本雑綱目 43 町田隆吉 グラフティ・歴史謎事典 8 シルクロードの謎
これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。
今回は町田隆吉著『グラフティ・歴史謎事典 8 シルクロードの謎』です。
光文社文庫のシリーズでISBN-13は 978-4334709006。
NDC分類では歴史>中国。ってことはシルクロードといっても敦煌あたりまでなんだろか。
1.読前印象
シルクロードについてはわりに詳しいけど、表紙のイラストは中央アジアっぽい風情がある。シルクロードという呼称は近代にドイツ人がつけたものだがこれを開いたのは漢武帝で、一般的にシルクロードと呼ばれる道は何本かある。ここでシルクロードについて語ってもあんまり意味はなさそうなので、さくさく進みましょう。
2.目次と前書きチェック
はしがきを読むと、リヒトホーフェンが名付けた時点のシルクロードはオアシスの道だけだったそうだ。そしてこの本では東西交易でなく南北交流も含めてトルファンを中心に出土物を踏まえてシルクロードの検証をするという内容のもよう。
トルファンのあたりはブドウの名産でさ、武帝は張騫や李広利のあとの調査隊が持ち帰ったブドウを離宮に植えたと漢書か何かにあった気がするな。葡萄唐草模様の始まりだ。
目次を見ると『オアシス都市トルファン』、『シルクロード謎事典』の二部構成で、謎事典には『草原の道編』、『オアシスの道編』、『海の道編』、『探求編』にわかれる。全体的に結構興味がある。張騫書きたいんだ張騫。
オアシス都市トルファンから『トルファン盆地小史』、草原の道編から『匈奴と漢の交易 絹馬交易』、オアシスの道編から『プトレマイオスの『地理書』にみえる敦煌』を読んでみます。
3.中身
『トルファン盆地小史』について。
耳慣れの問題で地名がさっぱり頭に入ってこないものの、トルファンを巡る地形や気候についてふれられ、オアシスの予想以上の豊かさに驚く。車師前国の交河城というと李広利の像があるところだなとニッチ過ぎる思いが湧くわけだが、漢以降、それなりの独立性を保持しながら漢人を中心としたさまざまな勢力がこの地を支配し、9世紀頃からウイグル人に占拠される。
それから20世紀の遺跡の発掘情報に話は飛び、乾燥地帯だから紙文書が残っているとある。これは結構すごい。資料として紙は一般的にとても残りにくいのだ。その希少性からも残されたのかもしれない。それから紙の普及や年号についての話を交えて中国の歴史の話が展開されるが、当然のように五胡十六国の知識を求められているあたり、この最初の部分で結構な脱落者が発生しそうなのでスルっと第二部に進むことをおすすめする。文体は読みやすいがグラフティとかライトな響きで手に取るには、必要知識えぐい。五胡十六国って日本じゃ名前も知られてないに等しいんじゃないだろうか。好きなんだけどさ、慕容一家の蛮族プレイとか。
『匈奴と漢の交易 絹馬交易』について。
武帝と匈奴の交易について、残された文章から当時主に平和的に交易していたとしているが、このへんは解釈違いなので置いておくとして、匈奴自身もトルファン周辺から税として様々な物品を収奪してそれを交易に用いたと書かれている。
このあたりは何をもって交易と呼ぶかという問題が潜んでいる。匈奴とオアシス国家と漢では恐らく『所有』という概念自体が大きく異なる。匈奴にとっては恐らく交易というよりは交換というほうが概念に近いかもしれない。その点でこの項目の大凡には安易に頷けないところはあるのだけれど、そのあたりの文化差異を考えていくとなかなかおもしろい論点ではある。
『プトレマイオスの『地理書』にみえる敦煌』について。
地理書におけるトロアナは敦煌であり、その根拠は音が近いことと位置関係、遺跡から発見されたソグド語の手紙だと述べる。周辺のイッセードーン族を桜蘭の鄯善、アスミライアを烏孫にあてているようだが、そもそも読みが大きく違うんだなという印象。地理書のシルクロード東は聞き書きだから、このあたりが大きくずれるのだろう。基本的に東西交易はバケツリレー方式で行われていたから、途中で色々情報が錯綜するはずだ。この本は基本的に中国史ベースに書かれているが、それ以外に目を向けても、例えば匈奴に追われた月氏がサマルカンドあたりで大月氏国をつくり、その後クシャーナ国を作ってインドに進出したりと上下にも動きがあって面白い。
全体的に、シルクロードに関連する国々について調べたいときにちろっと読むにはいい本だと思う。しかし第一部はいずれにせよスルーすべきだ。一部は挫ける。所々に地図や写真が散りばめられているのは良い。さすがグラフティ。
小説を書くにあたっては、この辺りの地域を書くにはいいかもしれないが、時代区分によって大きく変わるのでピンポイントで使える部分があるかというとわからない。それなら対象となる国の歴史を調べたほうがよい気はする。ただし小説で中央アジアを書いても売れないことは間違いないだろう。五胡十六国を書くにはいいんじゃないかとちろっと思ったが、やっぱり売れなさそう。
4.結び
シルクロード好きなんだけどさ、この辺の本書いても誰も読まないんだろうなっていう気がする不毛の地。だから書くとしたらベースを漢を置く張騫か、あるいはマルクス・アウレリウスが派遣した使節団が後漢桓帝を訪れた話(ただし海路)かなぁと思う。中央アジアスタートだと詰めないといけない知識が大きすぎる。
次回は夏坂健著『美食・大食家びっくり事典』です。
ではまた明日! 多分!
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