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労働学生生活(2学期5週目)インターン始まる

気が付いたら、2学期も5週目を過ぎていた。

今学期は週に2回大学に通っている。

先学期の週5回と比べたら楽勝。

そんな風に思っていたら、全く楽勝じゃなかった。
課題や授業の準備に先学期の倍を要している。


先日、外国から先生がやってきた。
休憩時間、ビスケットを食べていると、その先生が話しかけてくださった。
アジア人が1人でビスケットをかじっている様子は、ちょっとあれだと思ったのだろうか。
話が弾み、連絡先を交換した。
このまま勉強を続けるなら連絡を取り合いませんかと提案してくださった。
ビスケットを1人で食べるのも悪くはない。

水曜日はおかしな日だった。

そのとき、私は信号待ちをしていた。

自転車に乗った10代または20代前半の男の子が私の斜め後ろで止まった。

しばらくすると、肩のあたりに何かを感じた。
気のせいか。
そのまま立っていると、今度はもっと確実に肩に何かが触れた。
振り向くと、さっきの男の子が自転車から降りて私の肩を「とんとん」としていた。

距離が近い。

男の子の顔は私の顔の目の前まできている。

私の顔をじっと見つめてくるこの人は何者だろうか。

もしかすると知り合いか。

近距離で凝視される気まずさに私が耐えられなくなったころ、彼が言った。

「あの…スペイン語話せますか」

「はい」

「…その、あなたのメガネがとても好きです」

「え?」

「そのメガネ、とても素敵です…」

「…ありがとうございます」

「ど、どこで買えるでしょうか。何か特別なものでしょうか」


私のnoteを読んでくださっている方はご存じかもしれないが、このサングラスは家族性緑内障予防のために購入したものだ。
そういう意味では確かに「特別なもの」だ。

「特別といえば特別です」

「どこのブランドでしょうか」

病院直結のメガネ屋さんで購入したそのサングラスは、私にとっては高かったのだが、その機能からも、いわゆる彼が言っているようなブランドとは違う意味でのブランドだと思う。

「ネットで買えますか」

「うーん、どうでしょうか」


信号が変わった。

「ほんとに素敵です。ありがとう」

その男の子は、自転車で軽やかに去っていった。


まさか、緑内障予防用のサングラスをかっこいいと言われる日が来るとは思っていなかった。
今の10代、20代にはゴーグルのようなサングラスが素敵に見えるのかもしれないことを学んだ日。

その後、電車に乗ると、前の座席の窓ガラスが全て粉々にひび割れていた。

教会のステンドグラスのようだ。
窓の外は何も見えない。
今にも破片が飛び散りそうだ。


隣に座っている男性に話しかける。

「あの…前の座席の窓なんですが」

「え?窓?ああ!うーん、大事に至らないことを祈ろう」

「そうだといいんですが!」

「まあ、大丈夫だろうよ!」

男性は、何事もなかったかのように音楽を聴き始めた。

前の座席の人は、100%ひび割れた窓ガラスの席に座ることを全く気にしていなかった。

その後、隣の男性は、ここは〇〇駅?と話しかけてきた。そうですと答えると、安心していた。
その人にとっては全ひび割れ窓ガラスの付近に座っていることよりも、正しい駅で降りることの方が大事だったようだ。

どきどきしながら乗車していたのは、私だけだったようだ。

物事の捉え方は人それぞれなのだなと改めて思った。

インターンが始まった。

週に3日通う。

インターン3日、クラス2日で、結局今回も週5日になる。


初日、どきどきしながら市役所に向かう。

9時に来るようにと聞いていたが、市役所前に着くと門が閉まっていた。

まあそんなこともあるかと待っていると、男性がやってきた。

閉まっていた門を、引き戸を開けるようにがらがらっと引いた。


鍵はかかっていなかったのか!


そんな風にして入れるんですか!
驚く私に、職員だけが入れるのだと男性が教えてくれた。

君は職員かと聞かれたので、今日からお世話になるインターンですと答える。

納得した男性に連れられ、受付に向かう。

「この子、今日からインターンらしいんだけど」

男性が言い終わらないうちに、受付の人が叫んだ。

「あー!唐草ね!待ってたわ!」

受付までちゃんと話が通っていたことに驚く。
ここはスペインなのに。

面接をしてくれた女性が迎えにきてくれる。以降、松さんとする。

松さんは私にハグをし、これからお世話になる課まで連れて行ってくれた。

部屋に入ると、私の机が用意されていた。

植物とペン立てとメモ帳までおいてある。
ここはスペインなのに!

