
翌日カフェに電話して面接を取り決める。
鼻歌混じりに履歴書を書く。
とても数ヶ月前まで病気で仕事が出来なかった人間には見えなかった。
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