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認知症課題の解決にプラットフォーム実現が必要不可欠な理由【後編】
「認知症プラットフォーム」の構築を目指すTheoria Technologies(以下、Theoria)。後編では、Theoriaの現在地と今後の展望について取締役COOの坂田耕平に聞きました。(前編はこちら)
ユニークな環境こそがTheoriaの最大の強み
Theoriaのユニークさは、エーザイグループの一員でありながら、スタートアップとしての特性をあわせ持つ点にあります。
エーザイは、認知症領域における創薬開発や疾患啓発の長い歴史、グローバルな事業展開、そして広範なステークホルダーとの強い絆を有しています。このエーザイグループにあることで、Theoriaは、通常のスタートアップにはないような豊富なリソースやノウハウを活用できます。
一方で、Theoriaはエーザイの100パーセント子会社でありながら、独立した事業体として機能しています。スタートアップとしてリスクを恐れず、大胆かつ迅速に行動できるカルチャーを醸成しています。この大企業とスタートアップの両方の利点を活かせる環境こそが、Theoriaの最大のアドバンテージといえるでしょう。
両社を繋ぐのは「認知症エコシステムを構築する」というグループ全体で共有する大戦略です。また、エーザイのhhc(ヒューマン・ヘルスケア)という理念に基づき、当事者様に寄り添い、憂慮と共感を課題解決のスタート地点とする考え方を、Theoriaも共有しています。
しかし、課題解決へのアプローチは異なります。エーザイが創薬を中心に取り組むのに対し、Theoriaはデータサイエンス技術を中心に課題解決に取り組みます。
3つの事業領域から認知症課題を解決する
Theoriaは、2023年9月に設立しました。その後、エーザイからの事業移管の準備期間を経て、2024年4月から実質的な事業を開始し、現在はこうした事業移管がほぼ完了した段階です。
その上で3つの事業領域とそれらを横断する領域を定義し、各領域で中核的なプロダクトの開発に取り組んでいる段階です。
・そなえる領域
健常・未病の方向けに、リスクチェックやリスク低減プログラムの開発によって、認知機能の低下のリスクに備える
・つながる領域
認知機能の低下が顕著になった方向けに医療機関受診・診断・治療への橋渡しを行う
・ささえる領域(治療・介護)
認知症やMCI(軽度認知障害)と診断された後に、治療に取り組む方をささえる(治療支援・介護ソリューション)
・てをとる(横断)領域
認知症ポータルサイト「テヲトル」を軸にした認知症に関する情報発信を行い、会員機能により各領域における個別最適な体験づくりをサポートする
各事業領域がそれぞれ連携しつつも独立しており、1つのスタートアップの中で複数のスタートアップが同時進行しているというのが、現在の事業状況といえます。
社員数は事業開始時から6倍に、組織面での現在地
組織面でいうと、2024年4月時点で5名だった社員が、現在は30名に増加しました。
その中には例えば、数百人の規模のチームリードしてきたCXOだったり、スタートアップのIPOを経験しているようなメンバー、あるいは、1つの領域においてエキスパートとして実績を残してきた方がいます。
4月からの大きな変化としては、全く新しい分野から、それぞれに専門性を持ったメンバーが集まってきたことで、過去の経験や持っている引き出し、体系的な理論も含めて、一気に議論に幅と深みが出てきました。
一方で、Theoriaで大事にしている寄り添う心という部分は、変わらないかと思います。例えば、課題定義の前提に遡るような「そもそも論」のような議論にも嫌がらずに真摯に向き合って話し合える……というような包容力は、メンバーが増えたからといって変わることなく引き継がれています。
現在は、目指す姿からのバックキャスト型の戦略策定と事業マイルストーン、OKRの設定が終わり、PoCを同時に複数立ち上げるというフェーズに入っています。
ビジョンと5つのコアバリューに込めた思い
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チームの規模が大きくなってきたことに伴い、ビジョンやバリューの再定義も行いました。その結果、新たな会社のビジョンとして次のように定めました。
”認知症にかかわる全ての人が自分らしくいるための「羅針盤」となる“
認知症という難しい課題の中で、ご本人のお話を聞いていると「あの時あれを知っていれば良かった」と後悔を抱えていたり、あるいは認知症の疑いがある方が「どこで何をしたらいいのか」と不安や戸惑いと向き合っていることがわかります。
Theoriaは、ユーザーの皆様が自分らしく生きるために、その人にとって本当に必要な選択肢がわかるようナビゲートしていきます。目指すゴールは人によって異なりますので、全員に対して同じ道を示すのではなく、一人ひとりのありたい姿にテーラーメイドでなくてはなりません。
