内省 5
内省 4 から続き
人の言葉を深く受けとり過ぎてしまう、という自分の性質もあいまって、なんとなくまた、だめなことをしてしまった気になった。
当時はわからなかったが、今よく考えてみると、
写実的な絵を得意とする先生は、デッサンや、パースを教えようとしていたのだと思う。
絵画教室での自分の仕事としてそのような想定をしていて、
しかし、いつまでたっても、ゆるいアニメキャラクターのようなものしか描かないこの子に、一体、何を教えれば良いのか?
と、先生の立場として、とまどったのかもしれない。
母親は、お城先生の連絡帳のコメントを読み、
「先生がこう言ってるんだから、そうしてみたら?(プロの人がそういうんだから) お母さん、絵のことはよくわかんないから。」的なことを言っていた。
…やはり、自分は間違っていた。期待されているものと違うものを描いてしまった。
母親にも、そう言われたような気がした。
己の欲求や価値観ではなく、周りの評価をモノサシとして生きていた私は、
「私が描いてる、こういうのは、絵じゃないんだ。× なんだ。」
と思った。
やっぱり、絵、苦手なんだ、と。
母親の価値観に感化され、何においても、「上に上に」と目指す癖がつき、自分に足りないところばかりを数えてしまう。
その、足りない自分、届かない自分を、『ダメなんだ』と思って、責めていた。
周りと比べてではなく、主観的に『自分はダメな人』だと思っていたのだ。
自己評価が低いが故に、自分を否定してしまう癖がついていた。
それは、クラスでの、人との関わりなどにも表れていたと思う。
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おじさん先生が目の前に座ったのは、そんなある時である。
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ある時、お城先生が、個展か何かの用事でお休みし、おじさん先生だけのお教室の日があった。
他の子同様、おじさん先生とうちとけ、仲良くなっていた私は、お教室の中では年長の方になっていたので、いつもお城先生がやっている先生の業務を教えてあげていた。
絵画教室の連絡帳があって、最後に先生がそれに感想を書いて渡していることを。。
おじさん先生は先生用の事務机まで行き、パラパラと私の連絡帳をめくり、それまでの記録を読んでいた。
例の「イラストレーションでなく実際のものを」という、お城先生のコメントのところで、おじさん先生の手がとまる。。。
「んー。こぉいうことはぁ、、あぁー書いちゃダメだよねえ。。」
と、いつも明るい先生が、渋い顔をして、言いにくそうに、
だが、珍しく不満げな感じで呟いた。
おもむろに私の前の小さい椅子に座り、しっかりと私と向き合った。
「たね子ちゃん。先生はこう書いてるけどね。。。
ぼくはね!たね子ちゃんの絵、好きだよ。なんていうのかな、
とてもあたたかい感じがするんだよね。」
ー「………。」
「あと、この色使い?
このお空の色なんて、とっても良いじゃない!きれいな青で。。。
途中に雲があるけど、はみ出さないで塗れていて、丁寧だし。。」
「こっちのね、ウサギのお洋服の上下の色の組み合わせも、ピンクにブルーで、とてもセンス、があるよね。」
ー「…センス?」
「あー、『センス』は、むずかしいか。うーんと、ファッショナブル。。。。これも、難しいね(笑)。おしゃれ、なかんじ?」
ー「……ふーん。」
「独特の世界があるよね。メルヘンの世界、というのかな。」
「…いてて。。やっぱり座りにくいな。ちょっとごめんね。
大人の椅子に。。」
幼児用の椅子は低すぎて、さすがに大人の男性にはきつかったのだろう。教卓にある先生用の回転椅子をひきずってきて、先生は座り直した。
幼児椅子に座った私からは、先程よりもかなり見上げる角度になる。
回転椅子にちょこんと座り、おじさん先生はこう言った。
「大きくなったらね、イラストレーター、ってわかる?
こういう、かわいい動物とか子どもとかの絵を描いたりする人のことだよ。
そういうお仕事をするのも、良いんじゃないかなあ。
かわいくて、うまくいきそうだよ。
もちろん、たね子ちゃんが、やりたいと思ったら…だけど、ね。」
私は狐につままれたような感じだった。
今まで、こんな風に、子どもに対して、人として話をしてくれるような大人はいなかった。
誰にも話されたことのない種類の言語を聞いているようで、ぽかんとしてしまった。
「なにか、自分のことを、誉められている気がする。。」
それまで、特に誰にもほめられることも無かった私の絵。
でも、先生はそれをとても良いと言ってくれた。
色合いや、色使いの組み合わせ、世界観など、あらゆる大人が使うような言葉でほめてくれた。
こんなことは、本当に、初めてだった!
通知表の5の評価だったり、
クラスの子と競って順位が決まるかけっこだったり、というような、他と比べて決まる相対的な評価。
そうではないものを、ほめられた。
はじめて、自分の内側から出た、描きたいもの、好きな世界。
それを、初めて、ほめられた!
だが、自己否定感が強いがゆえに、どう受け止めていいかわからなかった。
「ほめられるはずの無い自分」 と
「おじさん先生にほめられたという事実」 を、矛盾なく、
自分の中でつじつま合わせをするために、
「『それは絵ではない』と言われて、可哀想に思って、
先生は、必死でなぐさめてくれているのだろう、優しいから。」
と、思うことにした。
そうすれば、この2つに矛盾が起きない。。。
…子供の私は、最終的にはこの考えを採用することにした。
だが、その圧倒的な黒い自己否定におおわれた、自己の無意識の下には、なにか別の、一筋の光のような感情があったと思う……。
それがどういう感情なのかは、当時の私にはわからなかった。
内省 6へ続く
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