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【連載小説】公民館職員 vol.19「待ち合わせ」

失恋した菅山の姿は私と重なって見えた。

「よし、菅山、今日飲みに行こう!」

「え……今日?今日は残業で11時くらいになりそうなんだけど……」

「そのくらい待つって!」

「そう……?なら、行こうかな」

「たまには羽を伸ばさないと!仕事もうまくいかないって!」

「うん……なんか、ありがとな」

「ううん、なにもしてやれないからさ」

菅山はありがとうと言いながら職場に帰っていく。その後ろ姿をみながら、私はうんうん、と頷く。

よく考えたらちずるも同期で同じ職場なのに声をかけなくてよかったのかな?と思い始める。

でも、ちずるのことだし、どうせ断られるし、菅山だって失恋したことあんまり広めてほしくはなかったろうし、これでよし、とした。



パンフレット作成は順調だ。約八百枚を私は折っていく。

指サックがお友達だ。

この指サック、便利なことに指の先は開いており、指の腹だけが滑り止めになっている優れものだ。一度使い始めたら他の指サックなんて使えない。私はへビリピしている。


最後の一枚を折り終えると、時間は5時15分の定時を迎える。

私はゆっくり片付けをすると、夜間の嘱託さんとおしゃべりを始めた。


昔、夜は夜当番と言って職員が交代で受付を行っていたのだが、ここ近年、夜専門の嘱託員を雇うようになった。

経費の削減だそうだ。

私には職員が残業するほうが、よっぽど削減になると思うのだが、係長級以上の残業が出るとなると、やはり残業代のほうが高くつくのだろう。


今日はゆっくり待たないといけないので、このまま少しおしゃべりをしてから行こうと思う。


夜の嘱託の井口さん。

私が釣り銭などを扱っているため、やり取りは他の人よりもはるかに多い。

が、こんなにゆったりしゃべったことはなかった。年齢は四十代半ばくらい。あまり共通の話はない。

夜の講座生のマナーなどを聞いてみると、マナーに関して注意することはほとんどないと言った。

料金もきちんと前納してくれているらしく、好感触だ。


夜当番がなくなった今、夜の講座は全て彼女たちに懸かっている。

こうして夜の情報も知ることは、私たち職員には大事なことだと思う。


しばらく井口さんと話し込んでいたが、7時を過ぎたので一旦外にでることにする。



手には文庫本。

おっさんのときの名残だ。おっさんとよく待ち合わせをした喫茶店に行き、コーヒーを頼む。

この店が行き付けとなったのはおっさんとの待ち合わせが主だったのだけれど、その前から利用はしていた。カフェというより喫茶店なこのお店は、コーヒーのおかわりをくれる。長時間待つにはもってこいなのだ。

ほの暗いランプに重厚なテーブル、お客様に合わせたカップでのサービス。このクオリティで一杯六百円は安いよね!おかわり自由だし。


私は文庫本を取りだし、読みふけった。


読み終えたら9時だった。あと二時間どうするかなー。と思い、行き付けのダーツバーへ行くことにした。


このダーツバーにはおっさんと知り合いになる前によく来ていた。おっさんと知り合いになってからは足が遠退いていたけれど、今でもマイダーツは持ち歩いているくらいダーツバカだった。


久しぶりに顔を出すと、

「お、ユキじゃん!」

「ユキさん久しぶり!」

と温かく歓迎された。


ダーツをプレイしていると時間の感覚がなくなる。何ゲームしただろうか。気がつくと11時をまわっていた。

菅山からの着信はまだない。

もう1ゲームするか、と話していたら菅山から電話がかかってきた。


『今終わったけど、佐藤さんどこにいる?』

『銀座通りのティトってお店!』

『ティト?わからないなぁ。』

『迎えに行くから役所の裏で待ってて』

私はドリンク代を払うと、友達には

「また今度矢ろうね」

と約束をして店を出た。


役所の裏にはキョロキョロしている菅山の姿があった。

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