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宮本常一の発行していた雑誌『口承文学』の投稿者たち

 宮本常一は戦前に『口承文学』という謄写版の雑誌を発行していたが、この雑誌の現物は今日ほとんど目にすることができない。国会図書館サーチで確認すると、国立歴史民俗博物館の図書室など所蔵する研究機関はわずかである。復刻もされていないので詳細は現物を確認するしかないと考えていたが、部分的に『口承文学論集』宮本常一(田村善次郎編・八坂書房、2014年)に宮本の文章とともに『口承文学』の目次や編集後記が収録されていることをTwitterで教えていただいた。早速この本を購入したので以下に写真を掲載しておきたい。

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この本のおもしろいところは上記の写真のように、宮本の雑誌の目次が分かるように各号の表紙が収録されている点である。私が確認したかったのは初期の宮本の文章だけでなく、他にどのような人物が投稿していたかという点もあるので、以下に『口承文学』の各号の目次を以下に記載したい。

第一号 1933年9月 ※宮本常一の文章のみ
和泉池田の子守歌
和泉池田の仕事の歌
和泉信太の子守歌
高木嘉門の妻(但馬)
周防大島昔話
鈴鹿の殺人(岡山)
草履かくし(山口県大島)
団子突きの話(大阪)
和泉信太のまじない
夕暮れのひととき
後記
第二号 1933年12月
だんご突の話(二)淀川畔 吉田久夫
周防大島の亥の子 田村正徳
周防大島の荒神祭 田村豊吉
和泉信太の行事 谷川芳子
和泉池田の仕事歌 村上義満
和泉池田の子守歌 藤原忠夫
阿波脇町の童謡童戯 南要
鹿児島県徳之島方言 武島秋山
編集余言
第三号 1934年3月
筑紫見聞記(一) 宮本常一
肥前諫早昔話 織戸健造
和泉民話 織戸健造
北松尾の□行事 山本泰三 ※□は解読できなかった。
和泉町の仕事歌 南要
阿波脇町の俗信と行事 南要
周防大島手まり歌 田村正徳
和泉山手方言(一) 口承文学同人
編集余事
第四号 1934年5月
播磨国金鶏伝説資料集成補遺 浅田芳郎
黄金塚伝説について 宮本常一
阿波脇町附近の伝説 南要
信濃松本の俗信 石曽根民郎
昔話百合若大臣 宮本常一
和泉羽衣附近の民謡 鈴木東一
和泉池田年中行事(一) 宇沢正太郎
和泉山手方言(二) 口承文学同人
編集余事
第五号 1934年8月
古老から聞いた花巻地方(岩手)の謎々 藤原貞次郎
奈良のナゾカケ 高田十郎
和泉郷荘の謎 南要
和泉信太の謎 谷川芳子
和泉谷川の謎々 平田元夫
和泉北部の謎 宮本常一
摂津櫻井谷の謎々 南要
播州小洞地方のナゾカケ 高田十郎
阿波脇町附近の謎 南要
周防大島の謎 宮本ゆき
古き謎 後奈良院御饌何曽抄 / 新版なぞづくし抄 / 謎車氷室櫻抄
謎についての覚書 宮本常一
彼此録
第六号 1934年11月
契沖肖像 口絵
養壽庵園 口絵
昔話と方言 能田太郎
旅する文芸 宮本常一
契沖和泉隠棲と西山宗因 宮本常一
岩手花巻附近昔話 藤原貞次郎
紀和狐狸昔話 織戸健造
播磨金鶏伝説拾遺 高田十郎
大和金鶏の鳴く処 高田十郎
大阪府下の黄金塚 宮本常一
紀伊那賀郡の俗謡 山口康雄
伊予の瓢箪屋 南要
彼此緑
第七号 1934年12月
昔話採集提唱 宮本常一
昔話の考察 藤原貞次郎
白木三之丞の話(昔話) 田村正徳
きゅうり食はぬ家と伊予の瓢箪屋 澤田四郎作
