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売上アップに貢献する「ファンコミュニティ・マネジメント」


ファンコミュニティアイデンティフィケーション。アカデミックなスポーツビジネス界でひそかに高い評価を得ている理論です。スポーツクラブとファン。そんな「タテの関係」とは別に、「ヨコの関係」、つまりファン同士のコミュニティが存在することを指摘したものです。要はファンやサポーターは「つるむ」説。クラブの応援を通した仲間意識の強さに着目しています。

クラブ名、カラー、エンブレム、チャント(応援歌)といった記号的な特徴は、ファンが自分自身を意識するときに大事にする概念です。エンブレムをシンプルな形に修正する事例は近年増えていますが、すんなりと進まない傾向が指摘されています。クラブオーナーが変わって、リブランディングと称したクラブ名の変更に猛反発、変更の取り下げといった出来事もありました。

自己を同一化するようなクラブの特徴的な記号。たった数名のファンではなく、ファンコミュニティという大きなうねりによって、結果として記号は維持されることになりました。換言すると、ファンコミュニティがブランドを守ったということでしょうか。自分が所属するファンコミュニティを象徴する「独自性を守りたい」という強い意識の表れなのかもしれません。

かつてメディアをにぎわせた「カープ女子」 いまも多くの女性ファンがサポートしているプロ野球球団が広島カープです。赤いユニフォームをおしゃれに可愛く着こなすファンは、一般的に想起されやすい、昔ながらのファンの概念とは幾分かけはなれた印象が強い。そんな一般論はどこ吹く風、カープ女子のイメージが自分に合っていることの方が、カープ女子になるためには重要です。ファンコミュニティが形成されるときには必ず「類似性」が影響していると言われています。

共通の価値観があれば、お互いのことを理解しやすく、信頼関係もつくりやすい。ファンコミュニティのためなら、時間、労力、知識、能力などを快く差し出して、ファンコミュニティを支援します。同じ目標や考え方は、社会的関係に調和をもたらして、支援的行動をうながす働きがあるとされています。ファンは、自分が所属するファンコミュニティや応援するクラブのために、献身的に活動するようになります。

この理論を言語化し、研究を進めている大学の先生とは長年の付き合いがあり、前職ではアンケート調査に協力させていただいた経緯があります。そのときは上のような概念を、なかば暗黙知として感覚でとらえていました。つまり、ファンコミュニティという言語化ができず、「言われれば」わかるけど、「言われなければ」うまく説明できないといった感じ。

ですが振り返ってみると、私自身、ファンとの交流を通して「ファンコミュニティ」の存在には気づいていました。以下は一例ですが、ファンがいかにファンコミュニティを大切にしているかを如実にあらわした事例です。

ファンは、試合前に「応援ミーティング」のような打ち合わせを実施。今日の試合では、対戦相手、自クラブの現状、集客状況など、さまざまなデータを考慮した「応援スタイル」を検討します。「今日はどんな感じで応援するのか」について真剣に、朝早くスタジアムに集まってあれやこれや議論しているのです。

毎日、自クラブのHPを何度もチェックしたり、ツイッターでつぶやいたり、ファン同士でリツイートやコメントをし合ったり。積極的にグッズを購入して、「少しでも売り上げに貢献したい」という本音を隠そうとしません。翌日には普通に勤務がある人も、日曜日のアウェイゲームに赴いて応援、帰宅は0時を過ぎることが日常です。

「修行」という言葉を用いて、ささげた時間、お金、労力への報いが得られないときは自虐的に、自分の状況を表現。ファン同士でそんな会話を交わすこともまた、コミュニティの連帯感、結束や一体感を強化することになるのでしょう。

ファンと一定の交流を続けていた私は、当時営業担当として毎月厳しいノルマを課せられていました。そんな事情を察知してか、「チラシ配り」に積極的に参加してくれることも珍しくありませんでした。メルマガ配信担当だった私に、惜しみなくインタビューの時間を捧げてくれたりもしました。

私がグッズを考案、リリースすれば、まっさきに購入してくれるのもまたファン。ファンに積極的に近づいてそばにい続けたことで、「ファンコミュニティの一員」とみなされていた私を「手助けしたい」という思いが、多くのファンから、その言動をとおして伝わってきました。

なんとなく「キャラ化」していた私。たとえていうなら、スナックで働くアルバイトの女性スタッフといった感じでしょうか。常連のお客さんはいつも、不慣れでぎこちない女性スタッフに見かねて助け舟を出してくれる。店内がいそがしくて女性の手が回らないときは、グラスを運んでくれたり、テーブルを拭いてくれたり、自分で飲むビールをサーバーで自ら汲みにいってくれたりもする。

失敗の多い女性スタッフよろしく、私もそんな感じでたくさんサポートしてもらいましたが、そこには「信頼関係」があったと思います。人と人とのコミュニケーションが中心に。一企業と消費者というタテの関係ではなく、ファンコミュニティというヨコの関係が形成されていました。

そんな頼りない私でしたが、営業成績はすこぶるよくて、それはすべてファンのサポートのおかげでもありました。ですが実体験をとおして言えることとして、ファンコミュニティの存在を知り、中にはいり、コミュニティの成員として認められるという一連の活動が、クラブの売上に寄与することは間違いないと思います。そしてそれが科学的にも正しいこととして、いままさに研究がすすめられているということ。

まだ研究は道半ばであり、「ファンコミュニティ2.0」へ突入する間際。今年はまた驚くような科学的に信憑性の高いデータが発表されるかもしれません。私も研究者のはしくれとして、なんとかしがみついて関わっていきたいと思う。「現場経験」を強みとして、いかにアカデミックな世界に入っていけるか?がんばります!

久保大輔




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