【短編小説】 「シャッター」
ひかるは、
結婚式場で働くフリーのカメラマン。
その日のお客様は
ずっと好きだった幼馴染。
何ともいえない想いを寄せる幼馴染の
結婚式であった。
ひかるは「いつか僕と結婚… 」と
誰のものにもならないと
彼女のことを思っていた。
そんな彼女は今日
立派な旦那さんを見つけて、
結婚というゴールにたどり着いた。
いや、スタートラインに。
ーーーーーー
ひかる「結婚おめでとう」
彼女「ありがとう。素敵な写真よろしくね」
ひかる「うん。まさかお前が結婚できるはな!」
彼女「うるさいっ!あんたもいい人見つかるといいね!」
ひかる「うっせー、ばか」
彼女「私しかいなかったんじゃない?笑」
ひかる「なわけないだろ、ばかだな、相変わらず」
ひかるは、レンズを覗いた。
ひかる「いい顔してる。素敵な1日になるよ」
と、レンズを見ながら泣き顔をごまかした。
口先では
「おめでとう」と幸せを伝えることはできるけど、
口先でしか言えない。
仕事中、
レンズが水滴で汚れているのかと思った。
濡れていたのはひかるのレンズ(眼球)だった。
カメラに映る幼馴染の幸せそうな
笑顔に涙が止まらなかった。
別に、
彼女が好きで仕方なかった訳ではないし
結婚したかったわけではなかった。
だけど、涙が止まらなかった。
誰のものでもない存在。
誰れかのものになって欲しくはなかった。
ーーーーー
あの頃の記憶が蘇る。
毎日登下校した小学生。
何度も喧嘩した。
何でも口にした。
中学生ではお互い思春期で。
距離感は変わってないのに、
距離感が少し開いたかのようなやり取りをしていた。
高校生から、別の高校に通って。
毎朝最寄駅で会うけど、
お互い見て見ぬ振りだった。
お互い横目で見てしまうそんな日々。
大人に近づけば近づくほど、
恥ずかしくなって
お互いのことを
変に意識するようになって。
でも、そのよくわからない
距離感でいいかなって。
自分の気持ちをごまかしていた。
そうやって、
心のモヤモヤを抱えたまま大人になって。
誰かが魔法をかけて
二人を幸せにするんだと思っていた。
だけど、そうではなかった。
今日彼女は、結婚するんだ。
彼女は、新婦さん。
世界で一番幸せな人なんだ。
パシャりパシャりと静かに
シャッター音が何度も会場に鳴った。
ーーーーー
翌日、
ひかるは式場との契約が終わった。
ひかるの残した写真には
彼女は一枚も写っていなかった。
他の人の姿ばかり。
彼女に向けて一度もシャッターを押せなかった。
押しているようで、
一度足りとも幼馴染の写真を残すことができなかった。
すでにひかるのフィルムは、
彼女でいっぱいだった。
過去の記憶でフィルムがいっぱいだった。
ひかるは、シャッターを閉じた。