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筋トレしても鍛えられない、弱いところ。それは、誰にもある。―森沢明夫『大事なことほど小声でささやく』

文章添削士がおすすめの本を紹介する「文章添削士が推す! 秋の推薦図書」シリーズ。
今回は、宮本かぐらさんによる森沢明夫『大事なことほど小声でささやく』の紹介記事をお届けします。


まずはタイトルから気になるこの小説。クスっと笑えて、思わず涙して、前向きで温かい気持ちになれる人情小説です。登場人物の誰かのどこかに共感や共鳴ができ、何よりゴンママの魅力のとりこになること請け合い! 映画化もされており、女優の遠藤久美子が良い演技をしているのでそれはそれで良いのですが、ぜひ原作の小説から読むことをおススメします。
 
軽く内容を紹介しますと、スポーツジムに通う、なかでも名物会員であるゴンママに引き寄せられるように集まった人たち。その人たち一人一人が、各章で主人公となってストーリーが次々に展開していきます。年頃の娘を持つ父親、生活のほとんどを仕事に費やしてしまっている美女、人生に虚しさを感じてしまっている高校生、どうにもできない悲しみを抱えた夫婦、若い社員の育成に悩む社長、各々の悩みや苦しみに、そっと優しく寄り添い、救いの火を灯していくゴンママ。そのそっと寄り添い、救っていく様が、なんとも素敵で粋なのです。
ゴンママの夜の顔はスナックのママ。カウンターで自分の心境を吐露する人たちに、そのアンサーとなる、カクテルを差し出す場面がいくつも登場します。カクテルにも花言葉のように、カクテル言葉というのがあります。各章の主人公たちは差し出されたカクテルの意味を知り、「はっ!」となり「そうか、そういうことか」と先に進む道の灯を見つけていきます。
そんな粋な演出で、核心をつきながらも悩める人物たちを優しさで包み込んで前向きにしていくゴンママだけど、そんなゴンママにも誰にも見せない、見せられない一面があって……と、ここから先は読んでのお楽しみ。ゴンママがどんな風貌で、どんな人物なのかも読んで、想像をどんどん膨らませてくださいね。
 
あなたもきっと、ゴンママやジムに通う人たちに会いたくなるはずです。みんなおバカでサイテーで、特別でも格別でもないけれども、でもなんとも魅力的な人たちばかり。あなたの周りにも同じような人はたくさんいるはず。読後は心が温かくなり、今そばにいる人たちみんなを、たまらなく愛おしく思えるようになりますよ。
 
私もゴンママのような、温かく寄り添って、先を導けるような添削ができる文章添削士になりたい。そう思わせてくれる、大切な一冊です。小説を読みなれていない人も、小説を読むのが久しぶりの人にも、ぜひ読んでもらいたいです。

(執筆者:宮本かぐら)

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