考え抜くことで偏見から解放される「哲学対話」の魅力
自動車部品メーカーの株式会社デンソーでエンジン機器技術部に所属する三島さん・曽根さんは、同じ部署に所属する様々な階層の7名とともに「哲学対話(※1)」を実施されました。
チームの中でも考えが全く違うことを感じた
ーー改めて、当初の哲学対話を実施いただいた背景や感じていらっしゃった課題感について、お聞かせください。
三島さん:最初に「哲学対話」について話を伺った際に、哲学自体を学ぶというよりかは「自分で問いを立てて考える」ということなのだとわかりました。問うことや考えることは大事だと考えていたので興味を持ち、当時実施されていた体験会にお誘いいただいて、まずは実際に哲学対話を体験してみることにしました。
曽根さん:哲学と聞いて最初は堅いイメージがありました。でも新しいことなら試しに参加してみようと思ったことを覚えています。
三島さん:体験会の結果には大きなインパクトがありました。チームの中でも考えが全く違うことを感じたんです。それから体験後にチームメンバーと話していくなかで「メンバー同士で働くモチベーションが違うのかもしれない」という話になりました。そしてせっかくなら本格実施の際には、働くモチベーションというよりも、その前提となる「幸せ」の価値観について対話することになりました。
ベテランである上司とフラットに話す機会が欲しかった
ーー哲学対話の実施に向けてはどんな期待をお持ちでしたか?
曽根さん:今回の哲学対話に参加した7名のうち、普段からプライベートの話なども含めて話していたのは年齢の近い先輩1名のみでした。職場は同じでも普段は先輩方とあまり話す機会がなかったので、彼らが普段何をされているか気になっていましたし、彼らからしても僕がどんな人間かわからないと感じていたと思います。
曽根さん:また、三島さんをはじめとする上司の方々はベテランで普段はフラットに話すことがなかなかむずかしいので、上司の方々とフラットに話す機会が欲しいと思っていました。
三島さん:僕らも仕事とプライベートどちらの話題にしても、自分が経験していることが多いのでつい経験値ありきで聞いてしまうんですよね。僕ら側はフラットに話しているつもりでも、なかなかできていなかったんだと思います。
また体験会後に分析いただいたレポートで非常にわかりやすく考えを言語化していただいたので、今回も何かテーマについてのヒントを頂けそうだと思っていました。
対話を通して自分を解放することができていた
ーー当日は「自分にとっての『幸せ』とは 〜働く先にある幸せについて哲学対話で考える〜」をテーマに哲学者がファシリテーションし哲学対話を実施しました。参加されて、どのように感じましたか?
曽根さん:普段から対話をしていないわけではなかったのですが、こんなに盛り上がったのは初めてでした。テーマについて各々の意見がこんなに出てくるものなのかと驚きました。普段から考えることはありましたが、今回のように「考え抜く」ことができたからこそだと思います。
三島さん:哲学対話の実施前に、今回ファシリテーターを務めていただいた梅田先生のニーチェの論文で「他者があってこそ、自己が定義できる」ということを学んでいました。だからこそ今回の哲学対話でも、テーマについて考えたり他者の意見を聞きながら「幸せ」についての自分と他者の位置を見つめながら対話することができました。他メンバーを見ていても、対話を通して自分を解放することができていたように見えました。
曽根さん:哲学対話の前に御社の「幸せタイプ診断」を通して幸せの感じ方や認識の要素が出てきていたので、対話で考えるフックになったなと思います。
「答えを出さなくても良い」ことで気持ちが楽になった
ーー自由な対話をするために、皆さまに「哲学対話のマインドセット」を意識いただきました。マインドセットによる普段のコミュニケーションとの変化はありましたか?
曽根さん:普段はじっくり話し合わずに結論を出していたので、「わからなくなってもいい」や「意見や考えが変わっていい」というマインドセットは新鮮でした。
最初は答えを出さなくても良いことに違和感を感じていましたが、対話をしていくうちに気持ちが楽になりました。結論や方針を出さなくても良いことで、物事に対するバイアスや目的意識が消えたんです。そうすることで、周りの意見を聞くようになりましたし、視野が広がりました。
三島さん:昔は仕事をする上で寄り道も許されましたが、今はスピードが重視されるのですぐに答えを出すことが求められますよね。そうすることで今の若手の皆さんは普段から問うことが難しくなっているのだと思います。
実は私は仕事の中でも「わからなくなってもいい」や「意見や考えが変わっていい」ということを意識しています。哲学対話のマインドセットは一見普段の仕事と真逆のように捉えられますが、仕事においても大事な考え方だと思います。
「対偶」の立場からの問いかけでバイアスが無くなった
ーー哲学対話では哲学者がファシリテーションに入り、マインドセットを体現できるように場づくりをしたり、問いを投げかけて対話を深化させる役割を担いました。哲学者のファシリテーションはいかがでしたか?
