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【連載小説】平々凡々な会社員が女子高生に!? vol.52 「付き合ってください」

 坂井がジュースを持ってきてすぐ、イルカショーは始まった。

 夏ということもあり、超満員な会場の中で、イルカは何度もジャンプした。その度に俺は何度も惜しみ無い拍手を送った。

 高い位置にある輪をくぐった時など、立ち上がって応援してしまった。

 坂井はそんな俺を見て、満足そうに微笑んでいた。


 帰りの道の中でもずっとその様子が脳裏から離れなかった。

「凄かったよね! イルカ!」

 何度も坂井に話しかける。坂井はうんうん、と頷きながら聞いてくれた。


 この夏一番の思い出になりそうだ。



 ◇



 バイトが忙しい時期に突入した。

 そう、夏休みだ。

 午前中塾で、午後からはバイトという、忙しい日々が始まった。

 坂井は午後も塾で大変そうだった。

 俺は毎日汗だくになりながら頑張った。時給も若干上がっていたので、やる気満々だ。

 そんな中、とあるおばあちゃんが毎日のようにバイト先に遊びに来るようになった。

 いつもお好み焼きセットを頼むおばあちゃん。最初はただ頼むだけだったのだが、いつの間にか世間話をするようになっていた。

 おばあちゃんはいつも孫のことを楽しそうに語った。

「いつかここに連れてくるからね」

 俺は世間話程度に思って

「はい、ぜひ!」

 と答えていた。


 ところがある日、とうとう本当に孫を連れてきた。

 話によれば孫は高校一年生であり、とてもおばあちゃん思いの良い子だという。

 孫は制服を着ていた。会心高校の制服だ。

 頭いいんだ……なんて思っていると、

「……っ、です、よろしく」

 と、なにやら挨拶をされた。やべぇ、最初の方聞いてなかった。

 とりあえず俺は

「よろしくお願いします」

 などと言って返事をした。


 孫は真っ赤になった。

 なぜだろう?

 おばあちゃんがにこやかに言う。

「お似合いだよ」

 俺は? となりながらも注文を聞いた。



 バイトが終わって、帰り支度をしていると、

「超かわいい子が誰かを待ってるみたい!」

 と先輩たちがわいわい話ながらやって来た。

「超かわいい?」

 と俺が聞くと、

「そうそう! かわいい男の子! 自販機にいたんだ!」

 と言った。そういや、今日来たおばあちゃんとこの孫も可愛かった……なんて思い返してみる。

「お先に失礼しまーす」

 と言って、出てすぐのところにある自販機に目をやると、そこには孫の姿があった。

 おばあちゃんは一緒じゃないんだ? と思いながらとりあえず声をかけてみることにする。

「少年!」

 すると弾かれたように孫が顔をあげた。

「よかったぁ、休憩室、やっぱりここだったんですね!」

「うん、まあ、そうだけど、少年は何をしているの?」

 と聞くと、

「ユウスケ。猿渡ユウスケですよ。さっき言いました。」

 と返してきた。

「あぁ、そうだったかな。猿渡くんはおばあちゃんと一緒じゃないんだ?」

「はい、ユウさんを待っていました」

「?」

「今日はお家まで送りますよ」

「?」

 俺の頭の中には? がいっぱいになった。

「自転車、どれですか?」

「これだけど……」

 と言うとユウスケはひらり、と自転車にまたがった。

「ほら、送りますよ。鍵、貸してください」

 俺は言われるままに、鍵を差し出した。

 うしろの座席を見やると、

「乗ってください。僕こぎますから」

 と言う。

 意味がわからない。

 が、俺はとりあえず後ろの座席に乗ることにした。

「ねぇ、なんでこんなことしてくれるの? 猿渡くん?」

「ユウスケ、でどうぞ」

「じゃあ、ユウスケはなんでこんなことをしてくれるの?」

「え? さっき、付き合ってくださいって言ったじゃないですか」

「え……」

「そしたらユウさん、『よろしくお願いします』って言ったじゃないですか」

「ちょーっと待てぇ! あれはそういう意味のよろしくじゃない!!」

 ユウスケは立ち止まるとこちらを見た。

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ちびひめ
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