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質問145:突然、相手の打球が遅く感じられた。これって…?

テニスの相談をしたく、メールをさせていただきました。

ゾーンについての質問です。


4年前、自分がソフトテニスのダブルスの試合をしていたときのことです。
ラリーを続けていると突然、相手の打球が遅く感じられました。
それだけでなく、相手のインパクトの直後に、ボールの通過点に身体が勝手に動き出し、普段よりとても早いタイミングでラケットを構えられました。

相手のスマッシュすらはっきりと見え、幾度と返せた不思議な体験は今でも忘れられません。

それからというもの、自分はこの状態の劣化版とでも言うべき状態に、自然と入れるようになりました。

この感覚を友人に話しても中々理解してもらえません。

これはゾーンなのでしょうか?
軟式だと球に縫い目がないのですが、簡単にゾーンに入れるものなのでしょうか?
また、それを高めるにはどうしたらよいですか?

回答
※過去回答例の加筆修正版なので、日付がずれている旨のご了承をいただければと思います。


▶日常生活が「再現性を高める」


結論から申し上げると、間違いなくゾーンです。
 
しかもかなり深いゾーン状態であったと断言できます。
 
その再現性を高めて、日常的にも(仕事や家事等を通じて)恒常的にゾーンを頻繁に経験できるようになると、深さの程度の差こそあれ、高い集中力を発揮できる人になれます
 

▶ゾーンに入ってしまいさえすれば、こっちのもの


こうなると、確かに体にとって合理的なフォームはあるにせよ、ほとんど関係なくなります。
 
打ち方なんて、どうでもいい。
 
またフォームや打ち方を意識すると、ゾーンから一気に覚めます
 
つまりフォームや打ち方を意識させる常識的なテニス指導はその構造上、ゾーンに入れないようになっています。
 
逆に、ゾーンにさえ入ってしまいさえすれば、こっちのものです。
 

▶「あれもやらなきゃ!」「これもまだできていない……」

 
確かに、こちらでご指摘いただいたような血のにじむ鍛錬をするのも、もちろん上達する「道」なのでしょうけれども、今の自分を自己否定しながら進む人生は、かなりしんどいのではないかと想像します。

「あれもやらなきゃ!」「これもできるようにならなきゃッ」「これもまだできていない……」と考えると、「自分にはもう無理!」という絶望的な気持ちにもさいなまれかねません。

▶「フォームの修正」が必要な場合


それよりも、フォームや打ち方などの小難しいテクニックなどの話はさておき、ゾーンに入ってしまいさえすればこっちのもの。
 
小難しいテクニックを習得する(動作に関するイメージのズレを修正する)なら、ボールを打たない素振りか、ボールを打つ場合はショットの結果を気にせず行なうようにします
 
イメージがズレているプレーヤーにとっては必要な練習。

とはいえ繰り返しになりますが、ゾーンに入ってしまいさえすれば、小難しいテクニックの話などは、関係なくなります。

▶ゾーンは「ひねくれもの」


「劣化版には自然と入れる」とおっしゃるのも、こういう経緯に由来するものと説明できます。
 
ただし肝心な「深くゾーンに入るには」ですが、これにはちょっとひねくれたところがあって、「『入りたい、入りたい』という意識が強くなりすぎると、絶対に深く入り込めない」という理があります。

だから「努力逆転の法則」なのです。

▶これが「集中の王道」

 
ゾーンに深く入り込むには、そのような欲や雑念をなくし、対象に没頭するというのが間違えのない手段なのですけれども、そのための基礎的な取り組みの一例が、「縫い目を見る」という新しいボールの見方
 
ただし、必ずしも実際に見えている必要はありません。
 
見えなくても見ようとする視覚的集中により、ほかのこと(結果や打ち方や天候や人目)が考えられなくなり、欲や雑念が打ち消されるというのが、集中の王道的なメカニズムです。
 
眼耳鼻舌身意(関連記事「目で聞けない。耳で見えない」)。
 
見る(感覚)と考える(思考)はトレードオフの関係(一時にひとつが原理原則)なので、これを限りなく下記の公式に当てはめるのです。
 
「見る>考える」
 
ですから、ソフトテニスでは縫い目がないなら見えなくても構いません。
 
とはいえ「回転を見つめようとする集中状態」が、ゾーンの入り口となります。
 

▶国民の97パーセントが幸福と感じる国


ところで少し話が変わりますが、ちょうど1月7日付の毎日新聞に、ブータンの人たちに関する記事がありました。
 
7年前のアンケート調査によると、国民の97パーセントが、「幸福だ」と感じているというのです。
 
お金持ちの国ではなく、テレビやインターネットも13年前に入ってきたばかりで、日本やアメリカのように物がたくさんあるわけでもない。
 
だけど「欲はよくない」という思想のもと、充実した日々を過ごしているそうです。
 

▶ブータン人は「恒常的なゾーン体質」


どうしてこのようなテニスに関係のない話を持ち出しているのかというと、ブータンの人たちは、「恒常的なゾーン体質」であろうと想像するからです。
 
なぜならゾーン状態では充実感を覚えるというのが、際立った特徴です。
 
ご自身もきっとゾーン状態に入ったとき、得も言われぬ充実感であったのではないでしょうか。
 
その理由は、科学的に言えばドーパミンやエンドルフィンなどという神経伝達物質が発現するから、らしいのですけれども、これらは、出る機会や頻度が増えるほど、出やすくなるそうです。
 
その再現性を高めるように昔から実践されてきた精神修行が、「禅」であったりしました。

グルメなどいりません。

塩おにぎりも、集中して一口につき100回噛めばご馳走です

▶廉価版からさらに深く入り込むためにできること


では劣化版からさらに深く、恒常的に入り込めるようになるには、どうすればいいでしょうか?
 
心理学者のミハイ・チクセントミハイはその深さの程度について「マイクロフロー」「ディープフロー」と名付けましたが、大半の時間を過ごす日常生活を通じて、浅い集中の「マイクロフロー」を何度も経験されるとよいと思います(関連記事「いつでもどこでも誰でも『ゾーン』『フロー』に入れる」)。

皿洗いや掃除などに集中するもよし、一口につき100回噛み締めるもよしです

▶「ゾーンの深み」には限りがない


話が脱線してしまいましたけれども、ただ何となく、ゾーンと精神性の関係みたいなものを汲んでいただけたのではないでしょうか。
 
最後にご質問内容にお答えするならば、欲や雑念を湧かさず、ボールにただただ集中することで、ゾーンに頻繁に入れるようになるし、その深さ(集中力の高さ)もより進展させることができるようになります
 
そうすれば、すでに体験されましたとおり、相手の打球が遅く感じられたり、相手のインパクトの直後に、ボールの通過点に身体が勝手に動き出したり、相手のスマッシュすらはっきりと見えるようになったりします。
 
ただし、この時点で最高の集中ではありません。
 
ゾーンの深みには限りがなく、ゾーン状態でプレーするレベルを掘り下げていくと、さらに深い世界が見えてきます。
 
いつも出す例で恐縮ですが、このときのロジャー・フェデラーは、アンパイアのジャッジも観客の声援も聞こえていなかったし、カウントも人目も一切気にしていなかった超越的な「ゾーン」だったのでした(関連記事「プレーを『楽しむ』のが最高(フェデラーの例)」)。 

https://youtu.be/njvK_EII2GI

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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero