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加賀紫水の『土の香』は当時から稀覯本?

加賀紫水の発行していた『土の香』は個人誌であるため発行部数が少なく図書館や研究機関にもあまり所蔵されておらず稀覯本であることは拙noteでも言及したことがある。

『土の香』が稀覯本であったのはどうやら現在だけでなく、発行当時からすでに稀覯本であったらしいことが分かる証言をみつけたので、以下に引用していきたい。この文章は『土の香』第9巻第1号(1933年)の「椈香硯滴」という読者の投稿コーナに吉井房太郎という人物が投稿したものである。

小生昨夏より古本屋の開業準備に日を送り居る次第にてなかなか面白き土俗の話も掘出せません。大阪の相当な古本市に列席致して居りますが、その間に二度御誌土の香にめぐり合ひました。心の中でなつかしひナと思ひました。値段は他の雑誌などにくらべてなかなか高いので私の手に落ちませんでした。この市は大阪一の趣味本ばかりの市です。こんど土の香が市に出たらキット私は落して見せやうと今から待ちかまえてゐるのです。(後略)(一部を筆者により現代仮名遣いにあらためて必要に応じて句読点を追加した。)

吉井の文章から『土の香』の具体的な価格は分からないが、この雑誌が発行されていた当時からそれなりの稀覯本であったといえるだろう。ところで、吉井は「錐の絵馬に就て」という文章を『土の香』第2巻第6号(1929年)に投稿している。吉井はもともと土俗の蒐集家もしくは趣味人であったと推測され、その趣味が高じて古本屋を開業しようとしていたのだろうか。

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