【作品紹介】栗 いろいろ
いよいよ秋が深まってきましたね。
となれば「栗」が美味しい季節になってきたと(微笑)。
かく云う僕は、ここ数日間で、気の向くままに色々な栗を彫っておりました。まぁ、僕の「気の向くままに」は「迷走」を意味するので、お世辞にも褒められたものではありませんが(苦笑)。
と云うことで、此度は栗根付にまつわる話を綴ってみたいと思います。
基本中の基本だけに
木彫根付の数多あるお題の中にあって、この栗は「初級編」にあたると思われます。即ち、基本中の基本だと言い換えられるでしょう。
だから、五里霧中になると作りたくなるのかもしれませんね(汗)。
とかく、栗根付は材料を食わないし、何より栗自体がイメージし易いことから、多くの手間暇を費やさなくて済むので、お手軽なお題として認識されていたとしても不思議はありません。
さわさりながら、この栗根付の奥深さったらないのです。それは、名人上手と呼ばれた先達の作品を見れば一目瞭然でして…。
名人 藻己 の「栗」
僕が敬愛してやまない先達の一人に 森田 藻己 がいます。
明治晩期から昭和初期(明治12年12月生〜昭和18年12月没)に活躍した彼は、細密彫刻を得手とした根付師・彫刻家でした。
彼の作品「木彫魚尽し根付」「木彫向島土産根付」を初めて写真で見た時(かれこれ20年以上前)の事は今も忘れません。
超絶技巧に裏付けされた豊かな表現力に一頻り絶句した後、頭の中は「何をどう使って彫っているのか?」という疑問で一杯になりましたっけ…。
もっとも、この疑問は今も継続中ですが(苦笑)。
閑話休題。
本稿で 藻己 を引っ張り出してきた理由について触れておきましょう。
それは、かの高名な仏師・彫刻家の 高村 光雲 が愛用していた根付が、藻己の手による「栗」だったという史実です。
と…… この二人の偉大な芸術家・職人が織りなす物語について、若輩の僕が語るのは軽率に過ぎるので、賢明な識者の一文を引用しておきます。
上画像の「栗」の大きさは幅1寸(3.3㎝)とのこと。
この2㎠ にも満たない栗の座(底の部分)に掘られた微細な凹凸は、凡そ人間業とは思えませんよねぇ。
こうした先達の秀作を見ていると、今更ながらではありますが、自身が目指す山の高さに恐れ慄くのでした。
嗚呼…… 日々是精進 ですね(しみじみ)。
とまぁ、こんな感慨に耽りながら秋の夜は更けていくのでした(微笑)。