戦前に古本地図を作成した辻井甲三郎は蒐集家名簿も作成していた?
先日、ある情報が載っているかもしれないと考えて京都の歴彩館で切手・郵便関連の蒐集趣味誌『京都寸葉』の戦中部分を中心に閲覧をしていた。残念ながら私の確認したかった情報は載っていなかったが、他に興味深い情報がいくつかあった。資料を読んでいると、よくないと思いつつも本来の目的からよく脱線してしまう。。。その中のひとつは辻井甲三郎に関するものである。
辻井に関しては、書物蔵様のブログで知って戦前に古本地図をつくったり、『雑誌愛好』という雑誌を発行したりしていた人物であると理解していた。辻井の古本地図は貴重なもので金沢文圃閣から『出版流通メディア資料集成(三)地域古書店年表―昭和戦前戦後期の古本屋ダイレクトリ』(2015年)に復刻されて収録されている。
『京都寸葉』には「京都寸葉案内」という読者欄と呼べるスペースがあり、そこで読者は自分の雑誌を広告したり、自分の持っている、探している蒐集品の売買を呼びかけたりできる。この欄を読んでいると、辻井が蔵書票関連で広告を出していることが確認できたが、それだけでなく蒐集家名簿を発行したらしいことが分かった。『京都寸葉』99号(1943年8月)の「京都寸葉案内」に、辻井が「趣味蒐集家名簿」の発行しようとしており、その名簿は700名の蒐集家と蒐集種目を収録したものであるという広告を出している。101号(1943年9月)には以下のようにある。
趣味蒐集家名簿 辻井甲三郎 牧載四百氏 限定百部番号入、四十部一般頒布(後略)
100部と一般配布用40部の合計140部限定で印刷されたのだろうか。この名簿は好評であったようで、103号(1943年11月)には以下のように記載されている。
蒐集種目を次年度名簿のためにお知らせ下さい。本年版は編者の手許に品切 辻井甲三郎
発売後2ヶ月で完売して次年にも発行を計画していたようだ。私が今回調べたのは1943年12月分までなので、辻井の名簿の続きが発行されたかどうかは今回の調査では分からなかった。
戦中に発行された蒐集関連名簿では、『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(トム・リバーフィールド編、2019年)(注1)にも収録されている『蒐集家名簿』伊藤喜久男(1942年)が知られている。辻井の発行した蒐集家名簿は失われてしまったのだろうか。
(注1)度々紹介しているが、この本の有用性については以下を参照。