『骨音―池袋ウエストゲートパーク3(著:石田衣良)』〜骨音が響く、狂気とリアリティの交錯点
【内容】
池袋西口の果物屋の息子のマコトは、“池袋のトラブルシューター”。依頼された難事件を次々と解決していく。
石田衣良の人気小説シリーズ『池袋ウエストゲートパーク』の第3作目。
※ネタバレします。
【感想】
表題作となっている冒頭の短編は、「ホームレス」という、誰もが一度は耳にしたことがあるものの、実際にはよく知らない世界を扱っています。その一方で、インディーズ・バンドという華やかな世界を、「骨音」という斬新なアイデアで結びつけ、新たな物語を立ち上げていると感じました。
タイトルがやや「出落ち感」を漂わせているものの、それを逆手に取った構成で物語が進行しており、その巧妙さに感心しました。骨を折られるホームレス事件と、骨の砕ける音を楽曲に取り入れる狂気のミュージシャンというアイデアには、発案した瞬間に著者がガッツポーズを取ったのではないか、と想像してしまいました。
1巻、2巻と読んできましたが、個人的にはこの短編が最も完成度が高いと感じました。読んでいると映像や音声が自然と浮かんでくる物語で、こういった完成度の高い話を集めてNetflixなどで再ドラマ化すれば、かなり面白いシリーズになるのではないかと感じました。宮藤官九郎脚本とは別に潤沢な資金で再制作したら、面白くなるのかも…おそらく、何らかの形でそうしたオファーがすでに来ているのかもしれませんが…
モチーフとして取り上げられている地域通貨、ライブ、脱法薬物、義足のモデルといった要素が、時代性を感じさせながらも物語としてしっかりと成立しており、筆が乗っていることが伝わってきました。この3巻でこのシリーズのスタイルが確立されたのだと思いました。出来が良いと感じて調べてみたら、直木賞候補になった作品だったのだと知りました。
さらに、PHSや『千と千尋の神隠し』『ハリー・ポッター』の映画ポスターなど、特定の時代を刻印するような小道具が登場する点も、物語のリアリティを高めていると感じました。
1巻の頃から見られた傾向ですが、この3巻では特に、主人公アキラに著者・石田衣良自身が強く投影されていると感じました。そのためか、著者自身が割り切って書いており、読者もそれを受け入れた上で楽しんでいる、という暗黙の関係性が前提になっているように思います。
ちょうど池袋に用事があった際、この本を喫茶店でのんびりと読んでいたのですが、なんとも不思議な気持ちになりました。
立教大学近くの神社では、まだ1月中旬だというのにソメイヨシノが咲いており、この小説が書かれた頃にはなかった南池袋公園では、高校生たちが屋外卓球台でスマホをラケット代わりに卓球を楽しんでいました。
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