部屋の説明をするわね。
そう言って話し出した松さんが最初に教えてくれたのは、冷蔵庫の場所と、トースターの位置、冷蔵庫の中身、朝食の時間についてだった。
冷凍のオレンジがあるから欲しいときに言って、と松さん。

あ、やっぱりスペインだった。
ちょっとほっとする。


今日はこれからセレモニーがあるから、市長に紹介するわね。
松さんはあくまでもさらっと言った。

そんなことはひとつも事前に聞いてないぞと思いながら、早くもスペインの洗礼を受ける。

冷蔵庫のさらに詳しい説明が終わると、松さんは私を連れて挨拶まわりをし始めた。

市役所のいろいろな課をまわるのだ。

どうやらこのセンターでインターンを迎えるのは初めてらしい。
皆、私を皆物珍しそうに見ている。

それぞれの課やチームがある部屋に入って気づいたことがあった。
ひとつひとつの部屋は学校の教室ぐらい広いのに、部屋の中には1人または2人分の机しかない。最高でも3人分だ。
そのため、部屋はがらがらだ。
しかも、お互いの机が遠すぎて、結構な大声で叫ばないと声が聞こえないことが想像される。

どういうスペースの使い方だろう。


挨拶回りに1時間ほどかかった。
いろいろな意味でインパクトが大きかったため、平静を装うのに必死で誰の名前も覚えられていない。


疲れたので、ボカディージョを食べた。

その後、朝到着してから今まで起こったことをメモする。
ちょっとだけフィールドワークっぽくなってきた。


松さんから業務について簡単な説明があった後、松さんの上司の上司に挨拶に行く。

上司の上司(花さんとする)は、夫の教えている学生のお母さんだ。
場合によっては、ちょっとやりにくくなるのだろうか。
そして、世界は
というか、アンダルシア田舎は狭い。

そんなことを考えているうちに、セレモニーに行く時間となったらしい。

事前にお手洗いに行っておこうと、席を立った。

トイレも各個室がめちゃくちゃ広い。

側転ぐらいはできるかもしれないと思いながら用を済ませる。

側転はしなかったが、

気を引き締めていこう!

そう思ってドアのハンドルを引っ張ったら、ドアが開かなかった。

いやいや。

入ったときに鍵をかけたので、
今その鍵を開けたはずだ。

もう一度鍵をまわす。
これで鍵がかかった。
逆にまわす。

これで鍵はかかっていないはずだ。

ドアのハンドルをひねる。

開かない。

同じことを何度かやる。

開かないし、そのうちハンドルも動かなくなった。

いや、初日からこんなださいことでは困るのだ。

少しはかっこよく見えるようにと黒のタートルネックを着てきたのに、全然かっこよくない。

そのうち誰かが来るかもしれない。

そう思い、数分待ってみた。


誰も来ない。

笑うしかない。

「なんやこれは!」

アンダルシア田舎の市役所トイレに私の関西弁がむなしくこだまする。


誰も来ない。

そろそろ松さんが心配するかもしれない。

これはしゃーない。

意を決して、個室から松さんの携帯に電話をかけた。


「あら、唐草」

「あの、トイレから電話をかけております。大変申し訳ないのですが、個室から出られなくなりまして、迎えにきてくださいますか」

「何の話?!とりあえず、今行くわ!」

数秒で松さんがやってきた。

松さんが外からがちゃがちゃやると、ドアが開いた。

ああ!!!

お礼を言う私に、ちょっと練習してみましょうよと言った松さんは
個室に2人が入った状態で鍵を閉めた。

そんなことしたら開きませんよ!

そう言ったら、やっぱり開かなかった。

何をやっているんだろうか私たちは。

インターンってこういうことを言うんだろうか。

きっと開くはずよ!
ほら、強く!強く引いて!!!


ドアもあきらめたんだろうか。
最終的に松さんの掛け声につられて開いてくれた。

「まあでも、もう一つの個室を使う方がいいかもしれないわね」

ふうふう言いながら、松さんがアドバイスをしてくれた。


そんなわけで、その後のセレモニーとか、市役所の玄関に犬の糞がおいてあり、セキュリティの人が全員に「気をつけて!もうすぐ掃除の人が来るから!」と言っていたこととか、松さんが私と腕を組んで歩いてくれたこととか、とても個人的な話をしてくれたこととか、松さんの直属の上司(私のインターン先のチューター)が山賊のようないでたちで現れたこととか、あまりにもいろんなことがありすぎて、私のメモ帳は初日から真っ黒になった。

市役所ってこんなんだったっけ?!

私の当たり前をおもしろいぐらいに次から次へとぶち壊してくれるインターン先に感動し、初日が終わった。

これから2カ月、どんなことが待っているだろうか。

ここにも少しずつ記していこうと思う。


にゃー!

写真は、大学に入ってきた鳩。
ときどき教室にも入ってくる。

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