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私の読書日記~森敦『月山・鳥海山』
※※ヘッド画像は いいだ君 さまより
森敦『月山・鳥海山』(文春文庫)で描かれる自然にいやされた。
短編の舞台は、基本的に山形である。東北の涼やかな夏と厳しい冬。自然の豊かさに記憶を超えたノスタルジーを覚える。
雪の中、山寺の景色、その描写が実に見事だ。
わたしたちはすでに冬の果てとでもいうべきところに来ながら、それがいわば冬の頂であって、依然なんとはなしに、わたしははじめてやっこが来たときのことを思いだしました。おそらく、わたしに「ようミイラにされなかった」と薄笑ったのが心の底に残っていて、薄笑ってやりたくなったのでしょうが、いつとも知れず赤いというか、地獄の火のように渓越しの雪山の頂が夕焼けて来るのです。
しかも、渓越しの雪山は、夕焼けとともに徐々に遠のき、更に向こうの雪山の頂を赤黒く燃え立たせるのです。
――森敦『月山・鳥海山』文春文庫 p.82
時々刻々と表情を変えていく自然が手に取るようにわかる。山形での長い生活から、著者は自然と対話できるようになったのではないか。そんな風にすら思わせる。
折口信夫『死者の書』や福永武彦『忘却の河』のような優しい雰囲気が漂っている。その点から、折口信夫、福永武彦の小説が好きな方には、ぜひ読んでいただきたい。
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