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【連載小説】扉 vol.2 「王宮」
俺は馬なんて慣れないものに乗せられて、バランスを取るのに必死だった。
王宮につくと、縄をかけられたまま俺はある部屋へ連れていかれた。
馬に乗っていたせいか、尻というか、太ももが痛かった。
王宮の中はすごかった。いろいろなところが金銀で装飾され、壁面には偉大な画家が描いたであろう絵や、きれいなガラス細工や陶器、磁器、そして宝石が飾られていた。
天井は高く、いろいろな種類のドアがあり、それぞれのドアノブがきらきら光っていた。
謁見の間とでも言うのか、高い天井に、大きな椅子が二つ、威厳を保って配置されていた。
大きな椅子には、きらびやかな宝石で装飾が施され、赤い布で作られた立派なクッションが乗っていた。
床は大理石か貝細工のようだ。
壁一面に並ぶ兵士たちは、磨きあげられた鎧をつけていた。
しばらくキョロキョロしていると、
「王様のおなーりー」
と声がして、周囲の兵士以外がみな土下座をした。
慌てて俺も真似る。
お妃様も来たようだ。
「面をあげよ」
俺は顔をあげた。
威厳のある風格。
豪華なマント、光沢のある服。
お妃様も美しいドレープのかかった、光沢のあるドレスを身に纏っていた。
王様は、俺の顔を見ると、驚いたように、椅子からピョンと跳ねた。
お妃様もたいそう驚いた様子で俺を見ている。
その理由はすぐにわかることとなった。
王様が何かを合図して、ドアが開けられた。
開けられたそこにたっている、それは紛れもなく俺だった。
俺だよ、俺!
背格好もまさしく俺だった。
衣装を除いて、だが。
もう一人の俺は俺に近づいて言った。
「そなたは何者じゃ?」
俺は戸惑った。
何これ気持ち悪い、とも思った。
「俺はケイタです……」
「ケイタ……」また王宮はざわついた。
「ケイタとは私の名前である!そなたは何者じゃと聞いておるのじゃ」
「いや、だから俺はケイタで……」
「そなたは何者じゃ!なぜ私の姿を真似るのじゃ!」
王子は怒り始めた。
それを王様が抑えると、王様は改めて聞いた。
「名前は、ケイタ、であるとな?」
「はい、俺はケイタです」
「こんなことってあるのかしら」
お妃様が頭をおさえた。
そんなことは俺だって聞きたいよ!
「我が息子もケイタという。」
王様が頭を抱えた。
いろいろ何かを考えているようだ。
やがて、意を決したように言った。
「何か縁あってのことであろう。今日は二人とも、もう下がってよい」
そして、ある兵士に、あの部屋へ通すように、と言った。
俺は兵士たちに囲まれると、部屋を退出した。
案内された部屋は豪華なものだった。
てんがい付きのベッドに、ふかふかのソファー。
テーブルから床に至るまで、立派なものであった。
ただし、出入口は兵士で守り固められていた。
窓はない。
出るとしたら兵士が守る出入口だけだ。
どの道、俺は脱出をはかろうなんて思ってもみなかったから、関係ないのだけど。
召し使いのような人が、服を持って入ってきた。
「ディナーのお時間でございます。こちらのお衣装にお着替えになって参列するように、とのご命令でございます。」
なんだ、着替えろってか。
わざわざ着替える必要なんてないんじゃない?と思いつつ自分の服を見た。
学生服は、砂にまみれて汚れていた。
これじゃあ仕方ないな、と思い直し、衣装を着ることにした。襟が立っており、袖が丸く膨らんでおり、中にぴったり目のシャツを着る。
先程の王子の衣装を黒基調にしたような、そんな衣装だった。王子の衣装って案外どこでも一緒なのね、と俺は感心しつつ袖を通した。
あつらえたようにぴったりの衣装、これはきっと先程の王子のものに違いない。
俺が衣装を着ると、召し使いが髪を整えてくれた。
ホントになんでもするんだな、召し使いって。
靴までぴったりのサイズに驚きながらも、俺は召し使いに連れられ、兵士に囲まれつつ、ディナーの待っている部屋へ向かった。
ディナーは立派なものだった。
今までに見たことがないものばかり。
しかも、残しても誰も文句を言わない。
俺はいろんなものを一口ずつ口にしてディナータイムを満喫した。
ディナーの間、いろいろなことを聞かれた。
今までどこに住んでいたのか、両親はどうした、とか、いろいろ。
俺はこの国に来た顛末を話した。
王様たちはかなり驚いたようだった。
日本に住んでいたことや、両親は健在で元の国にいることなども話して聞かせた。
王様たちはそれは、興味深く聞いてくれた。
ただ一人を除いて、だ。
王子は不機嫌だった。
そりゃそうだろう。
突然自分の分身のようなやつが現れ、両親ともにそいつにばかり興味があるとすれば、俺だってつまらないと思う。
しかし、このときは王子に気づく余裕もなかった。
懸命に自分の世界の話を聞かせる俺。
とうとう、へそを曲げた王子が出ていってしまったのだ。
王様が言った。
「あやつはなぜいつまでも子どもなんじゃ……」
お妃様も
「こちらのケイタ殿のように大人であれば……」
と、そこまで言ってハッとした。
王様とお妃様は顔を見合せて、そして言った。
「ケイタ殿が我が王子になればよい!」
俺はそんな大それたことができる人間じゃない。
「でも、そしたら王子様はどうなさるんですか?」
王様は静かに言った。
「幽閉するとよい」
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