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戦中に発行された『全日本郷土史研究家名簿』という貴重な名簿について

 郷土(地域史)、民俗学、考古学を研究、これらに関する史料を蒐集していた人物が掲載されている名簿は昭和前期までに発行されたいくつか発行されており、これらの名簿は昭和前期に発展途上であった郷土(地域史)、民俗学、考古学を調べるうえで貴重な資料になっている。特に、これらの分野で研究、蒐集を行っていたよく分からない人物(無名の在野研究者、例えば以下のような人物)を調べようとしている私にとっては欠かせないものである。これらの名簿から経歴、関心を持っていた分野、著作などが分かる場合もある。

この度在庫が完売した『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(トム・リバーフィールドさん編集、2019年)(注1)の書物蔵さんの解説によると、昭和前期に発行された郷土研究者の名簿には以下があるという。

『郷土史研究者名簿』(京都帝国大農学部農林経済学科農史研究室編、1928年)

『郷土研究家名簿』大西伍一編(農村教育研究会、1930年)

『郷土史家名簿』(日本経済史研究所、1934年)

『全日本郷土史研究家名簿』高森光夫編(全日本郷土史研究家協会、1943年)

※最後の名簿に関しては、私の方で編集者と名簿名をなおした。

この時期の地域史、民俗学、考古学の担い手は蒐集趣味の重なっている部分もあるので、蒐集家名簿も重要な資料になるが今回は省略する。上述した上から3つの名簿はありがたいことに国会図書館デジコレで閲覧することができるが、最後の『全日本郷土史研究家名簿』(以下、『全日郷土』と記載)のみ閲覧することができない。この名簿の所蔵を国会図書館サーチやCiNii Booksで確認してみると、当初館や研究機関にもわずかしか所蔵されていないことが分かった。かなり貴重なものであるらしいが、この度日本の古本屋で入手することができたので以下に写真を掲載しておきたい。

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 上記に写真で掲載したように、この名簿の特徴に雅号が含まれていることである。これは国会図書館デジコレで閲覧できる名簿にはなかったので、雅号と本名を使い分けて文章を書いていた人々の同定に役に立つと思われる。編集を担当した高森光夫によると、企画当初は名簿に記載している人物の「研究分類」、「出版著書」も載せる予定であったが、政府の指示ですべて削除されたようだ。また、摘要には職業や研究会での役職などが記載されているが、こちらも一部削除されたとのことである。高森もこれらの点を課題として意識しており、『全日郷土』を改版する際に漏れた人物を入れることも含めて改善していきたいと述べている。しかしながら、少し調べてみたところ改訂版は発行されていないようにみえる。

 『全日郷土』の一部が削除されたことは後世の私たちにとっては改悪であり残念であるが、『昭和前期蒐書家リスト』、他の郷土研究家名簿、蒐集家名簿などを使用して補完することができるのではないかとTwitterでご教示いただいた。私もご教示いただいた通りに思うので、『全日郷土』を補訂する形で他の資料と合わせて活用することを検討していきたいと考えている。

 ところで、『全日郷土』を編集・発行した高森と全日本郷土史研究家協会に関しては少し調べてみたがよく分からなかった。過去に全日本郷土史研究家協会の会報が日本の古本屋に出品されていた履歴を確認できたので、何らかの活動はしていたようである。会員同士が積極的に交流していたのか、もしくは名ばかりの団体であったのかが気になるので、この部分は今後の課題として引き続き調べていきたい。

(注1)この本の活用方法に関しては以下を参照。




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