【18 禁】肛虐の群れ 英語教師と人妻【冒頭サンプル版】
・またいつものような一章だけ投稿と同じ結果になってしまっているのですが😢
・投稿フォーム執筆ではいろいろ不安で、まぁ保険です😁
・いずれこの記事は『肛虐の呪い 二人の女教師』に置き換えていく予定なのですが😟
・ネットがつながているあいだは主にこちらの作品を書き足していきます(今回こそ一章だけ投稿を脱したかったんですが、諸般の都合により)😢 いつまでつながってるのか確認とってくれるかもしれないひと、思いだした😊 ダメだった😢
・S側2に関しては、ときどきいうまともなことと実際にやってることとのギャップなどから、不気味さや狂気、演出していけたらいいんだけどなァ😁 「そんなのお前にゃムリ!」😢 いまから『文学部唯野教授のサブ・テキスト』、発掘。エレイン・ショワルターの部分がやっぱ不安だよ😊
M側キャラクターズ
芦川雪子──相模与野市立相模与野中学の国語の新任教師。全話で浣腸責めを受ける。
市村俊子──夏彦の恩師の夫人=人妻。爆乳熟女だが名誉教授の夫とは超歳の差婚(その夫がシェイクスピアの舞台を監修。元そこの俳優)。
植田千遥──城東大学教育学部長秘書。メガネ美人。留学生関連の雑務などで、夏彦と組む場合が多い。
水島梨花──城東大学教務部教務課事務員。まだ若いが身体の発育はよく、ムチムチ。
綿貫楓子──夏彦の憧れの女の姪。城東大学相川高等学院の英語教師。全話で浣腸責めを受ける雪子のグリセリン溶液量をたった一話で超える。
S側キャラクターズ
榎木吾郎──肛虐三悪人、その2。フュージョンバンドのキーボーディスト?
氷室夏彦──肛虐三悪人、その1。城東大学教育学部英語英文学科教授。
桜井圭介──肛虐三悪人、その3ながら種々のフェチ、屍体性愛など強烈な性癖を有する。
第1話 国語教師・芦川雪子
第1章 肛虐鬼たち
ガラスを伝う水滴を眼で追いながら、氷室夏彦は、この店の窓、案外大きかったんだな、……と思った。
外は秋の長雨だろうか? もうかれこれ三日間、愚図愚図した天気が続いている。
テーブルに置いたタブレット端末で確認すると、時刻は17時45分──。そろそろターゲットが現われる時刻だったが、ネット上で召喚された他の“ビッチ討伐隊”の勇者たち、ハンドルネーム、それぞれシーフ、ゴブリンの面々はまだきていないようすだった。
マスターはひとのよさそうな胡麻塩髭の小男で、客はそのマスターに比し一回りいっていそうな痩身の男と、さらにカップル二組……。実はそれらカップルのうち一組がシーフとゴブリンで、──などという番狂わせも面白いな、と思ったのだが、到底そんなことはあり得ないようなベタベタ振りだ。
白壁の漆喰──。柱や梁などの黒ずんだ木材──。CDのものらしいピアノコンチェルト──。よくいえば瀟洒なといった感じだが、少々気取ったカフェだった。
従がってカップル二組のベタベタ振りはやや浮いた感じだったが、競い合ってでもいるつもりなのだろうか?
現在Bランク大学の片隅で新進気鋭の文学部教授などをやっている夏彦だったが、学生時代は、まったくモテない優男だった。というわけでそれらカップル二組のイチャイチャ振りに、妙に腹が立った。
カップルたちのそういった雰囲気をシャットアウトする意味もあってか、夏彦はテーブル上のタブレット端末を取りあげ、今回のターゲットのスライドショーをスタートさせた。夏彦たちの目的を差し引いなお、やはり恐ろしい時代だといえた。のちに彼らはこの件の依頼者から充分な資料を受け取ることになったわけだが、いま観ているスライドショーは、依頼を受けたその直後数分間で、ゴブリンが作ってしまったものだ。
最初の画像は一週目の表示では見落としてしまい勝ちなのだが、身分証明書風の凛とした顔写真だ。ピッと結ばれた口もと──。まさに絶妙なバランスの鼻梁──。形よく、微かに厳しさを感じせる双眸──。細いのにピリッとした眉──。それらに加え理知的な額──。ひっつめの髪型が実に似合っている。相模与野市立相模与野中学の教員紹介ページから拾ってきたものなのだそうだ。
新任美人教師!
