迷った時は、自分の心が正しいと思う行動を取る
私が小学6年生の時の話です。
同じマンションに住んでいた同い年の女の子から、万引きをそそのかされたことがあります。
便宜上、彼女を仮に「A子」としましょう。
学校が終わったある日の午後、私とA子、もう1人の女の子の3人で遊んでいた時に、なりゆきで近所の文房具屋さんに寄ることになりました。
特に欲しいものがあるわけではなかったのですが、何となく店内を物色していたところ、A子が店の商品である消しゴムを私へ差し出し、こんなことを言ってきました。
「ねえねえ、私もやるからさ、これ万引きしてみようよ」
はて?万引き?慌てて頭の中の辞書をめくります。
えーっとたしか、「レジでお金を払わずに店の商品を外へ持ち出す行為で、決してやってはいけないこと」だったような・・・?
私はA子に言いました。
「うーん、それって、やっちゃいけないことだと思うんだけど・・・」
A子はこう返してきました。
「大丈夫!大丈夫!私、店の外で待ってるからさ、そのままこれ持って出てきなよ」
A子はそう言って、持っていた消しゴムを私に握らせ、もう1人の女の子と連れ立って、言葉通り店の外へと出ていきました。
1人残された私は、ぐるぐると必死に考えます。
A子は同じマンションの6階に住んでおり、登校班も一緒で、小1の時から何かと顔を合わせる機会が多かったため、彼女の事を疑ったことはあまりありませんでした。
でも、「お金を払わずに商品を持ち出すのは、お店の人に悪いよな・・・」という思いが、私の足をその場に縫いとどめていました。
付き合いの長さもあって、それなりに信用を置いていたA子の言葉と、自分の良心と、一体どちらを取るべきか・・・。
迷った末に、私は「お金を払わずに店の商品を外へ持ち出してはいけない」という自分の良心に従い、消しゴムを持ってレジに向かい、そのまま会計をしました。値段はたしか100円かそこらだったと思います。
買った消しゴムを白いレジ袋の中に入れてもらい、店の外へ出た後、ドアの近くで待っていたA子たちと合流しました。
A子は私に尋ねました。
「どう?やった?」
私は、白いレジ袋をA子に見せて言いました。
「ううん。やっぱり悪いかなって思ったから、お金ちゃんと払ってきた」
A子は「そっか」と言ったきり、それ以上説明を求めることはなく、私たち3人は文房具屋さんを後にしたのでした。
・・・私がこの出来事の恐ろしさを初めて感じたのは、それから数年後のことでした。
もしかしてA子は、最初から自分が手を汚すつもりはこれっぽっちもなく、ただ私を陥れようとしていただけなのでは・・・?
私がA子の言葉通り消しゴムを万引きしたら、その事実を周りの人たちに言いふらそうと、密かに企んでいたのでは・・・?
真偽のほどは分かりませんが、きっと「当たらずとも遠からず」といったところでしょう。そう考えればすべての辻褄が合うのですから。
もしもあの時、A子に言われるがままに万引きをしていたら、私は一体どうなっていたんだろう。
たった100円とはいえ、万引きをした事実は一生消えませんから、どこからか情報が漏れて、その後の人生に悪影響を及ぼしていたことは間違いないと思います。親にも多大な迷惑をかけることになったかもしれません。
けどそれ以上に、万引きを犯した自分自身を決して許せなかったでしょう。
いずれにせよ、まっとうな人間に育っていなかった可能性が高いです。
A子に恨みはありません。
今はただただ、他人の言葉に惑わされず、自分の良心に従って行動した過去の私に、感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも、迷った時は自分の心が正しいと思う行動を取っていきたいなと思います。