これを、データサイエンスというテクノロジーを活用することで、その人に本当に必要なソリューションを提示し、心に寄り添った温かみのあるコミュニケーションで、最適な方向を示す羅針盤になることを目指していく——こうした思いをビジョンに込めています。
また、併せてコアバリューも見直し、次の5つを新たに掲げました。
Insight to Impact 気づきをチカラに。
人々の深い悩みや希望に耳を傾け、それぞれの”生ききる”を支える社会的インパクトを創出します。
Dive in 飛び込もう、大胆に。
既成概念にとらわれず、大胆かつ挑戦的な目標を掲げ、無限の可能性を追求します。
Gear up カタチにしよう、迅速に。
アイデアをすばやくカタチにすることで、加速度的に解決策への解像度を上げていきます。
Press ahead やり抜こう、最後まで。
成果を出すことにこだわり、諦めずに最後までやり抜く姿勢を貫きます。
Celebrate Individuality 違いを強みに。
新たな価値を生む多様な考え方や、補い合える突き抜けた個性を賞賛します。
「Insight to Impact」は、ユーザーの憂慮に常に寄り添い、その解決策を創造することで、社会のインパクトに繋げていきたいという想いを示しています。ユーザー自身が語らなくても、背景情報から真の課題に迫れる洞察力を持ち、そして、例えば発症を防ぎ、それによってご家族のQOLが改善し、加えて早期診断が叶うことで医療費や介護の負担が減るといったインパクトに繋げていきます。
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2つ目の「Dive in」では、何よりも大胆さを大事にしています。Theoriaが掲げる壮大な社会課題に対して、真正面から向き合って、その既成概念や過去の経緯にとらわれ小さく縮こまることなく、テクノロジーの力を信じて飛び込んでいきます。
大胆な目標に飛び込んだら、次にやるべきことは、アイデアを素早く形にしていくことです。3つ目に掲げた「Gear up」は、とにかくまず動いてみる、そしてその結果をフィードバックにかけて、次の行動に移していくことで解決までの道筋に近づいていく、そんな想いを体現しています。
そして、これを最後までやり抜くということが非常に大切だと思っています。「Press ahead」には、前に押し出すという意味があります。認知症プラットフォームという壮大な目標を最後までやり抜きたいという思いに加えて、一つひとつの自分が与えられたプロジェクトや課題に対して最後まで成果を出す、とにかく結果にこだわるということを表しています。
最後に掲げる「Celebrate Individuality」は、上の4つとは少し違う価値観でしょう。一般的には多様性といわれる言葉ですが、Theoriaでは、多様なだけでなく、突き抜けるぐらいの個性を重視したい、そしてそれをお互いに補える温かさや、繋がりを持ったチームでいたいという思いを込めています。それぞれが傑出した力を持っており、足りないところは支え合うことで、チームとしてパフォーマンスを最大化し、新たな価値を生んでいきたいという思いが込められています。
認知症プラットフォーム実現に向けた挑戦と期待
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認知症プラットフォームの構築は実現までに時間もかかり、資金も必要で、長期に腰を据えて取り組まなければならない野心的な目標です。多くのステークホルダーが、これは簡単なチャレンジではないと認識しています。
一方で、この会社だったら一緒にプラットフォームをつくっていけると信頼を得るためにも、短期的に目に見える成果を出すことにもこだわる必要があります。
Theoriaが直面する最大の課題とは、短期的な成果を出しながら、壮大な目標実現に向けた長期的な取り組み——大きな構想の実現に向けた準備作業や、データ戦略の策定、具体的なユースケースにおけるデータの活用方法の検証、そして実際のビジネスモデルの構築について、適切なバランスを取りながら進めていくことになります。
この挑戦的な取り組みの中で、Theoriaが目指すのは、認知症プラットフォームを誰もがアクセスできるインフラとして機能させ、認知症を必要以上に恐れることなく「自分らしく生ききる」を貫くことができる社会の実現です。
物質的な豊かさを実現した現代社会においても、人類がなお直面する未踏の社会課題に対してTheoriaは、テクノロジーと強い想いを持って乗り越えていきます。
この挑戦には、認知症の当事者様やそのご家族、事業パートナーや様々な領域のエキスパート、そして事業を一緒に創ることになるメンバーなど、多くの方々と協働することが不可欠です。Theoriaは、こうした方々とのこれからの出会いと、そこから生まれる成果に大いに期待しています。
ひとりひとりの専門性と想いが、認知症との向き合い方を大きく変える。
Theoria technologiesは、あなたの挑戦をお待ちしています。