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愛知県で発行されていた謎の趣味誌『郷味』について

 かなり前になってしまうが、愛知県で発行されていた『郷味』という趣味誌を何冊か入手した。少し調べてみたが、ほとんど情報が出てこないので珍しい雑誌であると思われる。まだまだ分からないことが多く不足しているが、情報の連鎖を期待して本記事で紹介する。以下に私が入手した中の1冊である第26号を紹介したい。

雑誌名:郷味 第二十六号
大きさ:約27.2cm×約19.7cm、活版印刷
印刷納本:昭和12年8月25日
発行:昭和12年9月1日
編集印刷兼発行人:淺井英一 愛知県蒲郡町本町
発行所:郷味社
頁数:8頁

蔵書票に現れた言葉 富田寛
浜松の郷土玩具 中道朔爾 ※飯尾哲爾の『土のいろ』からの転載
宣伝映画 『煙草の出来る迄』の見物記 白南荘人
仲介広告欄
家内工業としての玩具製造業の現況 X・Y・Z生
ニュース
趣味案内欄
編輯後記

表紙

 誌面の情報から『郷味』の発刊は昭和10年8月であることが分かる。この雑誌を発行していた淺井栄一は淺井印刷所を経営していたようで、以下の写真のような広告が掲載されている。

 淺井については、『産経日本紳士年鑑 第6版』上(産経新聞年鑑局、1966年)(国会図書館デジコレで閲覧した。)に経歴が掲載されているので、以下引用してみたい。

浅井栄一 蒲郡信用金庫常務理事 蒲郡新聞社長 (生)愛知県明36.3.14 (歴)大7豊橋商卒浅井印刷所代表者、蒲郡町議、蒲郡信用組合常務理事を経て昭24蒲郡新聞社長蒲郡信用金庫常務理事にそれぞれ就任 (趣)読書碁カメラ (在)愛知県蒲郡市蒲郡町本町四〇(後略)(読みやすくなるように筆者の方で必要に応じて句読点を追加した。)

 淺井は印刷所を経営するだけでなく様々な会社に関わっているため、蒲郡市の有力者であったことが分かる。淺井は趣味よりも実益を重視していたようで、『郷味』の編集方針について「編輯後記」で以下のように述べている。

或る誌友から「郷味」の編輯方針を訪ねられた。一寸返事に困った。別に定まった方針はない。趣味、文藝、何でもいい、出来るだけ掲載して多くの誌友を得たいと思っている。発行部数の多い事は、広告価値百パーセントだから、正直なところ印刷宣伝が「郷味」発行の根本方針だかも知れぬ。

 『郷味』に広告の役割があると捉えていたように思われる。串間努さん「「B級郵趣誌」というランクを駁す」(『旅と趣味』第6号、2011年)によれば、ビジネスとして発行していた趣味誌もあったようなので、『郷味』もそれに当たるだろうか。

 ところで、『郷味』の誌面は蔵書票、郷土玩具、切手など様々なトピックが取り上げられている。興味深いのは、架蔵の他の号では民俗関連の記事も含まれている点である。蒐集趣味と民俗関連の記事の両立は以下の記事で紹介した『熊野趣味研究』に近い。上述のように淺井は編集方針について「趣味、文藝、何でもいい、出来るだけ掲載して多くの誌友を得たい」と述べており、『郷味』の話題の豊富さは様々な趣味人を引き付けようとしていたからであると思われる。

 この号の投稿者で興味深いのは、これ以降の号以外にも積極的に投稿している富田寛である。富田は以下の記事で紹介した趣味人・伊藤喜久男の発行した『全国蒐集家番附』にも名前が載っており、蒐集分野は「煙草、ラベル、郵券、蔵書票等」である。富田はトム・リバーフィールドさん編『昭和前期蒐書家リスト』(2019年)(注1)にも載っており、『日本蒐書家名簿』(日本古典通信社、1938年)では蒐集分野は「書誌、国文学、考古、民俗、地誌、趣味」となっており、『愛書家名簿(昭和16年度)』(雑誌愛好会、1941年)では蒐集分野は「煙草に関する文献、雑誌」となっている。これらの資料から富田は様々なものに関心を持って蒐集していたことがわかる。富田の経歴は調査中であるので続報があれば別記事で紹介したい。

 『郷味』については冒頭に述べたようにまだまだ分からないことが多いので、この雑誌についてご存じの方がいらっしゃればご教示いただけると幸いである。

(注1)本書の有用性については、以下の記事も参照。

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