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大山詣に行きましょう!②(照子と参の珍道中物語)

新しい女性キャラと、前回と同じくみなさんを昔の「大山詣・タイムトリップの旅」にご案内する大山マイルこと参兵衛です!

これまでのあらすじ~参兵衛の旅のはじまり編

オヤジ「あのお武家さん家の壁の漆喰を修繕したのは参兵衛かい? 良い出来だからまたよろしくって言ってたよ。」
「へぇ。」
「けどな、お前は愛想が無さすぎる。お茶を用意したのに『どうも』しか言わねえから、お武家さん、気を使ってたよ。もっと愛想よくしねぇと仕事増えねぇよ。」
「…へぇ。」

アニキ「ちっ! オイラがとってきた吉原の大店の建て直し、参兵衛のヤツがやんのか。オイラがせっかっく大店と懇ろにしてとってきた仕事だってのにヨ。横取りされたようだヨ!」

オヤジ「参兵衛、あの縁談だけどな。その、なんつうか、ご破算になった。まあ、また良い縁談持ってくるから気にすんな。」
「…え。オヤジ、なんでなんか、その、理由は…。」
「前にも、愛想よくと言ったろ。お嬢さんが先日、遠くからお前さんの仕事を見に来たんだ。で、お前さんを見て、怖いとな。お前さんがすっと仕事に来て、たいしてしゃべらず仕事して、すっと帰っていくのが怖いとな。」

ちっ。オヤジは「愛想よくないと仕事増えねえぞ!」と、オイラそこまで立派な大工になりたいわけじゃねぇや。
アニキは仕事たくさんとってくるのに、オイラがそれに加わるのが気に食わねぇみたいだし。嫁なんかいらねぇや。他人が家にいるなんざ、毎日息が苦しくなりそうだ。

毎日の晩酌。それだけがオイラの楽しみだ。この店はうめえ料理とうめえ酒を出してくれる。毎日働き、ここで呑めればこれ以上はいらねえ。
ちっ。後ろのヤツら、はしゃぎすぎだ!
もう少し静かにできねぇか。

「昨日、江戸に帰ってきたよぉ。富士山登ってきた! いやあ、さすが霊峰富士だね!なんだか、生き方が変わったっていうか、たまに旅に出て、遠くのところを見るとおもしれぇな!」「なんでえ、一人かい。オイラも誘いなよぉ。」「いやいや、富士講だ。まあ、自分の行きたいとこには行けねぇが、みんなでワイワイ行くのも楽しいもんだな!」

…ここでオイラは旅に出るを決めたかもしれない。毎日、職場と家と、居酒屋をウロウロするだけの毎日でなく、仕事ねぇ日にちょっと遠出をする。こんなまわりの人間たちに愛想よくし、悩む自分にまっぴらだ。
人を連れずに、オイラ一人で旅に出る。行きたいところへどこでも行けるんだ!見たいところあれば、どこでも見れるんだ!夢のようだな!
「大山詣で」はけっこう旅に慣れてない自分にもできそうだ。数日なら休みも取れるだろう。はじめて遠い旅に出る。ああ、楽しみだな!

んで、当日…。

「わたしは神様だ! お前は死んだ! 死にたくなければ、練馬を救う300年後の未来から来た女の子を大山へ連れていくのだ!」
「はあ!? 何言いやがる、突然!」
「行かねば、お前は死んだままだ!!その代わりにお前に300年後の未来が見える【邪眼】を授けよう!邪眼!なんだその中二病的な名前!ひゃひゃひゃ!」

300年後の世界が見える、変な目になったらしい。

ちっ、赤坂にきたら女がいるらしいが、なんだあの妙ちくりんなカッコウは!?

大山道の起点、赤坂御門に変な格好した女がいた!
令和の女子高生、豊島照子です!
まいどです~! 豊島照子だよ!
過去記事に練馬散歩の記事を挙げてるよ!https://note.com/tetsuo70390/n/n4a21feca2a4f
練馬区石神井こそが豊島!!