此池田年中行事(和泉) 宇澤正太郎
堺のまつり 織戸健造
周防大島手まり歌 田村正徳
河内山田村の謎 南要
阿波脇町附近の方言 南要
日誌抄・後記
第八号 1935年3月 ※この号より宮本常一の単独編集から堺木曜会同人での編集に変更
続肥前諫早昔話 織戸健造
若狭遠敷昔話 山口康雄
周防大島昔話四題 宮本常一
昔話奇妙な屁(能勢地方) 水越郁代
近江鼠の国昔話 中西祥男
黄金の瓶のはなし 藤原貞次郎
黄金塚と金鶏伝説(摂津) 辰井隆
蚊封じの部屋 中西祥男
陸中国宮野目村宝来如来伝説 藤原貞次郎
肥前唐此水晶観音由来 井平又十
城に絡まる人中伝説 横井赤城
肥前北高来郡森山村方言(その一) 井平又十
堺の手毬唄 山口康雄
がいる考 南要
民俗時事
同人放言
編集後記
第九号 1935年5月
花巻近郊の昔話 藤原貞次郎
肥前諫早昔話その三 織戸健造
周防大島の昔話二題 浜井敏夫
紀伊伊都郡昔話 山口康雄
昔話にたぬきのばけもの 鈴木東一
民話愚白の話 宮本常一
耳で聞いた話 岩倉市郎
播磨蟻・蟻地獄の方言 玉岡松一郎
肥前北高来郡森山村方言その二 井平又十
葛畑で聞いた俗信 鈴木東一
肥前北高来郡婚姻習俗 井平又十
丹後国網野町の葬礼習俗 浅田芳郎
河内のことごと その一 杉浦瓢
鳥取県御来屋町附近の習俗 片岡長治
日誌抄
後記
第十号 1935年7月
説話の持つ問題性 宮本常一
花巻近郊の昔話(三) 藤原貞次郎
杵島郡昔話 岸川勝次
紀伊伊都郡昔話(二) 山口康雄
和泉国昔話(一) 蕎原の昔話 織戸健造
和泉国昔話(一) 葛畑の昔話 山口康雄
民話早速屋 鈴木東一
周防大島の民話 田村正徳
月觀さま 雑賀貞次郎
泉州北池田村池田下の幼言葉 宇澤正太郎
備中井原町附近の方言 岡本伊三次
庚申に関する俗信 片岡長治
大阪の俗信一つ二つ 鈴木東一
菖蒲内其他 宮本常一
民俗短信 成年期習俗二三 高落松男
民俗短信 支那の火事を消す 御園生翁甫
民俗短信 隠岐の糸満人 桜田勝徳
越後の春亥子の例 小林存
一隅の感想 二つの昔話集 能田太郎
第十一号 1935年10月
花巻近郊の昔話(四) 藤原貞次郎
杵島郡昔話(二) 岸川勝次
周防大島昔話(二) 宮本常一
周防大島昔話(二) 田村正徳
和泉国昔話(二) 蕎原の昔話 織戸健造
和泉国昔話(二) 葛畑の昔話 山口康雄
渾子違父型のはなし 宮武省三
亥の子の辨 小林存
亥の子行事短見 宮本常一
天草島御所の浦方言 鈴木東一
近江伊立村と婚姻 中西祥男
河内のことごと 杉浦瓢
民俗短信
民俗採集の実際問題について(一) 宮本常一
後記
第十二号 1936年3月 ※この号は表紙がないので目次の情報はなし。

目次を確認すると、様々な人物が投稿していたことが分かるだろう。各地域の人物が投稿しているが、興味深いのは以下の記事で紹介した横井照秀が発行していた『田舎』にも投稿していた南要、横井照秀、藤原貞次郎が投稿していることである。特に藤原は岩手県花巻の人物であるが、『田舎』以外の関西方面の民俗学関連の雑誌にも投稿していたことが分かった。

また、以下の記事でも言及した川柳作家・石曽根民郎も第四号に投稿している。全国各地に投稿者・読者がいたことが分かるだろう。

 上述したように『口承文学論集』には、宮本による『口承文学』の編集後記も収録されているが、興味深い情報がいくつかあったので別途紹介していきたいと考えている。

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