思い出のステーキ
遠い昔、高校の卒業式の日、私をその街でも評判のステーキ専門店に父母が連れて行ってくれた。
その店は目の前で肉を焼くお店で、もちろん私などは初めての経験だった。
まず、コーンスープが出て来る。それから、サラダ、そして目の前でジュージュー焼く肉が皿に載って私の前にやって来た。
「美味い」
初めて食べる専門店のステーキは、柔らかくて本当に美味しかった。
ペロッと食べてしまった私は、父も母もゆっくりと味わって食べていることに気づいて、『しまった』と思った。
『なんでゆっくり食べなかったんだー』
美味しいからとガツガツ食べた私....。
その後、私には食後のコーヒーが出されて、私は味わうようにゆっくりと飲んだ。ようやく父と母と合わせることが出来て、同じに食事を終えることが出来た。
「また来るよね?」
父に聞くと
「今日だけ。今日は特別だから」
「今日は特別だから」
そうか、卒業の日だもんね。特別なんだよね。
以来、その店とは縁が無くなり
私が大人になった頃は、その店は無くなった。
そして、私が親になり子どもたちの高校卒業式の日、夫と話し合い、特別な店に行くことにした。行った店はなぜか3人とも和食が良いと言ったので、懐石料理屋だった。
「此処、高いんじゃね?」
息子は聞いて来たが
「今日は、特別だから」
と父と同じように答えた。
2代に渡った卒業式の日のご馳走は、息子たちにも特別な日。息子たちも継いでくれたらうれしいなぁと思うのだった。
「今日は特別だから」
あの時の父の声は今でも胸に残っている。
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