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生きづらさの正体
生きづらさを抱える人が増えている。
都市圏を中心に、心療内科の新規予約が取れないところが多い(再診優先のため)点からも、そのことが伺える。
近年、精神医学の発展に伴って、
生きづらさを説明する新しい概念が続々と生まれてきました。
今回はそうした分類を少し整理してみたいと思います。
発達障害
「大人の発達障害」
「グレーゾーン」
といった言葉が生まれたことにより、障害と言うほどではないけれど健常発達者と比べると少し能力に凹凸がある…
そんな人たちが実は大勢いることが認知されつつあります。
調査によると、
通常の学級に在籍する小中学生の8.8%に発達障害の可能性があることも分かっています。
また、発達障害を含む精神障害者の数が年々増加していることから考えると、
グレーゾーンを含めたその実数はかなりのものになると推察されます。
いわゆる発達障害と呼ばれるものは以下の通り(大まかにですが)。
◉自閉症/アスペルガー症候群
「言葉の発達の遅れ(自閉症のみ)」
「コミュニケーションの障害」
「対人関係・社会性の障害」
「パターン化した行動、こだわり」
以上を主な特徴とする障害。
◉注意欠陥多動性障害(AD/HD)
「集中できない(不注意)」
「じっとしていられない(多動・多弁)」
「考えるよりも先に動く(衝動的な行動)」
などを特徴とする障害。
◉学習障害
全般的な知的発達に異常はないのに、
聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する、などの特定の能力に困難を示す障害。
モーニングルーチン、なんて言葉がよく取り沙汰されますが、
これだってその部分だけ切り取れば「パターン化した行動」です。
普段のルーチンがこなせないと不安になったり、イライラする…
なんていう人は普通に働いている人の中にも大勢いるでしょう。
最近は自閉症スペクトラム、と呼ぶようになったことはご存知でしょうか。
スペクトラム(グラデーションのような連続体)という言葉通り、
程度は薄くても自閉症傾向があるような人は社会に数多く存在しています。
同じことはADHDにも学習障害にも当てはまります。
一つのことに根気強く取り組めない(不注意)、仕事の手順が覚えられなくてミスが多い(学習障害)、
なんていうケースは日常にありふれていますよね。
自分がそうだったらどうしよう…と不安になるのではなく、
大切なのは、「誰しもスペクトラムのどこかに位置している」という認識を持つことだと思います。
愛着障害
乳幼児期に特定の養育者との愛着形成がうまくいかず問題を抱えている状態のことを指します。
比較的新しい概念なのでまだエビデンスは不足していますが、生きづらさを抱える問題の確信に愛着障害があると指摘する精神科医もいます。
正式な診断名ではありませんが、
愛着障害を考える上で以下の愛着スタイル分類が分かりやすいです。
●「安定型」
対人関係でも仕事でも、高い適応能力を持つ。
他人と信頼関係を結び、困ったときには上手に人に助けを求めることも、自分で自分を守ることもできる。
●3つの「不安定型」
①不安型
いつも他人に気を使い、相手の顔色を異常に気にする。
「人に受け入れてもらいたい」という欲求が強いため、人にも自分と同じ気遣いを求めてしまう。
②回避型
距離を置いた対人関係を好み、親密さは重みとしてマイナスに感じる。
他人とぶつかることが嫌いで、相手の気持ちに無頓着。
悩みを相談されても、親身に共感することができない。
③恐れ/回避型
「不安型」と「回避型」のいずれも強い。
「安定型」以外の愛着スタイルの人は抑うつ気分に陥りやすく、人間関係も不器用なため適応障害になりやすいとされています。
「不安定型」の愛着スタイルを持つ人は成人の1/3に達する、
と言われていることからも分かる通り、これもありふれた生きづらさの原因です。
パーソナリティ障害
認知や感情、衝動コントロール、対人関係といった機能の偏りから問題が起こる障害のこと。
パーソナリティ障害にはいくつかのタイプがあり、
アメリカ精神医学会の診断基準では3つの分類で合計10種類あります。
人口の15%がなんらかのパーソナリティ障害を有している、とする報告もあります。
◉A群(奇妙で風変わりなタイプ)
・妄想性
・統合失調質
・統合失調型
◉B群 (感情的で移り気なタイプ)
・境界性
・自己愛性
・反社会性
・演技性
精神病的であるA群、重大な問題に結びつけて考えられやすいB群はひとまず置いて、
生きづらさに関わりやすく一般的であるC群について詳しく取り上げていきます。
◉C群 (不安で内向的なタイプ)
・依存性パーソナリティ障害
孤独に耐えられずに他者への過度の依存が認められる。
自らの行動や決断に他者の助言や指示を常に必要とし、他者の支えがないと無力感や孤独感を抱く。
うつ病、パニック障害に多く合併し、女性に多い。
・強迫性パーソナリティ障害
融通性がなく頑固であり、一定の秩序を保つことへ固執する。
几帳面で完全主義だが優柔不断。未知のものや強烈な感情を避ける傾向がある。
男性に多い。
・回避性パーソナリティ障害
自身への劣等感を抱き、不安や緊張が生じやすい。
失敗を恐れ、対人交流に消極的でひきこもりがち。
社交不安障害の合併症が多い。
自閉症と強迫性パーソナリティ障害、回避型愛着スタイルと回避性パーソナリティ障害に類似性があることが分かります。