「あなたが大山マイルね!?」(オイラのことらしい?)
「あたしは豊島照子! 今、ききんで苦しむ練馬村を救うべく、「雨降り山」である大山に助けてもらうべく、参拝に行くの! あなたはあたしを連れて行きなさい!」
(ああ、最悪だぜ。オイラ一人の旅が、つまらねぇ旅になりそうだ…)

「ねえ! あそこに300年後、ファッションビルが!?」
「ねえ! あそこにタワービルが!? コンビニはどこ!???」
「ここが青山通り! 世界を支配する国連大学があそこに!!」「あそこに巨大な渋谷駅が!!」
(何言っているかわけがわからないぜ…)

宮益坂では、甘酒おごらされたうえ、オイラの団子全部食いやがるし。挙句に岡場所や遊廓の話したら、
「あたしというものがありながら、ほかの女に浮気をするなんて!」
(※筆者註…これは参兵衛の夢の話で、じゃっかんの記憶の改変があります。)
「近寄らないで! 穢らわしい! 話したくもないわ!!」
以後、一切しゃべらなくなる。勝手な野郎だぜ。 で、とちゅうで消えた。何なんだあいつは。っていうか、あの女を連れて行かなかったから、オイラは神様に殺される…!?

「ぶは!! はあはあ…」
あれ、ここどこだっけ。そうそう、今は世田谷村辺りの宿にいたんだっけ。昨日は飲みすぎたぜ。
ちっ。なんだかんだで、あの女が消えて数日たつが、オイラは生きているぜ。はあ、せいせいすらぁ。やっぱ一人の旅が最高だな。

…まあ。妙ちくりんなカッコウしてたっけ。なんだ、「花の女子高生ファッション」って。意味がわからねぇ。あんな女、連れて歩くのも恥ずかしいぜ。
…まぁ、色は白かったな。髪もつやがあり色っぽかったが、気持ち悪いカンザシつけやがってたっけ。けど、いい匂いしてたなぁ…

池尻から三軒茶屋・世田谷新宿。江戸の郊外を楽しもう!

赤坂から大山道がはじまり、渋谷の宮益坂を下り、道玄坂を上る。宮益では茶屋があり、一服できた。けど、こんな何もねぇ谷底で気が狂ったように「ここに渋谷駅が! ハチ公が! 109が!」などとワケの分からぬことしゃべりはじめ、オイラも調子にのり「岡場所で遊女が見れれば最高だ!」などと言ってしまった。
女は「いやらしい!」ってピーピーギャーギャー叫んでいたが、「団子代返しやがれ!」というと「そいういえば、お金が無いわ…」とか言い始め、「あたし、旅ができないわ…」とかつぶやき始める。
道玄坂を上り、しばらく歩いて池尻稲荷へ。女は消えていた。まあ、何事も銭がなきゃ旅もできねぇ。女は終わったということか。

池尻稲荷には「涸れずの井戸」というものがある。赤坂からロクに飲み水がないため、ここで旅人は喉を潤す。

300年後の池尻稲荷らしい。

まあオイラは茶屋で甘酒を飲んだのだが、あの怒鳴りあいがあったか喉はカラカラだ。しかもここの水を飲むと病気にも良いらしい。ありがてぇ、オイラはたらふく飲み竹筒に水を汲みんだ。

子供たちが「かごめかごめ」してやがる。かわいいもんだ。(筆者註、池尻には「かごめかごめ像があります。)

やがて歩くと、三軒茶屋だ。

信楽、田中屋、角屋の3つの茶屋が並び、ちょうどここに追分がある。オイラは旧道を目指していく。

信楽がとてつもない城に化けやがったぜ…
この「カラオケ」てヤツが、信楽か。

茶屋で饅頭や濃いお茶を楽しむ。有名茶屋は格別だな。世田谷村を通ると、代官様の屋敷があり、その界隈で宿をとり、2・3日ブラブラ歩く。

三軒茶屋に戻っては、太子堂村の円泉寺の聖徳太子様を拝む。
また、北沢村まで行くと、北澤八幡宮の参道を歩き淡島明神では3と8がつく日にお灸を楽しめる(現在の森巌寺に「粟嶋の灸」の看板が残っている)。

北澤粟島社に、池尻祖師堂。
オイラの目は邪眼というらしいが、300年後の世界が見れるらしい。

なまった体、特に腰と肩こりに悩んでいたが、お灸が染みるな!
まあ、熱いのだが。あちちっ! けど、江戸っ子はこの熱さがたまらねぇ。
熱すぎるのだが。火傷してねぇよな。

オイラなんかより、女性のお灸の絵をお楽しみください。

この辺りの神社仏閣も、良い暇つぶしになる。参拝すれば、何だか御利益もありそうだし。何より、この農村風景が心地よいぜ。オイラも何だったら農家になるかね。
大山道はオイラのような参拝客だけでなく、農家や商家の荷物輸送の道だ。東海道などの主要な街道は、御上(幕府)の管理も厳しいから、むしろ農家や商家が盛んに使っているようだ。オイラも東海道を渡り、いつかは御伊勢様(伊勢神宮)に参拝の旅に出たいのだが、箱根の関所とか超えられるのかどうかがまだ不安だ。いつかは行ってやる!!

