言葉好きのためのお宝詰め合わせ -穂村弘×堀本裕樹『短歌と俳句の五十番勝負』
文章添削士がおすすめの本を紹介する「文章添削士が推す! 秋の推薦図書」シリーズ。
今回は、矢野多恵さんによる穂村弘×堀本裕樹『短歌と俳句の五十番勝負』の紹介記事をお届けします。
タイトルの通り、50人から出されたお題をもとに歌人 穂村弘さんと俳人 堀本裕樹さんが創作した作品集である。
1テーマ見開きプラスアルファなので、デスクワークの気分転換にぴったりだ。
まずは、目次でニヤリ。
目次には、50のお題と各出題者の名前、職業が記されている。
豪華な出題者とお題をまず楽しもう。
一例をあげると
7. 唾 又吉直樹 芸人
10. 流れ 鏡リュウジ 占星術研究家
17. ピタピタ 谷川俊太郎 詩人
42. 安普請 壇蜜 タレント
他にも写真家 荒木経惟やコメディアン ビートたけし、出版社受付係 山田邦子の名前もある。
あの人がこんなお題を、と納得したり意外に思ったり。
お題をふまえて、お二人がそれぞれに作品を創り出す。
このお題をどう料理するのだろうというワクワクと、
そうきたかと頭の中の一角に灯りがともる感じがとても楽しい。
短歌、俳句に続いて短いエッセイも書かれており、
私のような詩歌の門外漢でも楽しめる。
例えば、35番目のお題は、落語家の柳家喬太郎による「舞台」。
穂村氏の作品は
まっくらな舞台の上にひとひらの今ごろ降ってくる紙吹雪
舞台がお好きな方ならきっと経験があると思うのだ。
芝居が終わり、カーテンコールも終わり、
客もまばらになった頃、
舞台にひらひらと舞い落ちる紙吹雪の一片は
祭りの後の興奮と切なさを掻き立てる。
それだけでなく、この作品は、
スモークの霞んだ名残やにおい、
ロビーから聞こえる観客のざわめきまで
劇場空間そのものを私の前に運んでくれる。
一方の堀本氏の作品は
船虫に舞台度胸のなかりけり
目に浮かぶのは防波堤やテトラポッドだ。
空は晴れ、千切れた雲は白い。コンクリートはちょっと眩しい。
右往左往するだけでアピールポイントの薄い船虫は、
確かにスポットライトが当たると爆速で袖の暗闇へ飛び込みそうだ。
詩歌だけを先に味わうもよし、エッセイまで一気に読むもよし。
気分次第で、好きに読んでいる。
お二人のプロの仕事は、
季語を含め詩歌に関する知識はもちろん、
想像の広がりや言葉の組み合わせの可能性を教えてくれる。
どこを読んでも何度読んでもいつも何か発見がある。
安直に「短歌って面白そう」と手に取ったが、
お二人が見せてくれるのは
研ぎ澄まされた言葉による小宇宙だ。
その四次元的な広がりにとても心地よくはまり込んだ。
言葉が好きだと自認されている方にぜひおすすめしたい一冊。
本のお題を用いて一首、一句創ってみるのも楽しいかもしれない。
私はしたことはないけれども。
(執筆者 矢野多恵)