性に目覚めた中学生男子たちの格好のオナペットになりそうなものだが、彼女の場合少々、汚してはいけない、といった畏れさえ感じさせるレベルの美貌だった。
しかし、二枚目の画像は打って変わって親し気な雰囲気のスナップショットだ。上記中学のホームページに「PTA」というメニューがある。そのメニューをさらに辿っていくと彼女の着任時の挨拶ページがまだ残っているのだが、スライドショーで表示されるのはそこにアップされた三枚の画像のみ──。とはいえボディの文もなかなかのもので、文学研究者の夏彦でさえちょっと関心させられたほどだ。
(この娘、教師などというインテリヤクザみたいな仕事じゃなく、研究者になればよかったのに……)
などと思ったものだ。
(仮に彼女が私の学生だったら? 絶対守ってやろうって躍起になっただろうな……。もっともこれから私たちがやろうとしていることは……)
だが夏彦は自身のそんな思いに特に痛痒は感じていないのだった。彼だって現代の文学研究者の端くれ──。守ってやりたいという思い自体がパターナリズムの割り合い解り易い表出だ、などといって自嘲する程度のことはできる。
そしてスライドショーは上記中学の体育祭の記事から拾った画像へと進む。
夏彦は無論のこと、これらの画像を集めたゴブリンでさえ、『この学校、いまどき周回遅れのプライバシーポリシーだな』、などとコメントした。とはいえそのお陰でターゲットの溌溂としたジャージ姿が拝めるわけだ。堅めのスーツ姿とは対照的に、思ったよりいいヒップをしている。もっともそのヒップ自体を直接確認することはできないのだが……。体育祭の最初の画像は担任クラスの生徒たちだろう集団のなかに埋もれたもので、運動場の中央へ向け声援を送っている姿を横から捉えたものだ。しかし、二枚目の画像がいい。正面からの全身像で、彼女は腰に手を当て、肩幅よりやや広く脚を開き、すっくと立っている。その画像の逞しささえ感じさせる大腿部と、さらにべつの種類の脂肪を載せた骨盤辺りからの急激なカーブが最高だ。前を開けたジャージの上着が風に靡いているため、腰のくびれこそ確認できなかったが、下腹の辺りはしっかり締まっている。白いTシャツのチラリズムがまたいい。キャプションでなく画像自体の名前として、ゴブリンがコメントを添えている。
『このTシャツ、たっぷり汗、吸ってんだろうな』
次の画像は教員総出の借り物競争か何かのようだが、こちらは残念なことにまたしても群衆シーン──。ゴブリンによる画像名コメント──。
『監禁後、彼女の一人体育祭はパン食い競争でいいかな?』
ゴブリンのコメント、さらにレスなどにはときおり意味不明なものが混じる。だが、なんでも特殊AVの一ジャンルに咀嚼モノというジャンルがあるのだそうだ。彼女ほどの美人のものなら、……と夏彦も思わないではない。
スライドショーがリピートになったとき、店の外の坂道を六十年代風デニムの長い脚があがってくるのが見えた。髪も縮れたロン毛──。全身往年のヒッピー風だ。
(ひょっとしてゴブリン? いやあれがもし今回の旅の仲間なら、多分シーフのほうだろうな……。彼、フュージョンバンドのキーボーディストだっていってたから……)
またゴブリン自身がルックス面で、相当悲観的コメントを残している。
『まぁ俺が普通の御面相だったら、普通の恋をしているあいだにこの性癖、緩和されていったんじゃないかな? 案外フェミニストになっていたかもしれないよ。俺、思想的にはリベラルだから──』
目の前の坂をあがってくる男はなかなかどうして、結構な美丈夫なのだ。
(あれがシーフでフュージョンバンドのミュージシャンなら、きっとリア充で女なんか入れ食い状態だろうにな……)
当該人物が窓のフレームの外にでた。直後果たして、店のドアのベルが鳴った。続いてマスターに待ち合わせだと告げる声──。
しかし夏彦は敢えて動かなかった。
問題の人物が背後に迫り、肩先をかすめ、いきなり夏彦の前の席にかけた。相手はニヤッと笑い、
「ナイト?」
と聴いてきた。夏彦は直接それに答えず、質問に質問で返すジャブを繰りだした。
「ゴブリン?」
「ハハハッ、御冗談を! シーフですよ、シーフ!」
気さくな彼は本当に好青年で、とても女を輪姦す計画に乗ってくるような男には観えない。もしや“ビッチ討伐”などというお題目を大真面目に信じて? いや、それならそれでもう少しファナティックなものを感じさせるだろう。
……!