大八車や天秤担ぎにはたくさんの荷物。ここで採れる、多くの野菜。または相模国(神奈川県)方面から、薪や炭、海産物や秦野のたばこなどの名物が運ばれる。この地域でも野菜が楽しめる。ナス、キュウリ、大根。この辺で採れる「秋づまり(大蔵大根)」は、ぬか漬け好きなオイラにピッタリだ。
ただ、農家が江戸から運ぶ下肥な。オイラたちの糞便だろ。その臭いが何だか心地悪いぜ。
世田谷村は、徳川様最強の家臣である井伊家の領地。豪徳寺は井伊様の菩提寺だ。その向こうに、世田谷城のあとがある。
代官屋敷のまわりは市が開かれていたようだが、かつては月6回の六斎市が開かれていたようだが、東海道ができて以来、寂れたらしく、年に1回くらいしか開かれないようだ。

(筆者註、いわゆる世田谷代官屋敷前のボロ市は、江戸時代は年に一度の年末の「歳の市」になったらしいが、ここでは盛大に開かれるのをこの日とし、普段もちょこちょことお店はある設定にしました。参兵衛もここで買い物を楽しんだことにしてください。)
こういう日用品が盛大に売られてたようです。
参兵衛くんも新しい火おこし道具を購入。


(筆者註…豪徳寺は井伊家の菩提寺で、招き猫発祥の地と言われています。けど、当時はあまり知られなかったみたい? このようにある程度、僕の妄想で書いていますので事実誤認はご容赦を。)

けど、この通りも割と店が並んでいる。酒屋(居酒屋)に行ったり、煙管(たばこ)を吸いながら、ブラブラと過ごす。

再び、妙な女が!

痛った!なんかぶつかった! 
ん?女が走ってる。男が追いかけてるな。二人くらいか? 女、足速ぇな! まあ、走りにくいだろうな、あの着物じゃあ。しかし、よくも細かく足が動きやがる。そのうち追いつかれるだろうな。ほぉら、捕まった。

「たすけてぇえええ!!! お金ならあるわぁ!!」
助けるか? めんどくさそうだ? いや、江戸っ子として逃げたら恥だな。
って、何だか女と目が合うな。…って、明らかにこっちを見てるな。

しかたねぇ。「何してんだ、離してやんな。」
「いや、うどん食って、銭払わねえから。」
「お金なら、あるわ!」「なら払いなヨ」
「払い方がわからないの…」「わけわかんねぇだろ。『財布出しな』って言ったら、『泥棒!』とか言われてヨ。」

「ねえ、アンタ。財布出すから払ってくれる?」
オイラは女が出した財布から、うどん代を払おうとした。
え? ちょ、銭じゃねえな。大金だ! 財布が重ぇ、いくら入ってるんだ?
とりあえず小判を一枚…。「小判だされても、釣りなんてねえんだが。」
(※うどん代はだいたい300円くらい、小判一枚数万円くらいだとしましょう。)
「こっちも小判出されて困ってヨ。銭がねえか聞いたら、ナイと言われてヨ。困ったからとりあえず財布全部見せてくれ、無いなら銭をあとで持ってきてくれっつったら、『泥棒』とか言い始めてよぉ。走って逃げたから、追いかけたんだわ。」

なんでぇ。どこぞの金持ちの御嬢様だ!?
「どっかから、持ってくることはできねぇのか?」オイラは女に声かけたら、「頼れる人が誰もいないの」「家族は?」「いないの…」
迷子かっ。

ふう。「じゃあ、おいらが立て替えておくよ。いくらで。」「十六文で」
まあ、たいしたこたあねえや。支払うと、男どもは去っていった。
「ん。」女は小判を突き出す。
「はあ? いらねぇよ! 江戸っ子の心いきだよ!なめんじゃねえ!」
女は泣きながら小判を突き出す。「お団子代…」「はあ? 団子なんて食わねぇよ。」「甘酒代…」「酒は飲むが、甘酒もいらねぇし!小判ほどのことも、オイラしてねぇよ!」
オイラは振り切るように、走って逃げた。

弦巻から、用賀村を目指す。

まあ、意地でも金はもらわなかったが、やっぱもらえばよかったとあとで後悔するもの。
なんか世間知らずのお嬢ちゃんみたいだったが、あんな金持ちいるんだね。
年はまだ15くらいか? なかなかの美形だったな。なんか良い匂いしたし。

