「お笑い」から遠く離れて~感想・大前粟生『おもろい以外いらんねん』はおもろいのか?
1,イントロダクション
最近、図書館で、こんな本を借りて読みました。
大前粟生氏の『おもろい以外いらんねん』という小説です。
Twitterで、少し話題になっていて、たまたま図書館にあったので、お金を掛かることを嫌った自分は、早速手に取り、今日2/27に読みました。
結果、読んで良かったです。正直、共感が半分、目を覆いたくなるような辛さが半分でした。「面白さ」は、その隙間には1ミリも入らなかったような気がします。やはり、「お笑い」というのは、楽しいと思う所がありますが、時に「業」というものが付きまとい、正直言って辛い世界だし、売れるかどうか分からない、それでも挑戦していくんだな、と改めて気付かされました。
それでは始めたいと思います。
2,あらすじ
幼馴染の俺(町岡咲太)と滝場トモヒロ、そして転校生のユウキ。高校時代に三人は出会い、仲が良くなった。その後、滝場とユウキはお笑いコンビ『馬場リッチバルコニー』を組み、活躍し売れかけていた。俺は就職していたが……。お笑いを題材にした、優しさの革命を起こす青春小説。
3,感想
読んでいたが、どうも辛いことを思い出してしまいました。以前にも、「お笑い」については、何度か記事に載せていたり、書いたりしているので、そちらを参照してください。
お笑いの世界は、華やかなイメージがありますが、それを払拭するかのように、辛さや葛藤が描かれていて、それが良かったです。
又吉直樹氏の小説『火花』や舞台化、映画化された『芸人交換日記』を彷彿とさせるものありましたが、似て非なるものでしょう。今作、『おもろい以外いらんねん』は、最近よく話題になっている「誰も傷つけない笑い」だとか、配信ライブだとか、ソーシャルディスタンスとか、テレビなどを含めたマスメディアのコンプライアンスとか、そういうのが書かれていて、目を逸らしたくなりました。感染症以前/以後というものも描かれていて、現在に適応した話題を盛り込んでいて、凄い切なくなりました。
会話が、漫才調になっていて、作者が関西の方だからか、大阪か、あるいは、関西弁が盛り込まれていて、少し読みづらいところがありました。
三人が、公園で会って、仲良くなる場面があるのですが、ユウキと滝場が出会ったキッカケが、mixiなんです。mixiをチョイスするところが、やはり時代を感じました。10年前だと、当時は、Twitterよりも、Instagramよりも、Facebookよりも、日本では、mixiが流行していて、良いところを攻めた、と感じました。
自分は、仲の良い友達は皆無に等しいのですが、もっと人と議論したり、ケンカしたりして、こんな青春を謳歌しておけばよかったなあ、と後悔したところもありました。当時は斜に構えて、かなり逃げ腰になっていて(今もそうですが)、「これだ!」というものが見つけられないまま、漠然と過ごしていた節があります。これを読んで、さらに強く感じたところがありました。
空っぽでも上手に適応する滝場、ネタだけをやって人を笑わせていきたいユウキ、何もせずただ見守り眺める俺(咲太)の対比も良かったと思いました。滝場はクラスのムードメーカー的存在で、その一方で咲太は陰のキャラクターでクラスの隅にいるようなイメージが浮かぶ。転校生のユウキは、自ら一人になり、思索に耽る感じも醸し出していた。キャラクターの作り方が緻密で良かったと思いました。
気に入った文章を、いくつか紹介します。
ユウキが、ネタ合わせの際に、滝場にこんな言葉を投げかけます。
「おまえはカラッポやろ。カラッポな自分のことが好きやし、周りの連中もカラッポなおまえのことが好きやろ。おまえはカラッポでいる方がおもろいタイプやんか」
「おまえは自分がカラッポなことがこわいねん。それで不安やから笑いを生もうとして、笑いを生めば生むほどカラッポになってくんねん。それがおまえにはきもちええねん。おまえはおまえの好きでカラッポになってんねやから無理して抵抗すんな。無理して泣いたりすんなや。おもろい以外いらんねん」
―――大前粟生『おもろい以外いらんねん』P.60より
自分も空っぽだと悟られたくなくて、一時期尊大な態度を取っていたところがありました。今もバカにされたくない、という気持ちから、知識というなの張りぼてを武装して、何かに挑んでいるところがある。このようなことを言われて、ハッと気づかされたところがありました。
あと、咲太の優しさと思われる表現が、文章になっていて、それも良かったです。もしかしたら、エゴが伴うところもあるかもしれないし、否定されたくない、という気持ちもあるのですが。
お笑いに対しておもろい以外のことをいったりするのを俺は恐れていた。自分が楽しんで笑っているものがダメなところを持っているのだと認めたくなかった。
―――同作品 P.84-85
なんか、この気持ちわかるなー、と思ってしまい、少し悔しかったです。
昨年の6~7月に、お笑いライブを観て、正直つまらなく感じ、あまりピンと来なかったり、今まで好きだったものに裏切られた、否定された、そんな表現を代弁してくれているかのようでした。
感染症が蔓延して、その影響で、「笑い」や「楽しみ」も削いでしまった、感染症が巻き起こしたこの罪状は相当重く感じられました。それも描かれていました。自分も、悲しいニュースや嫌なものを目にしたり、自分のやっていたことや色々な人に否定されすぎて辛くなり、暫く何もできない状況が続きました。今でも、お笑いなんてやらなきゃ良かった、と思っています。
青春や夢とは、倦怠感ややるせなさが伴い、それをうまく体現している小説だと思いました。少し時間を置いたら、また読みたいです。
4,終わりに
やはり、等身大で生きてみたいけれど、なかなか難しくて、虚勢を張ったり、取り繕ったりして、それで人とトラブルになったり、信頼していた人も離れたりしたこともありました。それを思い出して辛くなってたところもあります。
「笑い」や「面白さ」とは何か、真剣に考えていましたが、それって、「お笑い」だけに限定しなくてもいいのかな、と最近思っている自分がいます。最近は、無理のない範囲で何か挑戦してみたい、とも思うようになりました。あの時、「お笑い」に取りつかれていた自分は、どうかしていたと思います。M-1グランプリに出てみたり、コントのワークショップに参加してみたり、ライブを企画してみたり、どれも失敗に終わったところもありました。
今でも、こんな文章を書き、空っぽ具合が露呈している自分ですが、やはり何か一つでも道を極めてみたい、と思いました。本当に好きなことを探していければ良いのですが、何でもかんでも中途半端になってしまうので、自分の好きなことで、さらに業が伴わず、下心を持たずに行動して、それでいて苦痛にならないものを探したいですね。何処かで見返りを求めてしまうことがあり、悪いクセだな、と思います。
とりあえず、おすすめの本や映画を紹介するところから始めたいですね。
まとまっていないですが、これで終わりにします。
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