なんと彼は、シャツの胸ポケットから名刺を取りだしたのだ。さすがに夏彦はそれを手で制し、
「オイオイ、いまから私たちが取りかかる仕事は──」
といいかけたのだが、名刺を挟んだ彼の指がスッと前にでる。添えられた笑声に言葉が乗った。
「つまりこれから一蓮托生ってことになるわけだろ? 俺たち──」
「そっ、それはそうなんだが……」
夏彦も釣られて名刺を差しだす。シーフ──。名刺によると榎木吾郎が、一人ごちるように呟いた。
「へぇーっ、学者さんなんだァ……。夏彦って呼んじゃっていい? 俺のことは吾郎でいいよ」
ナイト──。シーフ──。加えてゴブリン──。ハンドルネームで呼び合うものだと想定していたのだが……。少々迂闊過ぎるのではないか?
これら三つの奇妙なハンドルネームは、彼らが第三の男、ゴブリン作のネット小説の感想欄で知り合ったという経緯に因る。その小説はいわゆるケルト風ファンタジー小説なのだが、主人公の勇者は魔王に誘惑され、手始めに自身のパーティーメンバーのエルフ、プリーストを惨殺! ……王国に逆侵攻し第Ⅳ章はクイーン、プリンセスの公開処刑のシーンとなる。惨殺、処刑といったってただ殺されるわけではない。バンブー浣腸などというマジックアイテム? まで登場する。要するにジャンル的にジュブナイルポルノというジャンルなわけだが……。ちなみにその小説、未だ連載中で、著者ゴブリン曰く、
『なぁに、隣国にだってクイーンもプリンセスもいるだろうっていう話さ。でも取り敢えず第Ⅱ部は、“エルフの森”攻略編かな?』
という展開になるのだそうだ。そういえばシーフ=榎木吾郎はそんな小説を好むような男には観えない。その点は“ビッチ討伐”に関する箇所で指摘した点とどうようである。
夏彦も普段、ジュブナイルポルノなど相手にするような男ではないのだが……。彼は専攻として西欧文学の“批評対象は聖典にかぎらない”といった学派に属しているのだが、研究者としての気負いもあってか、当該小説への最初のコメントはいわゆる“設定警察”としてのそれだった。しかしチャットが妙に弾んだ。
『バンブー浣腸っていうのは郷土玩具の水鉄砲のような感じ? プリンセスの崩壊シーンにはちょっと相応しくないガジェットじゃないかな?』
『トラジディ、コメディを一緒くたにしちゃってるって? でも官能小説ってどっかコメディなんだよ。おもしろうてやがて悲しき、的な?』
『いやいや、耽美派的世界観にはもうちょっとコダワって欲しいってところだな』
『結局ヒロイン浣腸されて、強制的にウンチまでさせられちゃうっていうのに? 浣腸責めって未だ、凌辱系官能小説の定番メニューだろう? それにウンチ! 大人になる過程で抑圧された小学生の夢への回帰なんだよ。アゲハ蝶分解しちゃうような──。アゲハ蝶だって翅毟られちゃうと、羽化前の醜い芋虫みたいな姿に戻っちゃうだろう? あれを人間の美人相手にやっちゃいたいってわけさ』
そうしたチャットにいつの間にか、シーフ、つまり吾郎が紛れ込んでいたわけだが、さらにもう一人、ドラキュラと名乗る人物が入り込んでいたのだった。
『翅毟ってやりたいアゲハ蝶、私にも一人、いるのですが──』
