見出し画像

人を狂わせる丸亀製麺のタル鶏天うどん

10月19日土曜日。取り急ぎこの気持ちを書き記さないと気が済まないため、今日のお昼に食べた、丸亀製麺(以下、丸亀)のタル鶏天うどん(以下、タル鶏)への思いを語らせて欲しい。

天高く馬肥ゆる秋になると登場する丸亀の風物詩、タル鶏天うどん。鶏自体は季節ものではないはずなのに、なぜ毎年秋限定なのか。開発担当者の方、是非教えてください。

夫曰く、丸亀ファンたちは、この秋の風物詩が到来すると一目散にお店にかけつけ、すぐさま読了ならぬ食了の感想をSNSにあげる人がたくさんいると言う。超越したタル鶏愛を持つ者は、時にドストエフスキーまでもを引用してしまうほどだそうだ。

そんな噂を聞いてして食さないわけにはいかない。昨晩夫から、「明日の昼は必ず丸亀製麺に行きたい、行こう」と誘いを受けた。お宝をゲットするかのような、ワクワクを超え少し興奮した気持ちを抱きながら眠りについた。

翌日、満を辞してお店へと向かった。

入店し、迷わずに私は冷たいタル鶏の並を注文。夫は冷たいタル鶏の大に、スケソウダラの天ぷらまでとっていた。注文を受け、先輩らしき店員さんと後輩らしき店員さんが準備を開始する。先輩店員は後輩に、「大の方は小さめの四つ、並の方は大きいの三つ」と鶏天のサイズに関しアドバイスをしていた。小さめの四つと大きめの三つ、つまり鶏のサイズに大差がないのでは、という考えが頭の中に浮かぶ。案の定できあがりを見てみると、ボリュームに大差がない、というかむしろ並のほうが鶏が大きく見えるような気もする。なんの競い合いかもわからないが、夫に勝った気持ちになった。

うどんと天ぷらをお盆の上に乗せレーンを進む。いざお会計、という私たちの前に刺客が現れた。レジの横の、うどーなつ、だ。

うどんを30%使用した、ころっとしたかわいいサイズの丸い揚げドーナツが、紙袋に5つ入っている。その昔一世を風靡したシャカシャカポテトやシャカシャカポップコーンと同様に、四種の好きなフレーバーから一つ選んで袋に放り込み、口を閉じてシャカシャカ振り、味をつけるようだ。判断に時間はかからなかった。夫と私は無言で頷きあった。「これも買おう」、の合図だ。

お会計を済ませた後は水汲み場、そして薬味コーナーへ移動する。私は信じられないくらいのネギをうどんに被せた。ネギが取り放題という事実に私は興奮していた。夫はというと、スケソウダラの天ぷらを載せたお皿に、私を凌駕する量のネギをしれっと載せている。うどんの上に載せるのではなく、別添えにするとは恐ろしい奴め。またもや何の勝負をしているのかわからないが、夫に負けたような気持ちになった。

テーブル席に着席し、お腹がぺこぺこの私たちは、昨晩から恋焦がれていたタル鶏天にかぶりつく。

はあうまい。うますぎる。

会話も少なめに、一心不乱に食べ進める。タル鶏、ネギ、うどん。タル鶏、ネギ、うどん。永遠に続いていきそうなループは、私たちに多幸感をもたらす。

隣のテーブルに男性二人客がいた。一人の男性が、「先日子供が生まれまして」というほっこりエピソードを話だした。片耳をそばだてつつも、変わらずタル鶏に夢中になっていると、その男性は「妻と結婚する前、両家顔合わせをとあるお店で行ったんですよ。そしたら知らない男性が新郎側の席に座っていて、え、誰、ってなって。その人、机の下から静かにメモを渡してきたんすよ。そこには「今日だけ父親をしますのでよろしくお願いします」って書かれていて」と話を続ける。ドラマか、と突っ込みを入れたくなり、さすがにタル鶏に夢中だった我々夫婦も想定外に箸を止めることとなった。片方の男性は「え、え、え、どういうこと」と笑いながら混乱している。男性が重ねて「俺母子家庭だったんすよね、で母親が多分その日だけ父親を手配してて」という話している。その後もものすごい母親のエピソードが続いていたが、話をがっつり聞いていることがばれるといけないので、我々は残りわずかなタル鶏に集中して向き合い、完食した。マラソンを走った経験はほとんどないが、マラソンを完走したかのような爽快感と満足感が、心の中に広がっていく。

食後は、タル鶏を食べ終わるのを静かに待ってくれていたうどーなつを頂いた。きび砂糖、焼き芋、ピザ、カレーという四種の味付けラインナップがある。初めて頂くので、まずはお手並み拝見、シンプルなきび砂糖を選択した。スプーン一杯分すくって、袋に入れて、シャカシャカする。何かしらのものが入った袋や箱をしゃかしゃかするのって、楽しい。この世にマラカスが存在する理由がわかった気がした。

ポテチの袋を開封するみたいに、うどーなつの紙袋を観音開きにした。一つ口に放り込む。もちもちだ。うどん30%を感じはしないが、とにかくもちもちで、素朴さがある。手は止まらず、次々と口の中に放り込まれていくうどーなつたち。もしよかったら、次は違うフレーバーを試してみてね、なんて控えめなささやきが聞こえてくる。また丸亀に来たらうどんとセットで購入してしまいそうだ。

そんなこんなでおなかも心も大満足で丸亀を立ち去った。駅へ向かう道を歩きながら、なんとなく頭がポーっとしていることに気づく。タル鶏、加えてうどーなつにはある種の麻薬が入っているのではないか、なんてふと思う。一心不乱に食べ進めた後の多幸感はなんとも表現がしがたい。とにかく最高なのだ。

もはや丸亀製麺という存在が、麻薬的で、我々を狂わす存在ではないか。恐るべきタル鶏、うどーなつ、ひいては丸亀製麺。私はこれからの人生で何度足を運んでしまうことになるのだろうか。




いいなと思ったら応援しよう!