追悼 湯浅穣二先生の音楽哲学を参考に
湯浅穣二先生逝去
2年前の一柳慧先生、今年2月の小澤征爾氏に続いて、先日湯浅穣二先生が逝去されました。面識はありませんが、同じ時代を生きられただけで本当に感謝しています。
来週8月19日発売の『音楽家の歴史吸収術』には存命音楽家として書きました。執筆が7月31日、逝去が7月21日、報道が8月5日、この時間差を記念にしたいと思います。
音楽哲学を参考にしてください
湯浅先生は音楽哲学なしでは勉強できません。
①プロジェクション
②音響エネルギー
③コスモロジー
この3つです。
①プロジェクション
《箏とオーケストラのためのプロジェクション「花鳥風月」》は聴いたことがあると思います。何かとこの「プロジェクション」という言葉が入るのですが、「カッコイイけどよくわからない」というのが正直なところでしょう。
これは実存主義の哲学者サルトルを勉強しなくては意味がわかりません。「音楽哲学セミナー」では詳しく説明しますが、簡単に説明すると、サルトルは「ナイフなどは存在理由があるが、人間は存在理由を作るべき」という考え方です。つまり自分が生まれてきた理由は自分が作るべきということです。私達音楽家が大いに同意すべき考え方です。
さらに誰も頼れず孤独で、責任があり、社会の仕組みに放り込まれた存在なのです。これは「人間は自由の刑に処せられている」という有名フレーズで知られています。この人間が「放り込まれている」ということを「投企」と呼びます。これをフランス語で「プロジェ」と呼びます。これを英語で「プロジェクション」と言います。
語弊を恐れずに簡素化して言うと「自分はこういう人間だから無理、あの人はこういう人」と決めることがダメということです。社会に投げ込まれた存在として意識を持って自分の存在理由を作り上げようということです。ハイデガーの「世界内存在」とも似ています。
この夏こそ自分の音楽哲学を磨き上げてください。湯浅先生の音楽哲学を最大限に見つめる最高の時期を頂いています。
②音響エネルギー
「音楽とは音響エネルギー体の空間的・時間的推移」
このお言葉を何度論文で引用したことでしょうか。私達、音響学、音響心理統計、空間音響に携わる人間は常にこの湯浅先生の言葉を常に頭に入れておくべきです。音楽を力学として捉えるこの「音楽学」的観点がなければ私達は音響に意識が行かないのです。黛敏郎のスペクトル解析はじめ、この時代の音楽家の工学的な音楽哲学は現在の私達音楽家の在り方、学習の仕方、意識の向け方を教えてくれています。
③コスモロジー
自分の経験、学習、時代、民族が音楽に反映されるという考え方・・・・・・というと非常に安っぽくなってしまうのですが、まずはこう捉えてください。でも、リオタールの「小さな物語」や、フッサールの「超越論的還元」と捉えることはできないでしょうか? この音楽哲学義論だけで一学期分の講義が可能です。教えるのではなく、皆で考え合うというアメリカ式の講義です。
まとめ
ご冥福をお祈りいたします。
今後とも参考にさせていただきます。
津本幸司(オフィシャルHP)
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