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超絶傑作『ロストケア』観ましたー。(ネタバレあり)
はじめに
primevideoで松山ケンイチさん、長澤まさみさん主演の『ロストケア』観ましたー。少し前までLemino独占配信だった気がするのですが、primevideoでも観ることができるようになっていたので、早速視聴しました。
観る前は2016年7月26日に発生した『相模原障害者施設殺傷事件』に影響を受けて制作された作品なのだろうな、という予感をしておりましたが、予想を遙かに上回る深い作品でしたので記録したいと思いました。
![](https://assets.st-note.com/img/1724077550607-3KXvPqVUOn.jpg)
個人的な評価
ストーリー S
脚本 A+
構成・演出 S+
俳優 S+
思想 S++
音楽 A+
バランス B+
総合 S+
S→人生に深く刻まれる満足
A→大変に感動した
B→よかった
C→個人的にイマイチ
感想(ネタバレあり)
『ロストケア』は、介護の現場が抱える現実に鋭く切り込んだ作品であり、そのテーマの重さと深刻さが心に響く映画です。介護士が要介護者に頼まれて命を奪い、彼らを「喪失の介護」として解放するという衝撃的な展開は、単なるサスペンスを超え、介護に携わる人々の苦悩や絶望に対する強烈なメッセージを発信しています。
この映画の主人公である介護士は、心優しく、使命感を持って要介護者と向き合っています。彼は、介護される側だけでなく、介護する側もまた重い負担を抱えていることを自分の父親を看取った経験上身に染みて知っています。要介護者の依頼によって殺人という道を選ぶ彼の行動は、人命を奪う犯罪として断じることはできませんが、その動機には「介護地獄からの解放」という深い苦悩と信念があり、単純な悪と善の対立では割り切れない複雑な問題が浮かび上がります。
この作品が特に心に残るのは、介護に従事する人々の疲弊が無視され続けた結果として、主人公が「ロストケア=喪失の介護」という行動に駆り立てられる過程を描いていることです。彼にとって、要介護者を死に導くことは「救い」であり、彼らの苦しみを終わらせ、介護者自身をも解放するための行動だと信じています。この思い込みは、彼の純粋さから生じているものでありながら、その純粋さが暴力へと変質してしまう怖さを強く感じさせました。
また、映画に登場する女性検事は、法の執行者としての正義感に燃える人物でありながら、彼女自身の内面には大きな葛藤が存在しています。彼女は、自分の父親の面倒をみず無惨に孤独死させてしまった過去に対して深い後悔と罪悪感を抱えており、そのために介護の現場で起こる苦しみや絶望に共感する一方で、それを法的に裁く立場にあることに苦悩しています。この二重の立場が、彼女のキャラクターに深みを与え、物語を一層引き立たせています。
検事が犯人である介護士に対峙するシーンは、特に印象的でした。彼女は法の秩序を守るために彼を追い詰めながらも、同時に自分自身もまた介護の苦悩に対する無力感を抱いているため、彼の行為に対して単純に怒りをぶつけることができなくなります。この姿は、観客に「正義とは何か」「人を救うとはどういうことか」という根本的な問いを投げかけ、物語を超えて私たちの社会における介護の問題を考えさせられます。
『ロストケア』は、介護の現場に潜む「見捨てられた人々」の存在を浮き彫りにし、社会全体がこの問題にどう向き合うべきかを問いかけている作品です。介護の問題は決して個人の問題ではなく、社会全体の問題であり、現実的な解決策が求められています。本作は、その現実に目を向けさせる力強いメッセージを持ち、単なるエンターテインメントではなく、社会的な問題提起としての価値も高い作品だと感じました。
最後に、この映画が問いかける「喪失の介護」とは何かを考えずにはいられません。介護という行為そのものが、時として介護者や要介護者双方にとって重荷となり、誰も救われない結果をもたらしてしまう現実を見せつけられる中で、本当に彼らを「解放」するためには何が必要なのかを深く考えるきっかけとなりました。この映画を通じて、介護の現実に直面するすべての人々が感じる痛みや苦しみが、決して他人事ではないことを強く認識しました。