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【作品紹介】陸前國 大蛸

 三陸地方の食文化や慣習に根差した根付作品「 陸前國シリーズ 」の 第3弾となる 陸前國 大蛸(りくぜんのくに おおだこ)が完成したので、遅ればせながらお披露目させて頂きます。

この蛸・・・かなり怒ってます。


§ 三陸沿岸は水蛸ミズダコの産地

 本作のモデルは、三陸の海坊主モンスター 大蛸おおたこです。
 三陸沿岸で水揚げされる蛸は、主にマダコミズダコの2種類が挙げられますが、ご存知の通り「マダコといえば明石」のイメージが強いですよね。さればこそ、三陸の海ならではの蛸としてミズダコをモデルにしたというわけです。

 三陸沿岸で美味しいミズダコが水揚げされる理由は幾つかありますが、一番は、多種多様な海藻が生育しており、タコの餌となる小魚や甲殻類が豊富だということが挙げられるでしょう。加えて、タコの天敵であるウツボが生息していないという理由も無視できないでしょうね。(もっとも、海水温上昇が叫ばれる昨今、ウツボの生息が可能な環境にならないとは限らないので心配です。)

 かような好条件が整った環境で大きく育った三陸産のミズダコは、その身の柔らかさから生食に適したタコとして重宝され、火を通すことで美味しさを増すマダコに劣らぬ食材として評価されています。

§ 蛸って縁起物?

 蛸もまた、根付のモチーフとして昔から用いられてきました。その理由は、縁起を担ぐという点において秀でていたからだと思われます。

 例えば

  • ハレの日に相応しい食材=茹でると紅白になる

  • 悪難を避ける=敵に襲われた時に墨を吐いて逃げる

  • 末広がり=足が八本ある

  • 多幸=蛸(たこ)という音

 といった具合に、縁起担ぎや願掛けに結びつく要素が多彩なのです。

 そんな魅力を持っている蛸ですが、生物的な特徴が際立っている点も根付のモチーフとして欠かせない要素になっていると感じています。

 第一に、生命力の強さを挙げたいですね。そもそも、心臓が3つある時点で最強ですし、外敵に襲われた時に、墨を吐くだけではなく、自ら足を切断して逃げることも可能(欠損した足は再生可能)なのだから大したものです。正に、サバイバル力に関しては別格だと言えるでしょう。
 次に、賢いと言う点も見逃せません。極めて賢いとされる脳(鏡像自己認知能力)を筆頭に、高レベルに神経が発達した八本の足(脳から独立しているとか)を持っているところが凄いですよね。

 イラストなどでは可愛らしく描けてしまう風貌の蛸ですが、海のモンスター(悪魔とも)と呼ばれた理由を想像すると、前出の様な賢さや生命力や運動機能に起因していると思われます。とまれ、個人的には、怒りを表す(体色の変化や皮膚の隆起)ところも大好きで、造形を嗜む者として強い魅力を感じてしまうのです。

蛸の縁起話 余話
宮城県は南三陸町には「オクトパス君」というキャラクターがいます。
英語の「オクトパス」から「置くとパスする=試験に合格」の意に転じさせたとのこと。素晴らしい願掛けですね。
我が家にも、同業の先輩からプレゼントされたオクトパス君が、リビングのカウンターの上で長らく鎮座しております。我が愚息二名の大願成就は、このオクトパス君の御利益もあったのでしょう(笑)。
興味のある方は 南三陸復興ダコの会 をご覧下さい。 

§ 作品概要

 本作もまた、他の陸前國シリーズの作品と同様に「命が食材となる境界の場面」を切りとっています。
 その場面の象徴でもある竹笊たけざるの大きさを上回る体躯のミズダコは、最後の最後まで野生の本能を発揮して足をくねらせているのです。

漢字の「八」を足で表現するように彫りました。

【製作年月】
 令和6年5月完成
【使用材料】
 本体:黄楊(ツゲ:御蔵島産)
 他の素材:水牛の角(蛸の目)
 仕上げ材:染料(ヤシャブシ)、イボタ蝋
 付属品:桐箱、手作りクッション、正絹組紐
 
【サイズ・長さ】 ※最大部分で計測した凡その寸法 
 本体サイズ:長辺 40㎜ × 短辺 31㎜ × 高さ(厚)22㎜
 桐箱サイズ(外寸):約 長辺 65㎜ × 短辺 65㎜ × 高さ 45㎜
 正絹紐長さ:概ね 160㎜ 前後

 その他の詳細は、クリーマのショップをご参照賜れれば幸いです。
 それでは、最後までご一読して頂き、本当に有難うございました。

蛸って「孤高」な感じがする。

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