『いや彼は、少年時代の社会性に目覚める前の夢を、語ったに過ぎないのだと思うんですが?』
『そうですか? それは残念──。いまいわれた社会性云々の観点からいっても、制裁を受けるべきビッチなのですが──。でもディードリットみたいな美人ですよ』
『ディードリット! 懐かしいなぁ!』
とはいえその後のチャットの流れは、どうも辻褄が合わないところがある感じなのだった。
『中二のときの担任なのです。国語の教師で──。私は彼女にヒドいイジメを放置され、それで私の人生、中二で詰んでしまいましてね。新任教師だったのであのイジメへの対処は少々荷が勝ち過ぎていたのかもしれませんが──。ですが教師という、以後の教え子たちの人生に甚大な影響を与える職に就くのなら、そんな甘えは絶対許されませんよ』
『確かに! それどころか教師たちって、イジメを学級運営のツールに使っちゃってるところがあるね!』
『ガバナンスがあるところ、アウトカーストは必ず存在する!』
『ところでディードリットって──。ドラキュラがあの物語の直撃世代なら、話題にのぼってる新任教師、すでに校長クラスだよね? 本当にディードリットみたいな永遠の美少女なの? ドラキュラ、ほかにも好きなエルフっている? たとえばフリーレンとか?』
……レスはなかった。そもそもドラキュラというハンドルネーム自体、少々ズレている。確かにケルト風ファンタジー世界にもヴァンパイアは存在し得るだろうが、ドラキュラとなると固有名詞で、ナイト、シーフ、さらにはゴブリンなどといった一般名詞とは自ずと性格が異なってくる。
……チャット数ターンののち、突然ドラキュラが復活した。
『置いていかないでくださいよ。画像、頭飛ばしたURLで貼っておきますね。本当に美人ですよ! でも本当に最低最悪のビッチなのです! どうかこのビッチ、皆さんの手でしばいてやってください! ゴブリンさんの小説にでてきたあの女騎士隊長さんのように──』
“あの女騎士隊長さん──”。
彼女は反転した勇者たちにとって最初の攻略対象で、王国側の女辺境伯だったのだが、城塞陥落後自身の城塞の正門脇に串刺しの全裸死体で晒されたのだった。騎士隊長さんなら男のように! という理由で後門のほうに杭を挿れられたうえ、腐り果てて骨になるまで……。
以後もドラキュラの誘惑は続いた。
『ゴブリンさん! 彼女の死体がカラスに鼻啄ばまれるシーン、最高でしたよ! このビッチの鼻は彼女よりちょっと低目なのかな? でも可愛いでしょう? 紅毛碧眼の人種じゃないですしね』
──これから夏彦たちはそのビッチを捕らえる行動にでるわけだが、客観的には彼らのほうが、ドラキュラの牙に捕らえられてしまったのかもしれない。
第2章 第五の淫鬼
吾郎は窓の外の坂道を見ている。
「ゴブリンこねえなァ……」
彼は横顔もまた大したもので、夏彦はフッと思うのだった。
(女っていうのはこういう男に嬲られるのと、あるいは相当ブサ面だというゴブリンのような男に嬲られるのと、一体どっちが辛いんだろうな……)
キスなどを強請されるのはゴブリンにされるほうがおそらく辛いだろうが、浣腸責めなどの羞恥責めは、吾郎のような男に観られるほうがよほど余程辛いのではないだろうか?
