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心の鏡
江戸初期、
まだ戦国時代の香りが色濃く残っていたころ、
いまの滋賀県に
「近江聖人」と呼ばれた人がいました。
その名を中江藤樹(なかえとうじゅ)といい、
陽明学という学問を追求した学者でした。
以下、敬愛を込めて藤樹先生と呼ばせて頂きます。
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「陽明学」という言葉は
あまり聞き慣れないかも知れません。
陽明学とは、中国が明と呼ばれていた時代に
王陽明という人が興した儒学の一派です。
儒学とは、簡単に言えば
「人の道」や「道徳」を研究する学問です。
その儒学の中でも陽明学は
「良心」を起点とした
実践行動を重視する学派でした。
藤樹先生以外にも、大塩平八郎、佐藤一斎、
佐久間象山、吉田松陰、渋沢栄一、
安岡正篤(まさひろ)などが、
陽明学から影響を受けたと言われています。
実践行動を重んじるため、
多くの革命家や事業家を輩出しています。
中でも藤樹先生は
日本陽明学の祖と言われています。
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前置きが長くなりました。
そんな藤樹先生が終生、
大切にされていた心がけが「五事を正す」です。
今週はこの「五事を正す」の中身について
みなさんにご紹介します。
五事とは文字通り5つの事柄の意味で、
それぞれ貌・言・視・聴・思のことです。
「貌 (ぼう)」 貌とは、顔つきのこと。
春風のようなやさしく和やかな顔つきで人と接しましょう。
「言 (げん)」 言とは、言葉遣いのこと。
やさしく思いやりのある言葉で話しましょう。
「視 (し)」 視とは、眼差しのこと。
やさしく包み込むような目で、人や物を見つめましょう。
「聴 (ちょう)」 聴とは、傾聴のこと。
相手の気持に寄り添って、心を傾けて人の話を聴きましょう。
「思 (し)」 思とは、思いやりのこと。
まごころを込めて、相手の気持ちに思いを馳せましょう。
五事を正すことで心から汚れを取り除き、
人が生まれ持った本来の美しい心を
発露することができると先生は仰っています。
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私たちが与えられた美しい心(≒良心、利他の心)は、
知らず知らずの間に
日常の雑念や妄念で汚れていきます。
例えば、「ラクをしたい」だったり、
または「怠けたい」だったり、
時には「自分さえ良ければいい」だったり…
これらは本能(≒利己)から生まれてくるもので、
程度の差はあれ誰にでもあるものです。
ただし、これらを放置するとどうなるでしょうか?
毎日の歯磨きをサボると虫歯になってしまいますね。
心もまた同じです。
毎日の歯磨きが必要なように、
心の鏡も毎日の手入れを必要としています。
「すぐれた園芸家は庭を耕し、雑草を取り除き、
そこに美しい草花の種を蒔いて
毎日その世話をする。
やがてその庭には、美しい花々が咲き誇るでしょう。
私たちの心も同じです。
もし素晴らしい人生を生きたいのなら、
自分の心の庭を掘り起こし、
そこから不純な誤った思いを一掃し、
そのあとに清らかな正しい思いの種を植えつけ、
毎日その世話を続けなければなりません」
ジェームズ・アレン(イギリスの作家)
日々の手入れを怠ると、
いつしか心の中には「利己」という名の
雑草が芽生えてきます。
やがて心の中は雑草でいっぱいになってしまいます。
お釈迦様も
「良きことを思い、良きことをなせば、
良い結果が生まれる。
悪しき事を思い、悪しき事を成せば、
悪い結果が得られる。
これを因果応報という」
とおっしゃっています。
このように書いてみると
何も特別なことではないのかも知れません。
しかし、いつも100%常にこれらが出来ている人は
なかなかいないのではないでしょうか。
人間には、機械や他の動物にはない
「自覚」という優れた能力があります。
まず出来ていない自分を認め自覚すること。
そしてこれらを意識し実践し続けることが
人生を豊かにしてくれると私は思いますが、
みなさんいかがでしょうか?
今週も幸せの種を蒔きましょう。
私たちの周りにいてくれる大切な人が
幸せであり続けるように。
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