健康ランド 末広湯 椎名町の名銭湯
銭湯と立ち喰い蕎麦の街 椎名町
その銭湯は西武池袋線で池袋から一駅先の椎名町にある。あまり目立たないかもしれないが、実はこの街には東京でも指折りの神銭湯が集まっている。言わば強豪揃いのエリアなのだ。
年の瀬も押し迫る2024年12月28日土曜日17時、僕は椎名町の駅に降り立った。早めの夕飯として、立ち食い蕎麦 南天の肉そばを食べる。空腹だったのと、久々の南天で気分が舞い上がり、肉蕎麦ダブル温玉のせと遠慮のない注文をする。
その後、商店街のアーケードを抜け、要町方面へ歩き続けると、本日の目的地である『健康ランド 末広湯』にたどり着く。
古めかしいマンション銭湯
造りは、マンション銭湯であるが、今時感はなく、むしろ古めかしい印象。健康ランドという昔風の名前を銘打った緑色の看板がいい味をだしている。
入浴料金は、サウナ付きで950円。入浴料550円+サウナ400円。
通常、銭湯についているサウナはオマケみたいなものなので、400円が安いのか高いのか、入ってみるまでわからないところがある。鍵とタオルを渡される。サウナ客用のロッカーは2階にあると言う。
2階の秘密空間
2階に上がると、サウナ利用者専用の部屋がある。
部屋はかなり年季が入っている感じで薄暗いとも言えるが、僕はこれくらい味のある方が好きである。
ハンガー付きの大きめのロッカーがあり、とてもありがたい。大きな洗面台もついている。至れり尽くせりだ。ロッカーの横には小さな本棚があってカピカピになった古い雑誌が積まれている。どの本も表紙の色が所々はげてしまっている。
一番上に置かれていた雑誌を開いてみると袋綴じの部分が丁寧に切り取られていた。ためらうこともなく袋とじの中身を見ることができるのだが、その分どこか物足りなさも感じてしまう。
その先にはテレビとクタクタになったリクライニングチェアがいくつか置かれている。奥の席は既に他の客で陣取られている。右端はツーブロックに刺青の男が裸で寝ていて、左端にはスキンヘッドの男がタオルを身体にかけてスマホを弄っている。
テレビに目をやると『男はつらいよ』が放送されている。再放送だろうか。おいちゃんを演じるのは2代目の松村達雄氏なので70年代後半くらいの作品だろうか。
そのまま寅さんを観続けてしまいそうなので、早々と準備を済ませて、一旦浴場に降りる。
揃うラインナップ 一番人気は『延寿湯』
入り口脇にあるラックは既に他の客の持ち物で埋まっており、仕方なく一番下の隅っこに持ってきたペットボトルのお茶を置く。石鹸、シャンプー、リンスも持ってくるのだが、銭湯のラックに置いたものが2回ほど盗まれた経験があるので、今回は無事に回収できますようにと心の中で祈ってから浴場に入る。
浴場内は風呂の種類が豊富で銭湯好きであればワクワクが止まらない造り。が、すぐに湿気でメガネが曇って何も見えなくなる。視界が開けてくると、かなり人がいる様子で、どの浴槽も誰か入っている。確かにこれだけ揃っていたら近所の人間は通うだろう。
中でも一番人気は延寿湯と名付けられた薬湯。特有の香りが立ち込める。他にもバイブラ、マッサージバス、と定番のラインナップも揃い、安心感に包まれる。
ぬる湯の魔力
風呂にいくつか入るが、湯温は全体的に少し低めな印象。熱湯推しの銭湯とは一線を画している。
ぬるま湯というのは、浸かりはじめは多少物足りなさを感じるが、その分長く浸かることができて、上がった後の満足度は意外と高かったりする。ガチガチの熱湯も大好きだが、まったり浸かれるぬる湯もなかなか悪くないものだ。
ととのいを生み出す神動線『サ水天』
サウナはMAX5人くらい入れる造り。一度改装されているのか、浴場内よりは造りが新しい。熱すぎず、ゆっくり汗をかくことができる。
出たところに小さいが水風呂がある。サ水近接。その先には露天風呂がある。サ水天の並び。ととのいまでの動線は完璧だ。
露天風呂は岩造り。備長炭の湯。こちらもぬるく、ゆっくり浸かることができる。常連と思しき高齢男性2人が雑談して盛り上がっている。人の話に聞き耳を立てるものではないのだが、イントネーションにかなり癖があり、何を話しているのかよくわからなかった。入ってすぐきうたせ湯が置かれているが流れは弱めで残念ながら誰も見向きもしない風だった。夜の時間帯は足元が暗く、岩は所々に尖ったところがあるのでその点は注意が必要。
年の瀬に突然現れた『いい時間』
サウナを出て水風呂に浸かってから寒空に身を晒す。
寒くなってきたら露天に入ると、じんわりと身体が温まる。
建物に囲まれた東京の夜空を眺めながら今年一年をのんびりと振り返る。ちょっといい時間を過ごせている気がした。
まとめ:強豪揃いの椎名町の名銭湯
銭湯としてはコンテンツが十二分に揃っていて、一度に全部入ろうとするとお腹いっぱいになる分量。何度か行ってみると更に良さに気づくのだろう。
銭湯のレベルを超えた風呂の種類を持っているが、それでいて銭湯特有の鄙び成分はちゃんと入っている。近隣には五色湯、妙法湯、湯〜ゆランドあずま等、強豪銭湯揃いの椎名町だが、こちらも引けを取らない名銭湯だった。もっと早くくればよかったと良い塩梅に後悔をしながら店を後にした。
ご参考
東京都浴場組合の紹介ページ