そんな連想が話の接ぎ穂になった。
「どうしてなんだい? 君ならこんなことしなくたって、女なんか幾らだって──」
ところが名乗りの一幕に反し、今度は夏彦のほうが質問に質問で返される形になった。
「あんたこそどうして? 俺たちにはグルーピーなんて娘たちがいるけど、学者さんたちにだっておこげなんていわれてる娘たち、いるんでしょ?」
夏彦の修業時代に一世を風靡した『文学部唯野教授』に確かそんな記述があった。ただし──。
「それってれいの本のサブ・テキストについての話?」
「ええまぁ──。ショワルターって女学者がイーグルトンって大学者のおこげだとかって──」
「これからやること差し置いてなんだか、そういうモノいいは、ちょっとな……。エレイン・ショワルター──。ちゃんとした学者さんだよ。あれ? でも本当にショワルターだったっけ? それに筒井さん、そんな風にはっきりいっちゃってたっけ?」
「いや、山崎カヲルってこれまた東経大の大学者さんが、『理論戦線』って雑誌であれに触れてて──」
「山崎カヲル! ゴブリンとはよくそんな話になるが、君も結構なヲタクだったんだなァ……」
「こう見えても俺、二田のほうの大学のOBっす。現役合格でね。夏期講習に通ってた予備校のPR誌に私の勉強法みたいな体験記、書かされちゃったりなんかして──。ああでもこれが、さっきの質問への答えになるかな……。無論俺にとっちゃ女なんてチョロいってことがまずあるんだけど、あの学校幼稚園からあがってきた連中がまったく別世界でしょ? チョロいはずの女たちが箸にも棒にもかかんねえんすよ。遊ばれることはあってもね。なんかガラスの天井、感じちゃったなァ……。俺って所詮平民だったんだなァって……。で、何もかも馬鹿らしくなっちゃってっていうのは、ちょっと背負い過ぎかな?」
「いいや──。でっ? その女たちのうちのなん人かを姦っちゃったっていうのが、君の転落の第一歩だったってわけ?」
「ああ、あの連中にはもう手はだしませんよ。こっちが遊ばれんのが落ちっすからね。俺やっぱ、主導権欲しいほうだし──。でもあの頃から俺の性癖、なんか変なモンになっていってなァ。べつに金がねえってわけじゃねえのに女風俗に沈めたりすんのが妙に楽しくなっちゃったりして……。ゴブリンが好きな特殊AVの女優たちンなかにも、俺が仕こんだ女優、いるはずなんだけどなァ……。ところで夏彦はなんで?」
先の擬問にはかすっただけで、結局質問は夏彦へと返されてしまう。
「私か……」
といったきり、夏彦はしばし、沈黙してしまった。
吾郎が居住まいをただし、“さぁ御傾聴”といった姿勢になる。夏彦も眼鏡を直したりなどしながら──。
「最初に話を持ちかけられたとき、その、ドラキュラの話もグダグダだったしね。だが、彼に画像を観せられて……」
「美人だったよね、本当に……」
「ああ……。ただ私の場合、それだけじゃなかったんだ。その、なんだ……。似ていたんだなァ。初めての本格的初恋の女に……。どこがどうっていうんじゃなく、あの瞳の凛とした雰囲気と、そのうちに秘められた教え子たちへの慈愛のようなもんがね。誰かがあそこに書き込んでたように、もう校長かなんかになってる歳の女なんだが……」
話を切ると、今度は夏彦が窓の外に眼を遣り、眩し気にそれを細めた。薄陽が差してきただろうか? 吾郎もまたその光に遠い眼を向け、呟く。
「早熟なんだなァ……。学者さんって……。本格的初恋の女って科白がなんとも……。本格的じゃないほうの初恋の女、きっと保育士さんかなんかなんじゃない?」
「ああ、まあ、そんなところだ……」
