【連載小説】平々凡々な会社員が女子高生に!? vol.29 「嫉妬」
その日の夕飯は豆腐料理だった。
さすが、京都。ゆばもうまい。豆腐料理なんてじじくさいもの、と思っていたが、目からうろこだった。特にあんかけ豆腐が、ザクザクプルプルで絶妙な味を醸し出していた。くそう……なんかしてやられたような気分になる。
そんな夕飯の後、風呂の時間をおいて、自由時間となる。
松永と坂井がやって来る。この二人はホントに仲がいいんだな。
ミキちゃんも浴衣姿で照れている。か、かわいい……しかし、俺の浴衣姿だって捨てたもんじゃあない。風呂場の大鏡でチェックしてきたもんね。
松永たちも浴衣だったが、俺は坂井のその細マッチョが気になって仕方ない。さ、触ってみたい……
男の俺が言うのもなんだが、坂井には妙な色気がある。雰囲気と言うか、漂うオーラと言うか、とにかく、目を奪われるのだ。
これは、自分がいじめの対象だっただけのことはある……掘り出し物だ。
坂井は携帯ストラップをもう変えていた。
「坂井くん、もうストラップ替えたんだ!」
口を開いたのはミキちゃんだった。
「俺は元々つけてなかったからな」
「俺もつけ替えたぜ」
松永も横から携帯を取り出して見せる。
そのとき、坂井の携帯が鳴った。
「悪ぃ、ちょっと電話」
坂井はわざわざ離れた場所で電話をする。そんなに離れて話さなくてもいいのに……
電話が終わり、戻ってきた坂井が一言、
「女ってのは、どうしてこう、ギャーギャーうるさく言うんだろうね」
と言った。
松永たちには聞こえていないようだった。
俺は頭を何かで打ち付けたようなショックを受けた。
女……女の子からの電話だったんだ……
ギャーギャーうるさいって言いつつも、楽しそうに電話してた!
俺はショックでショックで、泣きそうになった。
そんな様子に気づいたミキちゃんが、
「ユウ、どしたの?大丈夫?」
と聞いてきたときにはもう、我慢ができなくて、
「気分悪いから、ちょっとトイレ!」
と言って走り出してしまった。
浴衣って超走りにくい。前がはだけないように押さえつつ走る。
トイレについてから、冷水で顔を洗った。
ショックだった。写真まで持ち歩いていると聞いていたから、てっきり坂井は俺のことを好きなんだろうとたかをくくっていた。今日のストラップも、四人だけのお揃いと思って喜んでいたのに、電話で、
『ストラップ、お前の分も買ったからな』
と言っていたのを盗み聞きしてしまった。
なんで?! なんで?! どうして?!
聞きたくても怖くて聞けない自分を情けなく思った。
ミキちゃんが後を追ってくれて、ハンカチを貸してくれた。
「どうしたの? いきなり? なにかあった?」
ミキちゃんに心配をかけたくなかった。これはあくまで自分の問題だったから、ミキちゃんには
「なんでもないよ。ホントにちょっと気持ちが悪くなっただけ」
「風邪かなぁ?大丈夫?部屋で休む?」
「うん……ミキちゃんは松永たちのところに戻りなよ」
「でも、ユウ、気持ちが悪いんでしょ? 私がついていたほうが……」
「大丈夫、大丈夫!いざというときは保健の先生んとこいくから」
「でも……」
でも……と繰り返すミキちゃんを無理矢理説得して、松永たちのところに戻らせた。
部屋で一人、畳の上にゴロリと横になって考えた。
どうして坂井が俺を好きだなんて勘違いしたのだろう……写真を持っているから?いつもこちらを見ていたから?一緒に回ろうと言ってくれたから?
どれも自分の独りよがりに見えてくる。
坂井から一度だって好きと言われたこともないのに、俺はいい気になっていた。
そもそも、男同士好きになるなんて、誰がそんなキモいことを許すだろう?
そんなことばかり考えながら一夜を過ごした。