![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162892025/rectangle_large_type_2_9e6775b1991bc49cd31997c8efb5b081.png?width=1200)
「女神の継承」ミのつく自由業
お仕事されている方、今の仕事って自分が好きな仕事ですか? それとも、そんなに好きではないけど向いている仕事ですか? あるいは好きでも向いてもいない仕事ですか?
以下、ネタバレを含みます。
タイの山間部で精霊に仕える巫女として暮らす女性の、巫女の役目の継承に密着取材した映画(というモキュメンタリー)です。
Vtuberがおすすめのホラー映画を紹介する企画で知りました。
「赤ちゃんと犬が出てくるんですけど、最悪なこと全部起こります」
確かにその人の言葉通り、赤ちゃんと犬に不幸なことが起こってほしくない人にはとても見せられない映画です。犬が死ぬかどうかだけ教えてくれる映画サイトありますよね。そこにもばっちり載っていて、死因の詳細についてのコメントまで書いてありました。英語のサイトなのですが、地雷って英語だとtriggerって言うんですね。
「女神の継承」は18禁の映画ですが、見ていて楽しい18禁ではなくて、本当に最悪な方の18禁でした。犬と赤ちゃんが地雷ではなく、18歳以上の人で、最悪を味わいたい人にはぜひ見てもらいたいです。
タイが舞台の映画って見たことないので新鮮でした。宗教的な文化と現代の暮らしを行ったり来たりしているのを感じます。薄暗いところにもだいぶ科学的な光が当たるようになったけど、まだ神秘が残っている感じです。お葬式のシーンがあるのですが、タイのお葬式って電飾がキラキラしていてパリピ感があってとても良いですね。
精霊について、亡くなった人たちの魂やあらゆるものに宿る超常的な存在と説明されています。少し日本の神仏に近いのかなと思いました。八百万の神や仏様。人を守ってくれることもあれば害をなすこともある。
映画では村を守るバヤンという女神の精霊と、代々バヤンの巫女を務める一族のことが語られます。主人公の女性はなかばなりゆきで巫女の役目を継承し、持って生まれた能力というよりその生真面目さによってその務めを果たしています。本来は彼女の姉が巫女になるはずだったのですが、姉は前時代的な巫女の役目を嫌って拒んだのです。専門学校で服飾を学んでいた主人公は村に呼び戻され、巫女を継ぐことになったとのこと。
主人公の女性に取材している最中、今度は姉の娘(主人公の姪)に巫女が継承される前兆が現れます。姪のミンは普通の現代っ子という感じで、ハローワークで働く明るくて美人な女の子です。巫女を信じていなくて、巫女をしているおばを内心馬鹿にしています。母親(主人公の姉)がそもそも巫女を見下しているのです。
見ていて、ミンをはじめ、出てくる女性たちがみんなかわいそうでした。巫女に選ばれる前兆として謎の体調不良が起こり、巫女を継承する儀式をするまで続きます。まるでまっとうな日常生活を人質に脅されているようです。一族の誰かが巫女を継がなければならず、巫女になれば次の代に引き継ぐまでは好きな職に就くこともできない。実体のよくわからないものに祈ったり、曖昧な声に従って村の人の相談にのったりする生活。
一度社会に出た若い女の子なら、普通に働いて生きていきたいだろうと思います。特に、自分の給料で好きなものを買う自由を知ってしまった後ならなおさら。巫女になってしまったら出会いの機会も減って結婚も難しくなるかもしれません。実際、主人公の女性は独身です。
謎の体調不良で仕事もままならなくなり、クビになってしまうミン。最初は巫女の継承の前兆と思われましたが、実はミンの体調不良はバヤンが原因ではなく、バヤンではない別のものが取り憑いているせいだとわかります。ノーマークだったミンの父親の一族がどうやら末代まで呪われていたらしいのです。
途中までどこまで現実の精神病の症状として説明できるか考えながら見ていました。ファンタジーなことは何も起こっていなくて、現実の人間が一番怖いパターンです。精霊を信じる人たちがかえって事態を深刻に考えているだけではないか?と。何か理由のつく現実的な事象であってほしいという願いでもありました。
水に浸したミンの指から黒い液体が出てくるあたりで、ああだめだ本物だったと悟ります。そういえばドキュメンタリー風のホラー映画でした。
主人公の女性は祈りに儀式にとすごく頑張るのですが、終盤彼女が語る通り、才能に恵まれているわけではないので、たいてい後手後手に回ってしまいます。良くないことが起こり、険しい顔で遠くを睨む主人公。ミンに取り憑いた霊は完全に主人公のキャパを超えていました。勝ち目のない戦いに責任感と親族の情だけで臨む主人公もまた、悲劇のヒロインです。精霊に翻弄されるミンに若い頃の自分を重ねて、なんとか救ってあげたいと思ったのかもしれません。ただ、完全に引き際を失ってしまったように見えます。
途中で知り合いのプロの霊能力者を頼るシーンがあります。ホラー映画でプロの霊能力者が出てくるのってフラグですよね。プロがもっともらしく理屈を説明すればするほど呆気なくやられて死んでしまいがちです。
後半は夜中の監視カメラ映像パートもあって最高です。ただ、犬好きの人には非常につらいシーンでもあります。
映画全体としては、不気味な前兆、儀式、精神異常、監視カメラ、霊能バトル、ゾンビパニック風のサバイバル、などなど、あらゆるホラー映画のおいしいところを集めてきたという感じでとてもお得感があります。終盤の撮影クルーのパニックぶりのせいで、見ているこちらは逆にスンと冷静になってしまいますね。なすすべもなく、何らかの復讐が果たされて終わるバッドエンドなので、好き嫌いは分かれそうですが、わたしはかなり好きです。
こんなにドラマチックでなくても、精霊の巫女という役目は少しずつ時代の波に押されて途絶えていくのだと思います。どのくらい現実にもいるのかわかりませんが。不自由な思いをする女性がいなくて済むのならそのほうがいい気すらします。
現代に生きている以上、主婦含め、自分で仕事を選んで生きていくしかないです。好きな仕事であろうと、好きではないけど向いている仕事であろうと、どちらでもなかろうと。
とりあえず少しだけ宝くじを買いました。