坂のなかほどに虹がかかっている。空にかかる虹ではないのでさほどハッキリしたものではないが……。さらに、その虹にダブって……。吾郎がヒューッと口笛を吹いた。ゴブリンではない。今回のターゲットの御登場だ。
かなりの急勾配をスッスとテンポよくあがってくる。それで吾郎には、彼女が雨をはらったかのように思えた。僅かに残った雨は、もう卵色のステンカラーコートだけでしのげるようすだった。
吾郎が彼女に眼を据えたまま呟く。
「あれは墜とせないな……」
「さっきの異世界の住人たちと同じ?」
「いや、あの連中はそれなりに退廃してるよ……。でも彼女、退廃の対極にあるような感じっしょ? 貞操堅固?」
「ハハハッ──」
「とはいえああいう女の彼氏って、案外くだらん奴だったりすんだよなァ……。夏彦の憧れの女だってそうだったんじゃない?」
「ハハハッ……」
まさにその通り──。彼女が伴侶に選んだのは生徒たちの人気ワースト1の下品な体育教師だった。夏彦は苦笑するしかない。吾郎が続ける。
「まっ、ある程度調教が進んでからは、俺に任せとけって感じなんだけどな。俺、ホストもやってんだ。だからね……。彼女借金塗れにしていつ失踪してもおかしくねえって状況に持ってってやりますよ。フフフッ……」
「そこまで持ってくのが大変なんだけどなァ。ゴブリン、なんかいい手、持ってねぇかなァ」
そしていよいよ、ターゲット入場のときがきた。
しかし、夏彦の席からそちらを振る返るのは、いかにも不自然だ。代わりに吾郎がコートかけ辺りにいるだろう彼女のようすを実況してくれた。
「背すじのS字が綺麗だな。ウン、いい姿勢だ。でも思ってたより安産型かな? 脚長いからやっぱスッと見えっけどね」
すぐにマスターとの会話などが聴こえてくる。
「雪ちゃんお疲れ、いつもんでいい?」
「ええでも、うちの子たちがいるときはやめてくださいよ。ちゃんづけ──」
「これは失敬──。ですがお宅の生徒さんたちには寄り道禁止、励行願っております。コーヒー一杯まででケーキは禁止! ところで雪ちゃん、ケーキは?」
「モオウッ! 寄り道しちゃってるじゃないですかァ……。えっと、ケーキはモンブランかな?」
鈴が鳴るような声──。意外と可愛いらしい声をしている。それは彼女のけして高過ぎず、かといって低く過ぎもしない鼻に相応しい声かもしれない。
吾郎がオッと声をあげた。だが視線はまた窓の外の坂道だ。ゴブリンだろう。
「なるほどありゃぁモテないね。カバ? イノシシ?」
「おいおい、ゴブリンじゃなかったら失礼だぞ。いや、ゴブリンでもなっ」
やがてゴブリンも入店したのだが、レジの辺りで何かモタモタしているようだ。それでもどうやらこちらを見つけ、足音が迫ってくる。
いかにも小太りの男といった自信なさ気な声が、
「あのぅ……」
といった。
「シーフです」
といいながら吾郎が席一人分ズレた。そこにかけたゴブリンとは意外と接近している。夏彦が三人がけぐらいは優にあるのにな、などと思っているとまたしても名詞がでた。声をあげたのはゴブリンのほうだ。
「ウヒャッ、名刺? 困ったなァ……。俺名刺なんか持ってきてねえけど……」
夏彦はそりゃァそうだろうなと思いながらも、やはり自身のそれを差しだした。
ゴブリンはそれを律儀に両手で受け取ったあと、丁寧に角を揃えたりしている。
「俺、桜井です。桜井俊夫──。ワードで作った割りに凝ってんじゃんなんていわれるヤツ、部屋にはあんだけど……。どうも済みません」
ゴブリン=桜井俊夫と名乗った男はこれがあの女騎士隊長を"ケツ穴串刺し"にする小説を書いた男かと思われるような恐縮振りだ。とはいえ、この手の男のほうが案外……。