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『郷土風景』という気になる雑誌

 先日、日本の古本屋で調べ物をしていた時に『郷土風景』という雑誌をたまたま発見し、聞いたことがなかったので興味本位で購入してみた。後で調べてみたら、みんなお世話になっている書誌データベース「ざっさくプラス」にも一部しか登録されていないことが分かった。私が購入したのは創刊号である『郷土風景』第1巻第1号(郷土風景社, 1932年)であるが、以下に書影、目次を紹介してみたい。

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創刊のことば 谷川要史
古代若者の性的問題と特権 中山太郎
郷土料理美味廻國 本山荻舟
古都日向の印象 日野巌
伊勢の名物 大崎四郎
土俗玩具漫談 鷲見東一
仙台名物石崑崙 満谷雨六
大阪俄 香魚市人
詩と芸術の國茨城 津川公治
豊前民謡一ツ二ツ 梅林新市
田助女郎 西澤安太郎
姪浜地方年中行事 梅林新市
京都名物おどり 木下栓一
奈良の花柳界 山野順介
島原の夢 高原慶三
岡山民謡 高木勇
かわぞうり 藤原英比古
芸術発達史 久米龍川
我が郷里の話 森潤三郎
越後獅子角兵衛獅子 渡邊亮村
東京の芸妓屋街 市場武二
名物ローマンス 松川二郎
神代神楽教本 橋本春陵
絵馬ゴシップ 下村作二郎
雛祭の沿革 湯浅利夫
性的神の分布 栗原錦一
南伊豆の天国白浜村 吉田団輔
神代神楽要略 柳生牛智
飲食心得歌番附 小松利長
民謡と社会相 岡田膺佛
神鹿 吉村鴨村
(一部を現代仮名遣いにあらためた。)

「創刊のことば」を書いている谷川要史(詳細不明)という人物がこの雑誌の編集者である。私の知見のなさもあるが、投稿者で知っているのは民俗学関係者の中山太郎、梅林新市、日野巌しかいない。ちなみに、目次には載っていないが斎藤昌三が「浜の国際俚謡」という文章を投稿している。目次から民俗学の論文と思われる文章から地域の名産品の紹介と思われる文章までいろいろな記事が載っていることが分かる。以下の「創刊のことば」に表現されているように、この雑誌は学術的なものではなかったようだ。

(前略)その示す郷土の種々相は、従来、土俗学、民族学として、これが専門的な仕事として発達しているのみでありますが、われわれは、むしろ、これを無心無生の心をもつて眺めたいのであります。一番子供らしく、また有りふれた事柄として、忘れて仕舞はれようとした部分を、互に手を肥ねて心緩やかに語り合ひたいのであります。(後略)(一部を現代仮名遣いにあらためた。)

この雑誌が学問的な方向でなく、当時、柳田国男が距離を取ろうとしていた趣味的(道楽的)な方向であったことが分かる。しかしながら、この巻の編集後記で編集者の谷川要史は、次号に執筆を依頼して予約した人物として柳田国男、早川孝太郎、小寺融吉、折口信夫の名前を挙げている。そのため、この雑誌は研究者を排除したものではなかったことが分かる。この雑誌の幅広い人々が投稿していたという性格は、同時代に三元社から発行されていた『旅と伝説』に近いものだったのではないだろうかと考えている。

 また、『郷土風景』の出版の背景には地域の文化や歴史の見直しが1930年代にあったと思われる。(注1)この雑誌の「創刊のことば」にも民族意識の重要性が述べられているので、当時のナショナリズムを高める上で「郷土趣味」は良い入口のひとつであったのだろう。

(注1)この1930年代の背景に関しては以下の記事で紹介した本が詳しい。柳田国男の民俗学もこの背景の中にあった。



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