謄写版職人・本山桂川、加賀紫水の雑誌『土の香』に物申す!
本山桂川は、『謄写版印刷術の秘訣』(崇文堂、1926年)、『最新謄写版印刷術』(崇文堂、1939年)と謄写版印刷に関するノウハウ本を出版するほど謄写版印刷に精通していたが、以下の記事で紹介した『史談と民俗』第一冊(日本民俗研究会、1934年)の「謹告」には当時何冊も発行されていた民俗学・郷土研究の謄写版雑誌に関する本山の評価が謄写版印刷の観点から述べられており興味深い。以下に引用してみたい。
謄写版印刷といふものは何と云っても便利で重宝なものです。これまでも手刷機械としてはオフセタイプやアイディアル印刷器など暫々使って見ましたが結局謄写版には叶ひません。然しこれとても商売人の手に渡せば決して安上りには仕上りません。止むなく原紙の筆耕から印刷製本まで自分一手でやってのけることになるのです。思へば曽つて連続刊行された奈良高田十郎氏の「なら」、岡山桂又三郎氏の岡山文化資料及び労作動植物方言図譜、それか今尚刊行をつづけておられる浜松飯尾哲爾氏の「土のいろ」―これなぞは此八月までに通巻六十冊を出しておられる。実に驚くべき努力です。加賀治雄氏の「土の香」も中々の熱心ですが、製版と印刷に今少し苦労されたらと残念に思ひます。(後略)(一部を筆者により現代仮名遣いにあらためた。)
高田十郎が発行してた『なら』、桂又三郎の『岡山文化資料』、飯尾哲爾の『土のいろ』は高く評価されているが、加賀治雄(紫水)の『土の香』に対しては製版や印刷に関してもう少し努力が必要であると本山は述べている。これは製版や印刷がよくないことによる読み辛さを指摘したもののように思われる。現在、私も含めて『土の香』を読んだことのある方々が感じるであろうと思われるのは謄写版とはいえ読み辛いという点であるが、本山も同じような評価であったと思われるのは興味深い。『土の香』の購読者も現在の私たちや本山のように読み辛いと感じていたのだろうか。
本山は『土の香』に度々投稿したり、加賀の著書『尾張の方言』に文章を寄せたりしていることから本山と加賀は交流があったと言える。おもしろいのは上述の本山の苦言を加賀が読んでいると思われる点である。『土の香』には「寄贈図書雑誌」という欄があるが、上述の文章が掲載された『史談と民俗』第一冊が寄贈図書雑誌の1冊として『土の香』第13巻第5号(1934年11月)に紹介されている。そのため、加賀は本山の印刷に関する苦言を読んだ可能性が高いが、どのように感じたのだろうか。
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