翌朝に出立。天気も良く、多摩川も気持ちよく渡れそうなので、オイラは世田谷村を後にして、「二子の渡し」を目指していく。
ここはどうやら、弦巻村というらしい。弓矢の弦(つる)と関係があるのかね。昔の武将が弦をここで巻いたとか。

(筆者註、源義家か北条氏がここで弦を巻いたのが由来だとか、諸説あります)

300年後は石に覆われてやがる。
うお!てめえ、石になったか!?
(筆者註、大山道の旅人像。大山道には各所にその名残が残されてます。)

宮の坂の「世田谷八幡宮」といい、北沢八幡神社といい、八幡太郎(源義家=源氏の祖であり前九年と後三年合戦で武功をあげ、関東武士の支持を集めた)様と関係があるのかね。(筆者註、ともに中世の世田谷城主・吉良頼康が歓請したという由縁らしいです。)オイラも偉いお武家様たちの、御利益があればなあ。

用賀村にさしかかる。ここは他の道と分かれる「追分」という分岐点だ。

いつも雑地図ですいません。

三軒茶屋の追分からの、2つの「旧道」と「新道」が合流するところ。

300年後、景色は変われど、ちゃんと跡が残ってるな。

ちょっと新道のほうにも出向いてみた。300年後も見る。

なんだ、こいつら!?
(筆者註、桜新町のサザエさん像です!)

用賀村には真福寺は「赤門寺」ともいうらしい。立派な赤い門がおがめるぜ! 

まわりにはささやかだが、店や宿もある。しかしちょいと茶と菓子を楽しんだら、すぐに多摩川を目指そう。用賀はどうやら「ヨガ」から名がついたらしいが、ヨガってなんだ?(筆者註、真言宗の瑜伽(ゆが)からきているようで、瞑想の修行の名前。現代も流行している「ヨガ」もここからきており、この道場が鎌倉時代初期にできたことで、「用賀」という名前になったらしい。ヨガファイヤ!!)

は?田の中にあった橋が、空に浮いてやがるぜ。
(田中橋)

延命地蔵を見ると、また2手に分かれる追分へ。

行善寺の方へ。行善寺は台地の上であり、多摩川と田畑や森が一望できる場所として有名らしい。オイラ、旅に出るとけっこういろんな人に声をかけ、話が聞けるもんだ。たしかに、オイラの住む江戸では見れない別世界のようだ。多摩川を超えると、また見たことないような景色が見れるのだろうな。
行善寺の坂を下ると、もう目の前に多摩川がせまる。
ワクワクするぜ! 
300年後も見てみよう…って、なんだこりゃ!!

(筆者註、300年後の今はこうだが、参兵衛当時は多摩川まで広がる田畑や森だったにちがいない。)

頭がクラクラするぜ。たまに見ないと気が変になるな。
さて、「二子の渡し」の周辺には、多くの物資を輸送したり保管する盛り場になっている。オイラは船の様子を聞いた。乗れる船が何刻も後のようで、気長に待つことにした。
茶屋で景色を眺める。ここでは鮎漁や釣り人のようす、舟遊びの様子も眺め見れる。行き交う人や荷物。よし、酒だ。そして鮎の塩焼きに、うるかなんかも楽しもう!

「二子の渡し」を、いっしょに渡りましょう!

ようし、まだ日も高いし、今日中に渡れるかもな。どうやらこの先に、溝口村、荏原には宿場もあるようで、その辺りで宿をとるか。

「あの、昨日はありがとう。」
…ふえ!?
「昨日、うどん代をはらってもらって。」
ああ、何だ。昨日のお嬢ちゃんか。
「おお、何だい。奇遇だな。」
「大山へお参りに行こうと思って。」「ふうん。オイラもそうだが、オイラは一人旅でね。お嬢ちゃんは、連れは?」
「あたしも、一人で行くの。大山阿夫利の神様は、雨乞いの神様でしょう? うちの村に雨を降らせないと、みんなききんで死んじゃうの…」

ん? 「お前さん、その髪型、横兵庫じゃねぇか?」

もと花魁(?)照紫(てるむらさき)です、こんにちわ!!

「え?」「昨日は笠でわかんなかったが、それ、吉原の花魁の髪型だろ? おめえさん、花魁か?」

髷が蝶の羽のように左右に広がる髪型で、花魁というとこの髪型のイメージ。

横兵庫は吉原の花魁と呼ばれる高級遊女の髪型。吉原の花魁は、粋な江戸っ子たちの憧れだ。こんなとこに花魁と出会うなんて、旅はおそろしいもんだぜ!

