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趣味人・伊藤喜久男の編集した雑誌『趣味の問屋 蒐集時代』

 以下の記事などで紹介した戦前の大物趣味人・伊藤喜久男は『旅の趣味』という雑誌を編集していたが、伊藤の編集していた他の雑誌に『蒐集時代』がある。この雑誌の創刊号を入手することができたが、投稿者がなかなか興味深いので以下に書誌情報を紹介したい。ちなみに、この雑誌は復刻されており、『粋古堂・伊藤竹酔―昭和前期の軟派出版と古書事業』第二巻(金沢文圃閣、2019年)に収録されている。

大きさ 約11.5cm×約16.9cm、和装、短辺綴じ
印刷:昭和11年2月20日
発行:昭和11年2月25日
編集人:伊藤喜久男 東京市大森区馬込東二ノ一〇九九
発行人:宮原作次郎 東京市本郷区丸山福山町十三番地
印刷所:国文社印刷所 東京市本郷区丸山福山町十番地
発行所:粋古堂 東京市本郷区丸山福山町十三番地
項数:73項

創刊之辞 ちくすゐ
蒐集時代の意義を考ふ 池田文痴庵
民具の蒐集趣味 高橋文太郎
記念乗車券の蒐集 宮下武太郎
旅と蒐集 山形秋渓
絵葉書熱狂時代 伊藤竹酔
福助蒐集縁起噺 井上ふく助
昔の名物今の名物 鷲見東一
西の市の熊手守 小山彰
船印蒐集の栞り 名倉敏克
蔵の一隅より 田中守三
姉様にしひがし 金井虹二
趣味漫言(その一) 田中野狐禅
玩具展と其の出品 梅林新市
西行法師のよんだ歌 鈴木重光
蒐集乱談 伊藤喜久男
かくし言葉の蒐集と文献 中野栄三
全国の趣味相 鎮目桃泉
酒神譚 坂ノ上言夫
珍本紹介
編集後記
広告 旅の趣味会、伊藤竹酔の蒐集協力依頼

表紙
奥付
短辺綴じ

 発行所である粋古堂は軟派文献の出版を行って、この雑誌にも投稿している伊藤竹酔が経営していた出版社である。竹酔については、以下の記事で紹介されており、国会図書館デジコレ(図書館・個人配信)で竹酔の自伝である伊藤敬次郎『竹酔自叙伝』(日本愛書会、1961年)が閲覧できる。他の軟派関係者は、ラブレターの蒐集家であった池田、性に関する文献やことばを研究していた中野がいる。

 竹酔は喜久男とは同じ苗字であるが、たまたまであろう。いつごろからかは分からないが、両者は蒐集趣味という共通項があり、知り合った。編集後記に「去年の秋に『蒐集時代』編集の交渉をうけたが、何分にも恁うした特殊な雑誌だけにいろいろ発行者と協議して」とあるので、竹酔から喜久男に雑誌の編集を依頼したと言える。

 他に投稿者について、鷲見、喜久男などの趣味人以外に民俗学研究者が含まれているのが興味深い。鈴木、高橋は民俗学研究者で、鈴木は神奈川県内郷村で民俗学、郷土研究を、高橋は渋沢敬三が主催していたアチック・ミューゼアムで民具の蒐集や研究を行っていた。鈴木の「西行法師のよんだ歌」は、堀越芳昭「鈴木重光著作目録 : 柳田國男と親交のあった神奈川県津久井郡内郷村在郷の郷土誌家・民俗研究者」(『研究年報社会科学研究』山梨学院大学大学院社会科学研究科、2019年)に載っていなかった。以下の記事でも紹介したように、鈴木は加賀紫水の編集していた土俗趣味誌『土の香』にも多くの文章を投稿しており、まだ確認されていないだけで他にも趣味誌への投稿がありそうである。

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