三島さん:哲学者である梅田先生の思考方法は勉強になりました。人間は自分の考えの対極にある考えを聞くと、つい否定したくなるものだと思うんです。一方で梅田先生は、対話の中で話していることが本当によいか見極める際に「対偶」の立場から問いを投げかけてくれたので、自分の考えが正しいと思うバイアスが無くなり、話の矛盾が見えたりそこから対話が深まったりしました。
こういった考え方は仕事においても重要で、現状やリスクを考える際に役立つと思いました。
曽根さん:ファシリテーションが上手だと率直に思いました。「幸せ」という抽象度の高いテーマでしたが、具体的な問いを投げかけることで新しい観点や意見を引き出してくれました。
一方通行ではない双方向のコミュニケーションが生まれた
ーー当初の目的だった、「幸せについて深める」ことや、年次や経験がバラバラな皆さんと「フラットに対話する」ことは実現できましたか?
曽根さん:コミュニケーションの量も質も、いつも会社にいる時とは段違いでした。会社にいるといつも、上司から何か聞かれて自分が答えることが多いです。自分から話しかけようとしても、上司は忙しいのでこのタイミングで話しかけて良いのか、話がまとまっていないのに話しかけて良いのかなどが気になってしまうんです。
哲学対話では、自分から上司に問いかけてみたり、コミュニティくまを渡して話を振ってみたり、一方通行ではない双方向のコミュニケーションが生まれました。
三島さん:聴きやすさは大事ですよね。今回の哲学対話を通して、上司はフラットに話していると思っていても部下からするとそうではないということに気づき、認識を変えなきゃいけないなと思いました。また意外と若手メンバーは真剣に頭を動かしているように見えたので、今後は年寄りの方が問題かもしれないと思いました。今回でフラットなコミュニケーションが生まれたので、続けていきたいなと思います。
「欲求充足」ではなく「意味充足」の幸せに焦点を当てていただいた
ーー哲学対話の内容を整理した上で発展的に分析した「哲学分析レポート」はいかがでしたか?
三島さん:哲学対話をふまえて良く掘り込んでいただいたなと思いました。哲学対話の内容を整理いただいて、幸せの感じ方について「感じる」と「認識する」があり、各人が幸せについてどんな前提をもっているかを理解することができました。
三島さん:また、対話から発展させて「欲求充足」ではなく「意味充足」の幸せに焦点を当てていただいたことも印象的でした。欲求を充足させることで得られる幸せは色々あると思いますが、実は日常において欲求を満たすことができる機会はそんなに無いと思うんです。それに欲求充足には限界もあります。そういう意味では、人生の意味を考えることは1つの生き方として良いなと思いました。
曽根さん:きっと幸せの実現においては「欲求充足」と「意味充足」のどちらも大切なんだろうと思いました。欲求充足と意味充足を行き来することで欲求がアップグレードされていくかもしれないと、レポートを通して自分の中で幸せを再整理することができました。
三島さん:幸せについての自分の考え方は、都度変わっても良いと思うんです。その際にこのレポートが参照できると思うので、レポートで対話を発展させて言語化いただいたことに価値を感じました。
哲学は思考の「体幹」をつくる
ーーありがとうございます。最後に、少し大きな話ではありますが、これからの時代や社会に「哲学」や「哲学対話」がどう活きるか、お考えをお聞かせください。
曽根さん:昔はある物事について共通の物差しがあったのかもしれませんが、今はそれがありません。それは自由でありつつも不安にも繋がります。そんな時に哲学的に考えることは心の拠り所になるかもしれませんし、その参考として哲学が活きるのだと思います。
三島さん:哲学は思考の「体幹」をつくると思います。問いを立てて考える時に必ず必要なのは、自分を見つめ直し自分の思考の現在地を理解することです。ただ私たちは意外とこれをやらないですよね。
哲学を学ぶことで参照点を増やすことができますし、哲学的に考えることで、仕事において思考する際の「体幹」ができていくと思います。スピード感を持って考えたり決めたりすることが求められる現代においては、自分の現在地を理解し思考の「体幹」をつくるという意味で、哲学が大事になっていると思います。
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