しばらく沈黙。「なんで知ってるの?」「まあ、吉原にはよく行くからな!!」「…いやらしいわ。」 何だかこの女、目つきが怖くなったな!?
「けど、しゃべる言葉は廓の言葉じゃねぇな!!」…またしばらく沈黙。
「…吉原に詳しいのね。」
「あ~、けど。オイラ大工で、吉原の大店を建て直す仕事をしているだけだから、その、店にはまったく入ったことねぇから、おめえさんほど詳しいわけじゃねぇ。」
「…そうなの!?」 お、ちょっと顔が明るくなったな。
「まあ、ああいうの金がかかるしな。オイラのなけなしの銭だと、一生無理かもしれねぇや。けど、吉原の裏方で働いていると、まあ、よく話は聞くもんだ。
ところで、何で花魁がこんなところにいるんだ? ひょっとして身請けされたか? 旦那さんがいるんじゃないか?」
「ああ、そうそう、結婚退職。その、身請けってやつで、結婚して故郷に帰るの。」
「へえ、めでたいもんだな。吉原の花魁ってのは、幼いころに吉原に売られ、身請けされない限り吉原の外に出れねぇって話を聞くぜ。」
「そうそう。」
「けど、しゃべりが廓の言葉じゃねぇな!」
ん? またしゃべらなくなったな。妙に花魁って感じがしねぇな。それに若ぇ。10代くらい? 廓を出ても髷は花魁のままなのか?
「これが今、吉原で流行っているのよ。店に入ったことないから知らないでしょうけど。」
「ん? そうなのか?」「そう!」
「そういや、お前さんの源氏名は?」「源氏名?」「花魁の時の名だ。」「源氏…名は、そう、照紫(てるむらさき)よ! 吉原では割と有名よ! 吉原で働いてるんだもん、知ってるでしょ!」
「んー、そういえば…。聞いたことあるな!」
「身請けされた割に、若そうだが。10代か?生娘のようだが!?」「それも吉原で今流行っているのよ!知らなかったの?」
「身請けされた割に、髪型は花魁のままなのか?」「それも吉原の流行なんだけど!!」
「色は白いが、化粧してないのか?」「化粧しないのも今の流行!!」
「そうなのか??」「そうそう。」
「旦那は?なんで一人旅なんだ?」 
「流行…じゃなくて、夫はすぐに死んだわ。」「そうなのか。」「そうそう。」
「で、故郷に帰るのか? 親はまだ存命なのか?」
「故郷は練馬なの。今、練馬はききんのあとの不作で、滅亡の寸前なの! だから早く雨乞いのお参りをして、雨を降らせないといけないの!」
(ん? なんか同じ話をどっかで聞いたような…?)

「金はあるわ! 甘酒代だって、団子代だって! けど、その、吉原に…。
そうなの、吉原に幼いころから閉じこめられて、出たことないから、行き方がわかんないし、この時代の社会常識も、何もかも知らない、世間知らずなんだわ、あたし! お金の使い方もわからない!!
だから、あたしを大山に連れてって!!」

「ちょ、え??」
「金はあるのよ! それに、あなた、遊女が好きなのでしょ!??花魁と旅ができていいじゃない!!」
女は泣きながら、わけのわからぬことを言った。
えー。なんだい、オイラ、一人の旅を楽しみたいのに。
「あんたが女と遊ぼうと、あたしは関係ないわ! あたしは練馬を救わないといけないの!! お金ははらうから! けど、あたしには手を出さないで!!」
勝手なことをいいやがる。けど、まあこいつを大山に送ればいいんだし。
あのけったいな格好して、けったいな言葉をしゃべる女よりもマシ…
なんだかあの女と重なるな。
オイラ、こいつを大山に送らないと、神様に殺されるのか??

「じゃあ。とりあえず、溝口か荏田の宿場までは送ってやるよ…」
「ん!!」とりあえず、金を受け取る。

旅慣れてない女のために、まずは脚絆(きゃはん、足につけるもの)を買ってやる。これでちったぁ歩きやすくなるだろう。

そろそろ、船が出るころだ。
「レッツ!参… れつ、行列ができるかな?」「まあ、そうでもなさそうだが。」

多摩川は相模と江戸への物流の拠点であり観光地だった。たくさんの店や問屋、荷車や馬、人々が行き交う場所。それが今やこんな大都市「二子玉川」へ。
300年後には橋がかかってやがんのな。

船に乗り込み、ついに多摩川を渡る。江戸を離れ、むこうは相模だ。

女連れってのが気に食わないが、こんだけ金持ってれば、こんな世間知らずでも誰かと行けるだろう。まあ、ちょっと大金もらっちまったが、なるべく丁寧に送ってやるか…。


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