HSP
繊細さん、という言葉で有名になった心理学的概念です。
神経が細やかで感受性が強い性質を生まれ持った人のことで、
全人口の15~20%、約5人に1人はHSPと考えられています。
HSPには、特徴的な4つの性質があります。
❶深い思考
簡単に結論の出る物事であっても、さまざまな思考をめぐらせる
❷刺激を受けやすい
刺激に対する反応が強く表れやすく、疲れやすい
❸感受性が強く、共感力が強い
他人と心の距離が近く、相手の感情の影響を受けやすい
❹些細な刺激を察知する
他の人が気づかないような音や光、匂いなど、些細な刺激にすぐ気づく
また、HSPの人は扁桃体の機能が過剰に働きやすいと言われています。
その結果、
他人と比べて些細な刺激に強く反応し、不安や恐怖を感じやすい、ということが分かっています。
複雑性PTSD
持続的なストレスや幼児期の虐待、ドメスティック・バイオレンス(DV)などのトラウマ体験をきっかけとして発症する疾患です。
PTSDの主要症状(フラッシュバックや悪夢、過剰な警戒心など)に加えて、
感情の調整や対人関係に困難がある等の症状を伴います。
戦争や性的虐待などの強烈な体験=PTSDといった認識が広まっていますが、
職場でのパワハラや家庭での持続的なストレス(配偶者からの冷淡な言動など)でも、複雑性PTSDを発症する可能性はあります。
一般的なPTSDの主な症状は以下の3つです。
①回避/麻痺症状
辛い出来事を思い起こさせるような場面や状況を避ける。
過去の嫌な出来事自体を記憶から消したり、他人事かのように淡々と対応する。
②過覚醒症状
些細なことで苛立って無茶な行為や自傷行為をしたり、ビクビクして驚き易い。
集中力が低下して、夜中に悪夢で飛び起きる。
③認知/気分の陰性下
自分には価値がない、自分なんていない方がいい、何もかも自分が悪い、
といった確信が根付き、何にも興味がもてず楽しいことがない。
PTSDではなく、複雑性PTSDに特有の診断基準は下記です。
・感情の波が激しい
・否定的な自己認識
・人間関係を保つことが困難
上記の結果、
人と信頼関係を築くことが難しくなり、人間関係が安定しません。
たとえ恋人ができたとしても、
満たされた人間関係を築くことが出来ないことは、本人と周囲の人を深く苦しめます。
気分障害に分類される「うつ病」については、以下の記事をご参照ください。
最後に、僕たちを取り巻く環境もまた、生きづらさを生み出す土壌となっています。
生きづらい時代
日本の学生たちにインタビューしたアメリカの雑誌(Foreign Affairs Magazine)の記事に、学生たちが自分たちの大学生活の印象をどう語っているのか、取材したものがあります。
彼らは自分たちの大学生活を三つの形容詞で表現していました。
それが以下の3つです。
「狭いところに閉じ込められて(trapped)」
「身動きできなくて(stuck)」
「息ができない(suffocating)」
これが現代日本の学生たちの身体実感、ということになります。
このことについて、思想家の内田樹氏は以下のように述べています。
日本社会は若者たちにひどく「冷たい」と僕は思います。
でも、それは、社会が彼らを放置しているからではない。逆です。
生きている気がしなくなるくらいにおせっかいに「狭いところ」に閉じ込めようとしているから、つらいんだと思う。
日本社会は良くも悪くも、
「こうするべき」「こうあるべき」という固定観念が強く根付いています。
子供達は小さい頃からテストで、身体能力で、容姿で他者と比較競争する環境に身を置くことになっている。
そしてこの社会は、
自分を取り巻く環境が要請する「世間的常識」から逸脱したものを厳しく排斥する傾向がある。
生きにくくなるのも当然なんです。
SNSを中心としたネット社会の発展が他者との比較を容易にしたこともまた、そうした流れを強めていると言えるでしょう。
まとめ
生きづらい、と感じる原因はたくさんあります。
上記に挙げたものは単独で抱えていても辛く感じる時がありますが、
複合して問題を持っている人も多いと言われています(回避性愛着スタイル+複雑性PTSD、など)。
HSPに軽度の完璧主義が加わるだけでも、かなり生きづらいと感じるようです。
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大切なのは、どれも障害ではなく個人の特性である、と認識することです。
それぞれの良し悪しではなく、正しく理解し自分なりの対処方法を見つける。
それが生きづらさを乗り越える唯一の方法だと思います。
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心理学をリハビリと絡めた記事を隔週で木曜日に更新しています。
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理学療法士を11年やってきたけど、自分のパーソナリティを今すぐ理解して欲しい。学校では「患者や同僚との関わり方」は教えてくれない。真面目な人ほど対人関係でメンタルを病みやすい。でも、自分の根っこを知ると変われる。パーソナリティを作る”5つの特性”について分かりやすくリプ欄に書きました
— 寺島佑@理学療法士×自律神経×心理学 (@re_1021_) February 27, 2023
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