軋む(創作) ーリライト版ー
だって、何度もぶつけてきたから・・・・。
あっさりと落ちていくものだと思った。
成績にはわりと自信があったんだけど、自分で思ってたほど大したことはなかった。
中学入学からほどなくして、僕の天狗の鼻はあっさりとへし折られた。
最初のテストの順位は「下の上」。
叩きつけられた現実に、すぐに僕は対応しきれなかった。
僕は好成績が唯一の拠り所だったりしたから、一気にあらゆることへの自信を失くしてしまった。
何事も億劫になってしまい、学校でも家でもほとんどの時間を寝て過ごすようになった。
友達を作るのが苦手だった僕は、かといって『仲間外れ』『一人ぼっち』も絶対に嫌だったから、近くの席だった奴にだけは話し掛け、なんとなく仲良くはなった。
でも、それはあくまで「なんとなく」に過ぎなく、友達と呼べるほどの同級生はいなかったように思う。
そんなうちに、いつの間にか夏休みになった。
さすがは進学校で、成績が真ん中以下の生徒には『夏期講習』が課せられた。要は『補習』のことだ。もちろん僕も対象者だった。
学校に行くには、最寄りのバス停から15分程川沿いを歩いていかなくてはならない。
その日もいつも通りバスを降り、川沿いを学校へと向かっていた。
歩いていると、靴のかかと部分に何かが当たるのを感じた。5メーターくらい後ろから、圧し殺したような小さな3つの笑い声がした。
振り返ると、どうやら同級生達が川原の石を蹴って、僕にぶつけて遊んでいるようだ。まったく趣味の悪い奴らだ。
特に誰とつるむでもなく1番後ろの席でほぼ一日中寝ている僕のことを、『奴ら』はターゲットとして「くみし易し」と考えたのだろう。
「まあ、そんなこともあるんだろう。わからないでもない」
今までの経験から、僕は意外と淡白に現実を受け止めていた。
翌日もまたその翌日も、『奴ら』の「くだらない遊び」は続いた。
そして、日を追うごとに『奴ら』の笑い声はより大きく、陰湿なものに変わっていったように僕は感じた。
夏期講習は6日間。今日で3日目だから、折り返しになる。
僕もそこまで馬鹿じゃないから、対策を講じることにした。先生などはなから信用していないから、「やる」のはあくまで僕1人だ。
この3日間で『奴ら』のグループ内での力関係はだいたい把握出来たので、リーダー格の目星もついた。
『リーダー』と『残り2人』は、成績順で分けられた夏期講習でのグループが違うので、教室も別々だった。
僕は『残り2人』と同じ教室。『リーダー』だけが別の校舎にある教室で講習を受けていた。
4日目。
『奴ら』の悪ふざけは相変わらず続いている。僕が「やらねば」この遊びは6日間。いや、これからもずっと続くに違いない。
『決行日』を5日目と定めた僕は、この日を『奴ら』の観察へとあてた。
小学生時代のとある事情により喧嘩慣れしていた僕は、数的不利な状況での『兵法』を人よりはるかに理解していた。
『リーダー』と『残り2人』がそれぞれの教室へ行くために別校舎へと別れるタイミング。そして、人から見えない場所の確保。
そこさえ掴めば、僕には勝算しかなかった。だから、入念に下調べをした。
『決行日』の5日目がきた。
やはり『奴ら』の悪ふざけは続いていた。
まあ、そっちの方が今日は好都合だ。僕の決意をより強固にしてくれるから。
奴らが2グループに別れて、まず『残り2人』が校舎に入った。
『奴ら』はとうとう『奴』になった。
「ここだ!」
静かにそう呟いた僕は、『奴』に向かって全速力で走り寄った。
校舎の裏の草むらに『奴』を思い切り投げ飛ばした僕は、絶え間なくその腹部に蹴りを入れ続けた。
僕は「怪我にならない程度」を熟知していたので、『奴』が致命傷を負うことはなかった。
『奴』は僕のあまりの気迫に恐れをなしてか「ひえー」という漫画のような悲鳴をあげて、僕に許しを請う目を向けてきた。
何だか可笑しくなった僕は、攻撃をやめ校舎へ向かおうとした。
10メートルくらい歩いた時だろうか?
『奴』が小さな声で「覚えてろよ」と言ったのが聞こえた。
すぐさま『奴』の元に走り戻った僕は、今度は顔面にやはり怪我にはならない程度に強く一発の蹴りを見舞った。
僕は追撃を受けまいと顔を必死に隠しながら突っ伏す『奴』を揺り起こした。
そして、「殺したっていいんだぞ。なあ」と声を張るでもなく静かに伝えた。
『奴』はその場にへたり込み、肩を震わせ、大粒の涙を垂れ流しながら泣いていた。
翌日、『奴』は来なかった。
『奴』から『残り2人』にどのような伝言があったかは知らない。
体を硬直させながら教室の1番前の席に並び、後ろを決して振り返ることのなかった『残り2人』を、僕は後ろから冷めた目で見つめていた。
内側から魂が軋むような音が聞こえた気がした。
それから後、『奴ら』と僕がどうなったのか実はあんまり憶えていない。
そういえば、
「人を殺めると脳の一部が死ぬんだ」って、誰かが言ってたかもしれない。(2001字)
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