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本雑綱目 53 栗原堅三 味と香りの話

今回は栗原堅三著『味と香りの話』です。
岩波新書の赤、ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4004305637。
NDC分類では491、自然科学>基礎医学に分類しています。

これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。

★図書分類順索引

1.読前印象
 あれ? なんとなく文化の本のつもりで買った記憶があるけど、これは医学の本なのか。そうすると味覚と嗅覚の話だろうけど、岩波新書の赤だから神経伝達の話だけではないだろうし、多少文化に結びついたりするのかな。よくわからないので開く。

2.目次と前書きチェック
 はじめにを読むと、世の中では美味しい食べ物やアロマなんかに溢れてるけれど、それを科学的に解説した本は少ないのでエッセイ風味に書いてみるぞ! って感じ。うーん基礎研究といえば基礎研究だが、これらのジャンルが医学分野な認識がなかった。やっぱ生物学だよな? なるべく簡単に書いたが5章と8章は多少学問的すぎるかもしれないと書かれているので、なんとなくこれを読んでみようと思っている天邪鬼感。
 目次は『食べ物の味』、『暮らしのなかの香り』、『嗅覚の不思議』、『本能を支えるフェロモン』、『感覚器とそのはたらき』、『匂い物質と味物質』、『甘味物質』、『刺激物質を感知する』、『基礎研究から応用へ』、『おいしさの脳内機構』と続く。やはり理系感。
 5の『感覚器とそのはたらき』は寧ろ割と詳しい気がしなくもないけれど、ともあれ『感覚器とそのはたらき』と8の『刺激物質を感知する』、9の『基礎研究から応用へ』を読んでみようかと。

3.中身
『感覚器とそのはたらき』について。
 嗅覚味覚は化学物質を検知する感覚であり、体内の検知機器とは違い様々な化学物質を総合的に検知するという点から始まり、動物の受容器官と人間の味を感じるシステム(生化学)、味覚障害、嗅覚障害とはどのような症状がどのような機序によって発生するのか、それから臭いや味の客観的な評価方法についてが述べられている。
 比較的教科書的な記載で、確かにエッセイ的な面白さは乏しいけれど、知らなかった点も色々あって興味深い。動物での測定については初めての知見で興味深かったけれど(昆虫の触角すごいな)、人による臭気測定などは仕事柄この本より知識はあったりする。ただ、こういう化学的な話は苦手な人もたくさんいそうなので、はじめにの注意書きは正しい感じ。

『刺激物質を感知する』について。
 アクションゲーかというレベルで難易度を上げてきた。5を更に詳しくした内容ではあるものの、細胞内の受容体やナトリウムチャネルみたいな話で、正直生化学に興味がなければ何を言っているのかわからなさそう。例えば195頁の匂いの感知機構の整理で『嗅細胞の繊毛膜には、GTP結合タンパク質と連結している受容体が存在する。匂い物質がこの受容体と結合すると、細胞内のサイクリックAMP濃度が上昇し、細胞の内側からイオンチャネルを開ける。その結果、細胞電位が変化する』と書かれている。けど、はじめにで難しいから飛ばしてと書いてあるので、興味がなければ飛ばせばよいのだ(親切)。
 何故この内容が岩波新書の赤本(赤はだいたい文学)で出ているのか謎めいているが、そうすると他の章は文学的なのかな(そもそも民族の話だと思っていた理由が本の色。なお、自然科学なら普通は青かな?)。
 内容は味覚及び嗅覚の情報伝達について、受容体がどのように情報を受容し、そして伝達しているのかの話題。実験内容(仮定と条件、結果)と一緒に書かれているところが面白い。結果だけだとピンとこないことが多いから、その目的意識に基づく仮定の明示って結構重要。そして新発見で従前説が覆されることが多い分野なのだなと感じた。

『基礎研究から応用へ』について。
 5.8が難しいとはじめにに書かれていたから、9のこれは恐らく簡単な内容なのだろうと思って読み始める。
 リポタンパク質は苦みのみを遮断するので薬剤の苦みマスキング剤として使える話と、リポソームを応用してニオイセンサーを作る話。5より簡単とはあまり思えない件。
 それはそれとして、『イヌの嗅覚器には遠く及ばないが、カメやカエルの嗅覚器より感度が良くなった』という表現がなかなか業界感があって面白い。結構手探りで実験やってるんだなと感じる。センサーというのは数値化するということで工業用途になるだろうから、結構縁遠い世界かもしれない。つまり意識を向けようとしなければ視界に入ってこない分野の本。

 全体的に、思ったより理系マターの話でした。読む前提として高校生物化学よりは詳しい知識が必要かもしれない。それが前提に書かれている。面白いかというと面白いのだが、面白いと感じるかは人によるって感じ。感覚器の話が好きじゃないと面白くない気はするが、それは主に研究してる人か学生で、仮にそうだとすれば手に取るには内容が入口過ぎる気がしなくもない。
 小説に使えるかというと、例えばカメについて特定の化学物質の受容が温度(5度と40度)によって異なるという話は一定の温度によって匂いを感じないアリバイ的な発想で殺人事件に使えないかと思ったけれど、実験風景を考えるととても人間に対して行えない実験だろうから、なかなか難しいですね。マッドサイエンティストが独自実験で発見したトリック設定にしても、エセ科学以外の何ものでもない。理系の本はトリック考えるために読んでる気がしてきた。

4.結び
 そもそも購入時に誤解があったものの、味覚と嗅覚について知りたいときに読む程度にはライトな本とは思う、けれどもそんな機会はあんまりなさそうだ。動物実験を前提とした話が多いので少々興味から外れているのと、匂い・味の好悪の評価は学習によるものだと思うので僕の興味関心はむしろそちらかなと思う。なれずしや納豆、ブルーチーズの香りを如何にして好きになるかとかそういった感じの。
 次回は雑誌理想 1983年9月号、特集:東洋の身体論、です。
 ではまた明日! 多分!

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